第21話 アリシア、チームドラゴンを招集する
「みんな、急に王宮に呼び出したりしてごめんね。でもすぐに来てくれてありがとう! ホント助かる!」
ソフィーさんを通じて、ローラーシューズショーの出演メンバー――チームドラゴンのエリオット、セイヤー、エデンを王宮に呼び寄せていた。
「暴君の命令は絶対だよ」
「それ懐かしいな!」
「原点回帰っすね」
3人がうれしそうに話す。
旅の疲れもなさそうだし、けっこうリラックスしていそう。もうずっと人前に立ち続けている3人だし、さすがの貫禄ね。安心したわー。
「あと1週間後に特別公演があるわけだけどいける? 初めての出張公演よねー。いやー、いきなりクライマックス! まさかの王宮よ? しかも陛下並びに国の重要人物たちが勢ぞろいなのよ……」
「腕が鳴るっすね!」
「そんな人たちにこの筋肉を見てもらえるなんてしあわせだな」
「暴君も一緒に踊るの?」
自信を見せるセイヤーとエリオット。そしてエデンは期待に満ちた目でわたしを見てくる。
「ごめんね。わたしは料理担当だから、一緒には出演できないし、当日現場にも立ち会えないんだ」
ホントは一緒に滑りたいし、そうじゃなくてもそばにいてあげたいんだけどね。こればっかりは体が2つないと難しそう。
「残念……。でもボクたちがんばるよ。暴君の顔に泥を塗らないように精一杯ね!」
「任せるっすよ」
「おう!」
エリオットのマッスルポーズ。仕上がってるなー。
お姉様方が筋肉好きだと良いんだけど……。
ガンガンガン。
と、わたしの泊まっている部屋――貴人の間の扉を激しく叩く音が聞こえてくる。
「アリシア~~~~~~~~~~~!」
誰だー! 和やかなムードのチームミーティングを邪魔するやつは⁉
ってー、スレッドリーしかいないか……。毎度のことながら、静かに訪問して来れないわけ?
「何なの? 今チームのミーティング中なんだけど? 部外者はご遠慮願えます?」
ドアをほんの少しだけ開けて冷たくあしらう。
「今この部屋に男が入っていったと聞いたぞ! 大丈夫か~⁉」
「大丈夫とかないし。身内だから……。言ったでしょ! チームのミーティングしてるのよ! パーティーは1週間後で切羽詰まってるんだから、用事は後にしてくれる? じゃあね」
ドアを閉めようとする。が、スレッドリーが寸でのところで足をねじ込んでドアが閉まるのを阻止してきた!
「ダメだ! 男と部屋に籠ってはいけない! 万が一間違いがあったら!」
顔を青ざめ泣きそうな顔。
だからそういうのじゃないって……。もうこのまま問答無用で足を粉砕してドアを閉めるよっかな……。
「はぁ……間違いってそんなことあるわけないでしょ……。ずっと一緒にいる家族みたいなものなのよ。そもそもわたしが一番強いし、何にも起きないわよ……」
なんならエデンとは長く一緒に旅もしていたもんね。まあ、もちろんわたしだけ別テントで寝てたけど。
「しかし!」
「はいはい、わかりました。じゃあ、ラダリィ? そこにいるんでしょ?」
おそらくスレッドリーの後ろに控えていると思われるラダリィに声をかけてみる。
「はい、こちらにいます」
スレッドリーがいればラダリィがいる。
最近はスレッドリーが暴走しないようにお目付け役みたいになってるね。助かるけど。でもちょっと煽っている節もあるから、それは自重してほしいけど!
「ラダリィだけ中に入って。心配性のスレッドリーがね、わたしが男たちと一緒にいると間違いがあるかもしれないんですってー」
「それはそれは。アリシアに相手にされないあまり、身内の方にまで嫉妬をなさるとは……殿下は心まで醜悪になられてしまわれて……」
「醜悪とは何だ! 俺はただアリシアのことを心配してだな!」
「わかりました。ここは私にお任せください。部外者の殿下はご自分のお部屋にお帰りになって、剣の素振りでもされたらいかがですか?」
「だが……」
「殿下! 聞き分けがないとアリシアに嫌われますよ」
食い下がるスレッドリーだったけれど、ラダリィが強い口調で制止する。
「うぅ……」
「殿下。そうです。少し余裕を見せられたほうが好感が持てますよ」
一転してやさしい口調で。
「……わかった。後は頼む……」
スレッドリーは肩を落とし、一瞬だけこちらを振り返ると、とぼとぼと去っていった。うまいこと乗りこなしてるなー。見習いたい。
「ラダリィ、ありがと。でもちょっとかわいそうだったかな?」
「大丈夫ですよ。アリシアも、この忙しい時に女々しい殿下に煩わされたくはないでしょう」
「まあそう、よね……。ラダリィがいてくれて助かるわ」
「いえいえ。ではさっそく中に入らせていただきます!」
わたしの答えを待たずにラダリィが勢いよく扉を開け放ち、部屋の中へ。
「キャ~♡ おひさしぶりでございます。エデン様♡」
ああ、スレッドリーを想っての行動じゃなくて、完全に私情でしたね……。
まあいいですけどねー。
ラダリィは白薔薇のお兄様ことエデンのことを、恋愛感情抜きに人として慕っているだけですし?
「あ、あの時の。どうも……」
エデンさん、女性苦手オーラを発生中。
押しの強いラダリィと、押しに弱いエデン。
まあでもラダリィはエデンに恋しているわけじゃないから、ただ単にエデンと仲良くなりたいだけで、放っておいても平気だから……って、わたしは誰に何の言い訳をしているの?
「はいはい。ちょっと邪魔が入ったけど、ミーティングの続きをするよ!」
「私はみなさんのお邪魔にならないように、お茶の用意でもしておりますね」
ニコニコ顔のラダリィが部屋の隅に向かって歩いていく。
普通に気が利くし、ラダリィがそばにいてくれると助かるんだけど……ちょっとだけモヤッとしますね……。
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