第27話 アリシア、出発前に揉める?

「えー! スーちゃんは一緒に行かないの⁉」


 わたしたち大使一行がいよいよ北の辺境の地『ダーマス』を目指して出発だーますって時に、スーちゃんの口からとんでもない言葉が出てきたよ。


『オレは一足先に女神ゲートを使って「ダーマス」の神殿に分身体を送り込んでおくから、お前たちは着いたら神殿に会いに来い』


「ずるいよー。わたしたち生身だから、ちゃんと歩いて移動しないといけないのにー。わたしもワープしたいー!」


 義妹なんだから特別におねがーい♡


『女神しか通れないゲートだから、こればっかりはな……。お前も女神になれば通れるようになるぞ』


 そんな無茶な……。


「アリシアはすでに俺の女神だよ」


「ちょっと黙ってろ♡」


 大使補佐見習いのスレッドリーくんは、話がややこしくなるからそっちの隅でアリンコでも眺めててね。


「お、おう……」


 素直に言うこと聞けてエラいでちゅねー♡ あとで飴あげまちゅねー♡



 少しスレッドリーから離れて、スーちゃんとコソコソ話。


「ねぇ、スーちゃん困るよー。一応護衛の人たちがいるとはいってもさ、このままだとスレッドリーと2人きりで旅しなきゃいけないでしょー。すっごい気まずいよー」


『予行演習だと思って、未来の夫の世話をしてやればいいじゃないか』


 やけにニヤついた顔でわたしの頭を撫でてくるスーちゃん。女神様がして良い顔じゃないですよ! 絶対やらしいこと考えてる! ムッツリ女神様!


「何の予行演習……とは聞きませんけど! そういうのは男女平等の精神に反すると思います! むしろ活躍しているわたしのほうのお世話をしてほしいものですね!」


『それなら王子にお世話されればいいじゃないか。2人きりで汗を拭いてもらったり、着替えさせたり、いろいろしてもらえばいい』


「そ、そんなの! もしスレッドリーがわたしの溢れ出る色気に耐えられなくなって襲ってきたらどうするんですか⁉」


 結婚前の男女がそんな!


『本当に嫌なら、お前が軽く殴れば簡単に吹き飛ぶだろう?』


 うぅ……ぅぅーん。

 そう、ですけど……でもー!


『すべてお前の意思次第だろ』


「そう言われちゃったら……何も言い返せないじゃないですか!」


『それならこれで話は決まりだな。「ダーマス」で待つ。せいぜい2人旅を楽しめよ~』


 ああっ!

 行っちゃった……。


 うー! どうしようかな……。

 言われた通り、アリの行列を眺め続けるこの男と3週間近くも一緒に旅を……。


 うん、そうだ、わかった!

 スーちゃんが好き勝手やり始めたんだし、わたしも好き勝手しよう!

 それがいいよね!


「ちょっとスレッドリー!」


「おう?」


 呼ばれたスレッドリーが、しゃがんだまま首をひねってこちらを見てくる。


「今から王様――陛下のところに行ってくるから、ちょっとここで待っててくれる?」


「それなら俺も行くよ」


 立ち上がろうとするスレッドリーを押しとどめる。


「ううん、大丈夫。わたし1人で話したいし。ほら、ポッキーでもあげるから1人でお留守番していてくれる? 良い子にできる?」


「……お、おう」


 素直に返事ができたご褒美に、袋詰めにしたポッキーのチョコ味を手渡してあげる。わたしの言うことを聞いたらご褒美がある。それだけ覚えておきなさいね♪


「じゃあ、いってきまーす」



* * *


 大臣さんを捕まえて、なんとか短い時間だけど王様と面会の許可を得る。


「それでアリシア、話って何? トラブルかい? もう『ダーマス』に向けて出発したものだと思っていたよ」


「陛下、急にお時間をいただきありがとうございます。今ちょうど出発しようとしたところでスーちゃんがですね――」


 というわけで手短にね! 冗談を交えず、誇張もせず、事実と希望だけを伝える。


「なるほどね、話はよく分かったよ。さすがにスレッドリーもわきまえているとは思うけれど、たしかにまだ2人きりは気まずいか……」


 王様は笑い飛ばすことなく、わたしの話を真剣に受け止めてくれたみたい。

 ありがとうございます。話の分かるお父様で助かります!


「なので、どうせ2人きりなら、もういっそのこと護衛の騎士団はなしってことにしてもらって、わたしの魔道具で機動性を上げて旅程を短くして切り抜けたいなーって思いまして」

 

「そうだね。念のため形式的につけていただけだし、護衛をなしにするのは良いと思うよ。正直アリシアは1個小隊よりもずっと強いだろうからね。でもそれだと本質的な解決にはなっていないかな」


 王様が小さく首を振る。

 

「結局2人きりのままで気まずいのは変わりないじゃない?」


 まあ、それはそうなんですけどね……。

 でもスーちゃんが一緒に行ってくれない以上、それは諦めるしかないし……。


「ほかに誰か連れていけばいいじゃない。たとえば、スレッドリーの世話係のラッシュとメイドのラダリィなんかはどう? たしか2人とは仲が良いんだよね?」


「なるほど⁉ それすごく良いですね!」


 すごい! 王様ナイスアイディアだよ!

 ラッシュさんとラダリィなら、わたしも知らない人じゃないし、4人なら気まずくもならないし!


 すごい!

 王様ってば天才だ!


「じゃあ決まりだね。騎士団は連れていかない。その代わり、ラッシュとラダリィをお供につけよう」


「はい! 助かります!」


 王様のおかげで楽しい旅になりそう♡

 さっそく出発だー!

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