第9話 アリシア、ソフィーさんに恋の相談をする

「恋の相談、してもいいですか……?」


 ローラーシューズショー王宮出張の話よりも切羽詰まっているんです!


「あら、いいじゃな~い。そういう話は大歓迎よん♡」


 ソフィーさんはテーブルに両手をついて前のめりになる。さすが恋愛マスター。頼りにしてます!


「えっと、どこから話したらいいかな……」


「話したいところから話していいわよん。勝手にこっちで質問するから♡」


「そうですか。えーと、そうですね、じゃあ最初から?」


 むかーし昔、あるところに、仮成人を迎えたばかりの第2王子が、お供を連れて『ガーランド』の街を訪れていました。

 あまりにもひどい成金ボンボンプレイをしていたので、ガマンできなかったわたしは、ついつい口を出してしまい、なんだかんだあってロイス誘拐未遂事件に巻き込まれてしまったのでした。


「って、あれ⁉ もしかしてあの時の隷属の腕輪って……⁉」


 いやまさか、ね……。でもお姉様たち、さらっと隷属のネックレスも持っていたし……いやいや、王族がそんなことを?……よし、まだ死にたくないし、このことは考えないようにしよう!


「隷属の腕輪?」


「あーえっと、そう。ロイスが事件に巻き込まれそうになったんですよ。なんか悪い人(?)がスレッドリーを利用しようとしたみたいで?」


「そういうことなのね。その事件を通じて大冒険をするうちに王子様との間に恋が芽生えた、と」


「いや、ぜんぜん違いますけど。その時はアイツが王子だってことも知らなかったし、成金貴族の鼻タレ坊主だと思ってましたし」


 10歳のクソガキに恋するレディなんて存在するわけありませんよね?


「今の話からすると、ずいぶんと好青年のように感じられるのだけれど?」


「え、どこがですか……?」


 おかしい。

 ソフィーさんの評価基準はどうなってるの……。


「私だったら天使ちゃん候補としてスカウトするわね。将来有望なのがわかるもの」


「いや……顔は、確かに……今は育成成功してますけど、あの時はぜんぜん。それに中身はひどいものですよ? クッソ弱いし、頭脳もぜんぜん……」


 顔だけなら天使ちゃんとして……いや、顔だけじゃダメでしょ。ここで働く天使ちゃんたちはみんな中身も優秀だし。


「アリシアは基準が高すぎるのよ。そんなことだと行き遅れるわよ?」


「なっ! 15歳で成人を迎えたばかりの前途溢れる若者になんてこと言うんですか! 成人してからは、そりゃーもうモテモテですよ! 王都ではデートだってしましたし?」


 お金払って執事喫茶のシノンさんとですけど!

 でも超絶イケメンでしたし!


「見栄を張ってもバレバレなのよ。女がデートでお金を払ってはダメよ」


「なっ!」


 まさかソフィーさんに心を読まれた⁉

 『構造把握』スキルの使い手⁉


「それで、そのスレッドリー殿下とはデートしたのかしら?」


「いや……毎日稽古には付き合っているので、顔は合わせていますけど……あと、ラッシュさんの尾行の時に一緒にシチューとパンケーキは食べましたけど……」


 あと、プリンは「あーん」してやりましたけど。

 あれはデート……ではないよね?


「まるで子どものお遊戯みたいね。暴君幼女の名が廃るわ」


「なっ! 暴君幼女関係ないじゃないですか! しかももう幼女じゃないですし! 立派なレディですし!」


 わたしの身体を見回し、最後にある一点を凝視してから……鼻で笑ってきた、だと⁉


「せいぜい女性ホルモンの分泌体操でもすることね」


「し、失礼ですよ! わたしだってそれなりにがんばってるんですからね!」


 ちゃんとバストアップ体操もしてますし、食べ物にも気をつけていますし、なんなら『交渉』スキルのレベル上げによって、魅力アップの効果も高めていますし!


「ってー、わたしの体形のことは良いんですよ! なんかスレッドリーが、わたしのことを美化しまくってて、王様とかお姉様たちとか、王宮で働く人たちにあることないこと言いふらしててー」


「それで今回のローラーシューズショーの話?」


「それもありますけどー。なんかもういろいろと恥ずかしいんですよ……」


「なぜ?」


「だってぇ。みんなわたしのことを知っているんですよ?」


「いいじゃないの。紹介する手間も省けるし、とっとと婚約してそのまま王宮に住めばいいじゃない」


「そんな簡単に……」


「何? 殿下のことが嫌いなの?」


 投げかけられた質問に即答できなかった。


「……正直わかんないんですよ。大して付き合いがないからどんな人なのかぜんぜん知らないんだもん。好きか嫌いかなんて、それがわかれば苦労しないんですってば!」


 それをどうしたらいいのか聞きたいんですってば!


「嫌いじゃないなら好きなのよ。相手はアリシアに熱を上げているのよね。もう最高じゃないの。結局のところ恋愛は、惚れられたら勝ちなのよ」


「勝ち負けの話では……」


「いいえ、勝ち負けなの。ずっと勝ち続ければそれでいいのよ。いつだって主導権が自分にある。それが大事なことなのよ。その状態なら切り捨てる権利を持っているのは自分のほうになるんだから」


 主導権。切り捨てる。

 ずいぶんドライな考え方だなと思いつつも、その通りだなと納得してしまう自分がいる。わたしはスレッドリーを切り捨てたいのだろうか……。


「スレッドリーが言い寄ってきている今の状態はわたしが優位に立っているってこと……。わたしが主導権を握っている……」


「そうよん♡ だから、付き合うも振るも自由自由♡ 好きなだけ時間をかけて相手を見極めていいのよ。焦らないでね。あと体の相性もすんごく大事だから、早いところ試しておきなさいね♡」


「いやそれはちょっと……」


 まだわたしには早すぎるというか……。

 

 あ、ロイス!

 どうなったんだろ!? 先に大人になっちゃったりなんてことには⁉ あの後確認できてない!


「ほ~ら、また別のこと考えてるでしょ。まずは自分のことを真剣に考えなさい。それがあなたの悪い癖よ」


 わたしの悪い癖……。


「周りのことに気を遣うのはとても良いことだし、アリシアの魅力の1つだと思うわ。でもね、自分のことを優先しなきゃいけないこともあるのよ。それが今ね」


 そっか……。

 わたし、今自分のことを考えなきゃいけないんだ……。


「わかりました! 一生懸命自分のことを悩んでみます! なので、ローラーシューズショーのこと、お願いしますね!」


 ソフィーさんはあえて言葉では返事をせず、ウィンクを返してきた。

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