第19話 アリシア、手料理を振る舞う約束をする?

「お、この肉もうまいな。こっちのスープも。なかなかこの店、料理のレベルが高いぞ」


 ハイテンションのまま、スレッドリーがガツガツと目の前の料理を平らげていく。

 ホント現金というかなんというか……。テンションが褒められた後の犬みたい。わかりやす過ぎてちょっとかわいいけどさー。


「殿下、このお店を気に入っていただき光栄です。もしアリシアとデートにご利用なさるおつもりなら、予約の際にはデュークを指名してくださいね。指名料が入りますので」


 指名料って……。ラダリィさん健気……。

 もうなんかさ、デュークさんもちゃんと付き合ってあげてよ……。


「わかった。しかし、やはりアリシアの料理には遠く及ばんな」


 ポロリと零したその言葉が、わたしの中に染み入ってくる。

 もうっ、そういうところだぞ……。


「殿下はアリシアの手料理を召し上がったことがあるのですか?」


「おう。この間のロイス嬢の結婚披露パーティーな。あれはアリシアが作ったものなんだろう? あとで聞いて驚いたよ」


「うん、あれはわたしが作ったよ。なんかスーちゃんの準備不足で、宮廷料理人の人たち全員お休みを与えちゃってて、誰も料理できる人がいなかったのよ……焦ったわー」


 スーちゃんにはまだあの時の貸しを返してもらってない!

 覚悟しておいてよね!


「私も少しだけ参加していましたが、半日ほどであの規模のパーティー料理を……。考えられない偉業です……」


 ラダリィが恐ろしい、といった具合に体を震わせる。

 そっか、ラダリィはあの時は接客をちょっとサポートしてもらうくらいのノリで入ってもらってたから、料理のほうの裏側事情は知らなかったのね。


「まあねー。一応お店のプロデュースもしてるし、大量に料理を作るのは慣れてるから、ギリギリ何とかなったかなーって。いつもお店で出しているようなものばかりで、特別なパーティー料理は用意できなかったけどね」


 もう正直なりふり構っていられなかったから、ウェディングケーキとか、一品料理のものはガンガン『創作』スキルで創っちゃってたもんね。材料をもとに『創作』って、あれはホントに料理って言って良かったのかな? 一応盛り付けの調整とかはちゃんとしたけどね?


「アリシアの料理、また食べたいな……」


 だからそういうところだぞ!

 なんで「うぉ~! アリシアの手料理俺に食わせろ~!」みたいないつものノリで言ってこないの? しみじみ言われちゃったら、ダメって突っぱねづらいでしょ!


「そう言えば陛下にもお料理を振る舞うご予定があるとお聞きしました」


「え、うん、なんか頼まれたけどさ。それ、誰から聞いたの?」


 謁見の時の話だし、わたしと王様とスーちゃんしかいないはずなのに。ああいう密談みたいな話ってどっかしらから漏れるっていうけど、いったいどこからなんだろ?


「陛下がスキップしながら触れ回っていらっしゃいましたよ」


「まさかの本人からだったわ……」


 楽しみにしてくださるのは良いけどさ、王様としての威厳をね? スキップを臣下に見られるのはダメなんじゃないかな?


「父上だけずるいぞ」


「スレッドリーも同席すればいいでしょ。1人分も2人分も料理を作る手間は変わらないんだし」


「いいのか……?」


 スレッドリーの食事をする手が止まる。


「陛下が良いっておっしゃられたらね? そこはわたしには保証できないから、自分で交渉してよねー」


「やった! またアリシアの手料理が食べられるぞ!」


 立ち上がり、わざわざわたしの席までやってきて、手を握ってくる。ちょっと涙流してるじゃないのさ。大げさー。


「喜びすぎだって。まだ陛下からお許しが出たわけじゃないんだよ?」


「死んでも何とか説得するぞ!」


「食事のために死なないで」


「殿下、良かったですね。これで思い残すこともないでしょう」


「いや、ほんのり殺そうとしないで……」


 ラダリィも冗談で言っているのか本気なのか迷う時があるから……。まあ、今は表情的に冗談っぽいけど。


 軽い気持ちで考えていたけど、そんなに楽しみにされてしまっていると聞いたからには、ちょっとポップコーンを手渡すだけじゃダメそうだね……。やっぱりフルコース的に考えないといけないかな。ロイスの結婚披露パーティーとは違うラインナップ……けっこう大変だぞ。


「ではこの食事が終わったら、さっそく城に戻って陛下に交渉をなさったほうがよろしいのではないでしょうか」


「おう! 善は急げだ!」


 スレッドリーの食事をする手がスピードアップする。

 1人ですべて平らげる勢い。男の子の食欲ってすごいね。パーティーのお料理はたくさん用意しなきゃ。


「別にわたしはいいんだけどさー、つまり今日のデートってこれでもう終わりで良いの? なんかこのあとのプランもありそうな雰囲気だった気がしてたけど」


「ああ、いいのですよ。またの機会に取っておきましょう。それよりアリシアのお食事会のほうがよっぽどおもしろそうですし」


 わたしとスレッドリーを交互に見ながらニヤニヤするラダリィさん。


 ラダリィの原動力って……。

 スレッドリーのために動いているのか、からかって遊んでいるだけなのか、ホントわかんない人だなー。

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