第16話 アリシア、遅めの昼食を食べる
「そろそろ遅めのお昼ご飯にいたしましょうか」
ラダリィさん、この雰囲気で食事に行くのですか……?
けっこうヤバい空気ですけど……?
「今日は私のおすすめのお店を予約しておりますから、お2人とも楽しみにしていてください」
大丈夫ですか? この雰囲気で楽しめますかね……?
ラダリィさんはなんとなく編集点がある感じで明るくお話をスタートされていますけど、スレッドリーのこの姿は無視ですか?
「これから行くお店は、果たして料理店を営むアリシアの舌を唸らせることができるでしょうか」
食リポみたいな感じで、すっごく盛り上がっているところ悪いんだけど……スレッドリーがね? 涙でできた水たまりの中で打ちひしがれていらっしゃるのですが……。まあでも、それはわたしがとどめを刺したせいか……。
「仕方ない。責任を取って、とりあえずわたしが引き摺って行きますか」
そのうち復活する、かな?
* * *
「おー、ここ? めちゃくちゃ高級店って感じだ!」
ラダリィに連れてこられたお店。お店の大きさは『龍神の館』の3倍くらいはありそう。さすが王都の高級料理店! 規模が違うねー。
お店の前にずらりと並ぶ7女神様の石像。女神様がお客様をお出迎えしてくれているのね!
ふふ、ミィちゃんけっこう似てる♡ でも胸のところだけピカピカに磨かれているのは……もしかしてみんな触ってる? うーん、マーちゃんとスーちゃんはあんまり似てないなー。リンちゃんに至っては「これ誰?」状態なんですが……。ほかの女神様はお会いしたことないからわからないや。
「このお店は王都に滞在される貴族の方たちもよくご利用になるお店です。店内は基本的にすべて個室になっているので、秘密の会合もできますよ」
ラダリィさんが「秘密の会合」って言うと、すごくエッチな感じになりますよね……。やっぱりデュークさんとよくご利用されるんですか? 2人きりで個室に……どんなことするんだろう……。ね、スレッドリー? ねえ、ちょっとー。わたしがせっかく手を繋いで(一方的に手を引いて)連れてきてあげてるのに、いつまでそんな抜け殻みたいになってるのさ。もういい加減復活しなさいよ!
「もう殿下はダメそうですね。表に捨てていきましょうか」
ラダリィさん相変わらずドライですね。
まあでも、たしかに食事するのには邪魔かもしれないから、ミィちゃんの石像の下にでも置いていこうかな。良い人に拾われるんだよ……。
「じゃあね、スレッドリー。またあとでね。……ん、手を離して? わたし、このお店でご飯食べてくるから」
スレッドリーはミィちゃん(石像)の前に座り込んだまま、まったく動かない。それなのに、わたしの手を離そうとしない。
何? 淋しいの? だったらシャキッとして一緒に行こうよ。
「アリシア……」
「うわっ、しゃべった⁉」
「アリシア……」
わたしの名前をつぶやく亡霊?
「何よ?」
「俺は練習はしないから……」
「え?」
「初めてはアリシアと――」
あーあ、スレッドリーが眠っちゃった。
練習とか何とか、きっと夢の中での寝言だったのかな。
「ここに置いていくと淋しいみたいだからさー。連れて行ってあげますかー。まったく手間がかかる王子様ですこと」
仕方がないので、気絶したままのスレッドリーはわたしが引き摺って行きますよ。
「あらあら♡ それではいきましょうか♡」
ちょっとラダリィ! 何その目はー! もう、違うんだからね! 浮気しようとしたのを許したわけじゃないもん! いや、別に付き合ってないから、そもそも浮気でもなんでもないけどね⁉
* * *
わたしとラダリィ、そして引き摺ってきた粗大ゴミ(スレッドリー)は個室に通された。
中に入ってみる。
「なるほどねー。個室ってこういう感じなんだ」
『龍神の館』のVIPルームの個室を想像していたらぜんぜん違ったね。中はすごくコンパクト。テーブルが1つだけだし、この部屋だと入れても8人がMAXかなー。部屋の中も豪華ってわけでもないから、わりと誰でも気軽にランチできる感じかも。
「部屋にはグレードがあるのです。ここは比較的リーズナブルな部屋なので、私のお給金でも十分楽しめるのです」
「部屋にグレードがあるのは良いですねー。誰でも来れそう! でも今日は割り勘ね?」
ラダリィの稼いだお金は、デュークさんのところで使ってね?
「金ならある……」
うわっ、亡霊王子がしゃべった!
「金ならあるから、俺がすべて払う……」
しっかしスレッドリーはお金がある自慢しかしないな……。たぶんわたしのほうがお金持ってると思うけど、それを知ったらどうなるかな? 今度こそ脳が破壊される可能性もあるよね……。
「スレッドリーはいくらくらい資産があるの?」
とりあえず破壊してみよう♪
「この国の半分は俺の資産さ」
それってどういう計算なの。
「遺産なのか、財産分与なのかわからないけど、第2王子なんだから、そんなにはもらえないよね? 王位を継がないんだから、成人して結婚したら、良くて子爵位をいただくとかじゃないの?」
「そうなのか⁉ 兄上と半分ずつもらえるものかと……」
こいつマジか……。
「殿下……。アリシアの顔を見てください。『こいつマジか。常識がなさすぎて、引くを通り越して憐みすら感じるわ~。どうせ散財癖があって雀の涙みたいな小遣いしか持ち合わせていないだろうし、金がむしり取れないんだったら、いくら顔が良くてもやっぱり結婚は無理だな~』という顔をしています。残念でしたね」
「いや、そこまではまだ思ってないけど……」
なんかもう、スレッドリーってスレッドリーだなーって思ってただけー。もうちょっとだけ勉強しないと、せっかく領地をもらっても、誰かにだまされて取られちゃいそう。
「アリシアがそばにいてくだされば、私も安心して殿下を送り出せるのですけれどね」
さっきのひどい言葉を吐いた人と同一人物とは思えないんですけど? なんでそんなに温和な表情でスレッドリーを見つめられるのか……。ラダリィはスレッドリーのお母さんか何かなの?
「ラダリィはなんでわたしとスレッドリーをすぐにくっつけようとするのさー。今のところ『じゃあ結婚しよう♪』って思えるポイントあったと思う?」
「ありませんね。ですが、殿下には愛があります」
「おう! アリシア、愛しているぞ!」
「スレッドリーはちょっと黙ってて?」
今ラダリィと話をしているの。良い子だからおとなしくあっちで遊んでてね。
「まーいいや、その話は置いておくとして、今日はコース料理? 待っていればお食事が運ばれてくるのかな?」
さすがに歩き疲れて、お腹減ったなー。
「ええ。きっと喜んでいただけると思いますよ。あ、きましたね」
「失礼いたします」
ウェイターさんがお料理のワゴンを運んで入ってくる。
って、デュークさん⁉
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