第26話 アリシア、国の未来を任される

「アリシア、帰るのはちょっと待ってね。お仕事の話が残っているから、少しだけボクにも話させてよ」


 王様がにこやかに微笑む。

 完全に忘れていました! お仕事ね! 大使のお仕事のことを聞くんでしたね!


「スークル様がいてくださるから、アリシアはついていくだけで大丈夫なんだけど、それだけだと心配になったら困るから、簡単に段取りだけは説明しておくね」


「はーい。お願いしまーす」


 お義姉ちゃんと一緒♡

 スーちゃんに腕を絡めて王様の話を聞く。


『おい、そんなにくっつくなって』


 はーい♡


『まったく……。おい、ストラルド。早めに話を進めてくれ』


 スーちゃんが無理やり腕を引っこ抜こうとしてくるので、肘を引っかけてがっちりとホールド。離さないもん♡


「会見の場所は予定通りというか、『ダーマス』に決まったよ。すでにスークル様が先方と約束を取り付けてくださっているからね。相手方の要望も聞き取り済み。基本は何事もなく調印式に臨んでくれればいいからね」


「調印式に臨む?」


「サインするのは国の代表を務めるアリシアの役目だよ」


「え? わたし⁉」


 スレッドリーも一緒に行く予定なのに?


「大使はあくまでもアリシアだからね。ほかのメンバーはみんなアリシアのサポート役だよ」


『サポートは任せろ。かつては「サポートの鬼」と呼ばれたこのオレがすべて何とかしてやる』


 スーちゃんが歯を光らせて笑う。

 大雑把な性格のスーちゃんがサポート役って……。女神様なのに鬼って……なんかいろいろダメそう。


『失礼なヤツだな。交渉事はオレの担当なんだぞ』


「そうなんだ……。ものすごく意外過ぎる!」


『お義姉ちゃんになんて言い草だ。オレが出張れば交渉はまとまる。そういうものなんだよ』


 やっぱりお義姉ちゃんかっこいい♡ 抱いて♡


『お互いの要望を盛り込んだ書面は用意していく。それに両国がサインをすればそれで終わりだ。簡単な仕事だろう?』


「まあ、それだけ聞くと……そうですね」


「アリシアの活躍する姿をスレッドリーにも見せてやってよ」


「うーん? なんかそれって、普通は逆じゃないですか?」


「逆ってどういうことだい?」


「だって、スレッドリーが活躍している姿をわたしに見せて、『お、殿下もかっこいいところあるじゃない』的な感じで見直して惚れる、みたいなのが普通のシナリオではないですか?」


 なんでわたしの活躍する姿を見せないといけないの?


「たしかにそうだねえ。でもさ、スレッドリーに任せたら失敗しそうじゃない?」


「失敗しそうですね」


「さすがに国同士の話だから、失敗したら困るんだよね」


 至って冷静。

 さすが王様と言うべきか。身内贔屓なんて一切なく、必要なところに必要な人材をあてがう。正しすぎる。でもスレッドリーがちょっとかわいそう……。


「まあ、荒事になることもないだろうけど、スレッドリーはボディーガードとしてでも考えておいてよ」


「ハハハ」


 さすがにそのジョークはおもしろすぎますよ。

 わたし、スーちゃん、スレッドリー。

 この3人のうち、一番弱くて守られるべきなのは誰かな?


「あ、そうだそうだ。1つ言い忘れてたよ」


 王様が思い出したように何度か頷く。髭が揺れる。


「今回の会見ね、ノーアも同席することになったから」


「ノーアさんが? なんでまた?」


 なにがしかの探求で忙しそうなのに。それに簡単な調印式なら、国の超重要人物ににして万能の願望器・賢者の石ことノーアさんが出張るような交渉事でもないでしょう?


「なんかね、ノーアが行きたいんだってさ。何でなのかはわからないけれど、興味があるみたい」


「興味、ですか? へぇー」


 わたしを助けに来てくれた時に、少しだけ『殿』と接点を持ったからかな? 思念体と触れ合う機会を得たかった、とか?


『ノーアがいるなら、何が起きても安心だな』


 うへぇー、スーちゃん、それフラグだよー。

 調印式に臨むだけの簡単なお仕事っていうだけでも、めちゃくちゃフラグっぽいのに、今のでもう、完璧にフラグが立っちゃいましたよ。絶対何か良くないことが起きるって……。


『またまた。前世でいうところの「お約束」というやつだな。この世界にそういうものはないから大船に乗ったつもりでいろよ』


 あー、どんどんフラグを重ねていく……。


『大使の仕事が終わったら、我が義妹の将来について話し合おうじゃないか』


 あー、この会見が終わったらわたし、結婚……しないからね⁉ 


「詳しい旅程はあとで大臣から聞いてよ。この国の未来はアリシアにかかっているからね。後は頼むよ」


 王様が髭を一撫ですると握手を求めてきた。


「国の未来って……。さっきまでサインするだけの簡単なお仕事って言っていたのに、急に重たいプレッシャーかけてきますね……」


 わたしは愛想笑いを浮かべながら王様の手を取り、握手に応じる。


「一応ね、ボクも王様だからさ。こういうことも言わないといけない立場なんだよ」


「それは……大変そうですね……」


 愛想笑いから乾いた笑いへ。


 なんかこの旅、どう考えても一筋縄ではいかなそう……。

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