第8話 アリシア、ソフィーさんと再会する

「アリシア、王宮でローラーシューズショーをしてくださらない?」


「ぜひ見たいですわ」


「父上や母上にも見せて差し上げたいですわ」


 何と……。

 将来的に王都進出を計画しようとは思っていたけれど、お姉様方からなんとびっくりなオーダーが!


「こちらでローラーシューズのパフォーマンスをさせていただけるのですか……?」


 まあ広い会場があればできないことはないけれど……。理論上はね? いやでも……。


「必要なものがあれば準備させますわ」


「もっと見せてくださいまし」


「領地に帰って愛しいワンちゃ……閣下もお連れしたいですわ」


 お姉様方の期待が膨らんでいく。

 公爵様や侯爵様もきちゃう……。いや、王様や王妃様がいらっしゃるんだから今さらか……。って、今なんか不穏な言葉が聞こえなかった?


「えーと、わたしの一存では何とも……店に戻ってオーナーと話をしてからでも大丈夫ですか?」


 さすがに大事だし、ソフィーさんに話を通さないで進めるのはちょっとね……。断るってことはないだろうけれど筋を通しましょう。いや、断るかも。さすがに王宮でショーを披露って、ちょっと粗相でもあった日にはお店がつぶされちゃうかもしれないし……。


「もちろんですわよ。会場の手配などは進めておきますから、1カ月後に開催でよろしいかしら?」


 えー、この時点で日程まで決定しちゃうのですか……。それって相談じゃなくて通達……。


「さっそく招待状を配布いたしましょう」


「父上のお名前で招待状を作成いたしますわ」


「あくまでプライベートなものですわよ?」


「わかっています。少人数でね。アリシアが困ってしまいますから」


 3女のラミスフィア侯爵夫人が配慮している風な顔でこちらをみてくる。

 でも日程も招待客も決まっちゃっているし。大がかりすぎてすでに困りまくっていますけど……? もう断るのとか不可能じゃない?



* * *


「というわけでして……どうかなーと?」


 お姉様方との会談が終わった直後、わたしは急いで『魔力・波乗り式ジェットスキー改☆馬車客車一体型・ステルス機能付与ver』に乗り込み、大急ぎで『ガーランド』に戻ってきていた。


「何がというわけで、なのよ。5年半ぶりに顔を合わせたと思ったらいきなり……」


 ソフィーさんが小さくため息を漏らしてから、イスにどっかりと腰を下ろした。

 

「えっと、その……おひさしぶりです。その節はご心配をおかけしました……」


 再会の挨拶がまだだった……。

 お店を訪れてもソフィーさんは不在だったし、ロイスの結婚披露パーティーでも近くにいながら会えなかったし。ずっとすれ違っていたものね……。


「ホントにどれだけ心配したか……。状況はマーチャン様からお聞きしていたけれど……すっかり大人になったわね」


 ソフィーさんはまったく変わらずお元気そうで……。あ、ちょっと髪が伸びた?


「ほら、こちらにいらっしゃいな」


 目を潤ませ、両手を広げたソフィーさんの元へ。わたしはその豊かな胸筋に抱かれる。懐かしい……。


「おかえりなさい」


「ただいま……」


 遅くなってごめんなさい。



「それにしても5年半も会わないでいると、すっかり大人になってしまうものなのね……」


 一旦仕切り直し。

 わたしとソフィーさんは感動の再会シーンを思い出さないように、真顔でテーブルに着くと、お互い視線を外し合いながらお茶のカップに口をつける。お茶菓子にはポッキーやらチョコレートやら、いつものジャンクフードだ。



「わたし、急に大人なサイズにしてもらいましたから、実感ないんですよねー」


「幼い雰囲気は完全に消えたわね。もともと美人だったけれど、ホントにきれいになったわ」


 ソフィーさんがわたしのことを、目を細めて見つめてくる。まるでお母さんみたいな温かい視線だ。


「ソフィーさんの目から見て、わたし、美人になりました? ハーレムいけますかね?」


「ま~だそんなこと言ってるの? 昔と違って冗談じゃすまなくなるわよ?」


「というと?」


「年齢的には成人しているんだから、本気にした男どもが一斉に群がってくるわよ。あなたまだ処女でしょ。野獣どもの相手なんてできるのかしら?」


 からかうような、小バカにしたような目に変わる。


「なっ! で、できます……よ? ち、ちち知識はありますからね?」


 ネット世代の知識は半端じゃないだぞー! 前世の知識によるあれこれで、この世界の男、そして女をまとめて我が物に!


「まったく……。成人しても頭の中はホントに成長しないわね。知識知識~。ずっと頭でっかちですこと」


「うー。だってぇ。やっと15歳になったところなんだもん……」


 経験はこれからなんだもん……。


「まともな恋をしなさいよ。燃え上がるような恋をね」


 そう言うと、ソフィーさんはカップを傾け、紅茶を一気に飲み干した。


「恋……ちょっと相談しても良いですか……?」


 目下一番の心配事。

 ローラーシューズショー王宮出張よりももっと重要な……。

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