第24話 アリシア、王様に興味を持たれる

 それからしばらくの間、王妃・サニモリス様がパーティー会場をローラーシューズで優雅に滑り続ける姿をパーティー参加者みんなで見つめるという謎の時間が過ぎていった。


 まあ、ご本人と陛下がとても楽しそうなので良いことだとは思うんですけどね。ローラーシューズショーに興味を持たれていたお姉様方が、サニモリス様に続いてローラーシューズで滑りたいと言ってこなかったのは意外でした。見たいだけで自分で滑るのには興味がないのかな。


 おっと、こんなことをやっている場合じゃないね!

 そろそろ追加のお料理を出さないとなー。

 宮廷料理人の方たちがわたしの出した料理たちにどんな評価をしているのか気になるけど、ひとまず厨房に戻ろうかな。あとで感想を聞けるといいな。


「わたし、そろそろ厨房に戻るから、ローラーシューズのことはみんなでお願いね」


「「「Yes! 暴君少女!」」」


 良い返事ね♪ でもパーティー参加者の方がびっくりするから人に聞こえるように呼ぶのは絶対やめて? 次言ったヤツぶん殴るぞ?


「じゃあ陛下。わたし戻ります。そういえば、ドリーちゃん――スレッドリーはどうしたんですか? ずっと姿が見えないようですけど」


「ああ、スレッドリーは謹慎中でトイレ掃除をさせているよ」


「謹慎? アイツ、何かやらかしたんですか?」


 謹慎でトイレ掃除って、学校の罰当番じゃないんだから……。


「メイドのラダリィから聞いたよ。アリシアの部屋を訪ねていって迷惑をかけたんだって? 大切なお仲間が集まって、このパーティーの準備をしてくれているのを邪魔したりして。申し開きを求めても言い訳ばかりで困ってしまってね。これ以上アリシアに迷惑をかけたら困るし、パーティーには参加させないことにしたんだよ」


「なんと……」


 ラダリィ、わざわざそんなこと報告しなくても良かったのに……。なんだか大事になっちゃってるじゃないのさ。


 ラダリィの姿を探して会場を見回すと、末席のほうで同僚のメイドさんたちと談笑している姿があった。

 うーん、今は良いか。楽しそうだし。


「別にわたしは気にしてないですよー。なんだかそのあと、エリオット――この筋肉ムキムキの浅黒い男と仲良くなったらしくて、2人で朝のトレーニングなんかもしていたみたいですし?」


「そうなんだ? アリシアも、エリオットさんも怒っていないの?」


 陛下が、わたしとエリオットを交互に見る。

 エリオットが近寄ってきて、すかさず助け舟を出す。


「滅相もございません。スレッドリー殿下とはもう、気の置けない友人だと思っていますよ」


「そうかい? スレッドリーは根が真面目なんだけど、視野が狭くてね。とくにその、アリシアのこととなると周りが見えなくなっちゃうみたいなんだ。それで不快な想いをさせていたらごめんね」


「いいえいいえ。俺……私たちはむしろ喜んでいますよ。まさかあの暴君に貰い手が現れるなんてね」


「おい! ちょっと!」

 

 陛下の前で余計なこと言わないで!

 変なイメージがついちゃうでしょ!


「暴君って?」


 ああっ、陛下が食いついちゃったじゃない!


「アリシアちゃんは、ガーランドではちょっとした有名人なんすよ~」


 セイヤーまで話に入ってくる。顔が赤い……さては酔っぱらってるな? 酔っぱらいはあっちいきなさいって!


「そうなんだ? でも、これだけ美しくて料理もできたら、それは有名にもなるよね」


 陛下が何度も深く頷かれる。

 美しいだなんてそんなそんな♡


「あ~そうじゃないっすよ~」


 おい、そこ否定すんなっ!


「料理ができるのはあってるっすけど、アリシアちゃんは仮成人の頃から成人男性を100人も従えてお店を切り盛りしているっすからね~。とにかく仕事に熱心で、ちょっとでも手を抜いたりしたヤツを見つけたら、殴る蹴る半殺しの全殺しは当たり前なんすよ。そこにいるエリオットなんて、あと少しで玉を吹っ飛ばされるところだったんすからね!」


 ちょちょちょっ!


「ああっ、陛下! いいいいい今の話はー、ほとんどウソですからね! まーたセイヤーくんたらすぐに話を盛っちゃってー! 酔っぱらってるのね? そうね⁉ もー、そういうのはお酒の席での与太話にしておいてよね! 陛下が勘違いしちゃうでしょ!」


 おまえ、ちょっとこっち来い!

 その口、この新型ポーション(溶解液)を振りかけて、二度としゃべれないようにしてやろうか!


「え~でも、暴君はとっても力が強いんですよ。ボクたちじゃぜんぜんかなわないし。エリオットが殴られて大ケガしたのもホントです。すぐに暴君が治してくれたけど」


 こらー、エデン!

 話に入ってこないで良いから、そっちの隅っこでも見つめて人見知りしときなさい!


「俺はあの時の記憶がないんですよね。起きたらケガは治っていたし。暴君が開発した『治癒ポーション』ってやつを振りかけると、どんなケガもたちどころに治ってしまうんですよ」


「ほ~、治癒ポーション? それはすごいね。詳しく話を聞きたいな」


 ああっ、治癒ポーションもひっそりこっそり案件なのに! ミィちゃんに怒られちゃう!


「あー、えーと、治癒ポーションはその……いろいろな薬草を混ぜて、なんやかんやしたら出来上がった新種のポーションでー」


「マーナヒリン様の涙を調合しているって言ってなかったすか?」


 このーーーーー! おしゃべりくそ野郎っっっっ!

 それは企業秘密だって言ったでしょう!


「ほ~、水の女神・マーナヒリン様の涙を? 一滴で寿命が10年延びるという伝説の……」


「え、ええ。まあ……そんなような噂もありますね……?」


 けっこうな頻度でマーちゃんから涙をもらっているなんて知られたら軍事利用とかされちゃうかも……。それはさすがにまずいよね……。


「アリシアは料理だけじゃなくてポーションも作れちゃうんだね。すごいな~」


 あれ? 陛下? ただ感心するだけ? 取り越し苦労だった?


「暴君は魔道具開発もたくさんしているんですよ。なんでも斬れるライトサーベルはかっこいいです」


 ああっ、せっかくポーションの話がうまく流れそうだったのに、魔道具のことまで! 秘密だって言ってるでしょ!


「ライトサーベル? そういえばスレッドリーもそんなこと言っていたっけ。立ち合いで手も足も出なかったって」


「そ、そんなこともありましたっけね。オホホホホ」


「アリシアはなんだかいろいろなことができそうだね。興味が出てきちゃったよ」


「あ、ありがとうございます! わたしなんてそんなたいしたものじゃありませんよ? あーーーーー、そろそろ料理を準備しに戻らないと! 陛下、また後ほどー!」


 わたしは捨て台詞を残し、爆速でパーティー会場を抜け出す。


 まずいよー。これはまずい。

 いろいろバレちゃったよ……。


 アイツら調子に乗って! あとできっついお仕置きだ!

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