第11話 アリシア、絶望の淵に突き落とされる
「最後、3つ目です。殿下、ここでビシッと決めて、アリシアの心を鷲掴みにしてくださいね」
ラダリィさん、ハードル上げていくねー。
スレッドリーが「最後か……」とつぶやいたまま、長考の構えに入っちゃったじゃないの。こういうのってめっちゃ考えてから言うものじゃなくて、パッと頭の中をよぎった印象を語るものじゃない?
「殿下、残り10秒。9・8・7・6・5・4・3・2・1」
「う、あぁ……アリシアの良いところは~、全部だ!」
はいダメー。
何も思いつかなかったスレッドリーくんの投了です。
「殿下……あなたって人は……」
ラダリィが軽蔑――そして呆れを通り越して、憐みの目で見つめていた。
「ま、これもスレッドリーっぽくていいんじゃないの?」
「違う! 本当に全部なんだ! 何もかもすべて俺の理想なんだ! ああっ、2人ともそんな目で俺を見ないでくれ!」
わたしもラダリィも、「はいはい、わかっていますよ。がんばって考えてえらかったですよ」という女神様のような微笑みを浮かべているわけで。まあねー、そこまで好きになってくれるとけっこううれしいよ? 裏表のないスレッドリーの言葉だし、悪い気はしない。
だけどわたしは――。
「今ここで、はっきりさせておきたいことがあるっ!」
「なん、だ?」
わたしが出した大声に反応して、スレッドリーが体を硬直させる。
「ちょっとラダリィ、わたしの横に並んでくれる?」
「はい、横ですね」
スレッドリーの正面に、わたしとラダリィが気をつけの姿勢で並ぶ。
「どう?」
「どう、とはなんだ?」
「わたしのことが全部好きなんだよね?」
「ああ、そう……だな?」
スレッドリーは「これから何を言われるのか」と身構えるようにしてあいまいな答えを返してくる。
「なんで疑問形? とりあえず見た目よ。身長はラダリィのほうがちょっと高いよね」
「そうだな」
「スレッドリーは身長が低い女の子のほうが好きなの?」
「いや別にそんなこだわりはないが……」
1つずつわたしとラダリィ身体的特徴を比較してスレッドリーの反応を見ていく。そこから得られるものがあるかもしれない。
「そうなのね。じゃあ顔。ラダリィのほうがシュッとしていてすっきりした美人よね? わたしは比較的丸顔よね。スレッドリーは童顔の女の子のほうが好きなの?」
「あまり考えたことはなかったな……」
「ふーん? 体のラインはどうかな? ラダリィのほうが胸がバイーンとしていて腰が細くて、お尻が大きくて、足が細くて……もうコロシテ……」
自分で言っていて泣けてきちゃう……。わたしはなんでもっと大人っぽい15歳になれなかったの……?
「アリシア! 勝手にダメージを受けないでください! 殿下、要はあれです。殿下は身体的に慎ましやかな女性のほうが好きなのですか?」
なんて婉曲な表現!
わたしを傷つけないように……ラダリィすっごい好きー! わたしもいつかラダリィみたいに大人なボディになるんだからねっ!
「いや……メリハリがあるほうがいい……とは思うぞ」
ここにきて本音はひどい……。ここだけは「あまり考えたことはなかったな……」って言ってほしかった!
「殿下の正直者!」
「いてっ!」
ラダリィの振りかぶったお盆が、スレッドリーの脳天を直撃していた。でもわたしの心に負った傷はそんなものじゃない埋まらない……。
「もう実家に帰らせてもらいますね。お世話になりました……」
やっぱり男ってみんなムチムチでバインバインでシュシュシュでボボーンな体形が好きなんだ……。やっぱりもう改造するしか……。
「ああっ、アリシア! 帰らないでください! 殿下も早く引き留めて!」
「え……。さっき言ったのは一般論で……アリシアは今のバランスが一番似合っていて美しいと思うぞ……な?」
何が「な?」なのよ。
そりゃたしかにバランスは大事だけど……。でも、一般論も超絶大事というか……。だってわたしがスレッドリーだったら、断然ラダリィの体を選ぶしっ!
「アリシア。みんながみんな体だけで相手を選ぶのではありませんから」
「でもラダリィ、最初に体の相性を試せって言った……」
「性的な好みの話ではなくてですね……。手を繋いだり、キスをしたりと接触した時の肌の感覚と言いますか、体温や匂い、しっとりなのかさらさらなのか、触って心地良いか、触られて心地良いか、そういうちょっとした相性が大切なのです」
「ふ、ふーん。そういうもの、なんだ……。ラダリィって経験豊富なのね」
「い、一応……人並み、だと思います……」
わたしも人並みの経験をしたいな……。
そういえば、この間力比べで抱き合った時、スレッドリーってすっごい良い匂いがしたような……。あれは香水? 体臭? どっちだったんだろう。もう思い出せない……。
「ですから、アリシアが嫌ではない距離感まで近づいてみて、少しずつ接触を図ることでも見えてくるものがあると思います」
嫌じゃない距離感か……。
もう1回匂いを嗅いで確かめてみたいかもしれない……?
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