第7話 アリシア、お姉様方を魅了する

「弟の婚約者になる可能性はまだ残されている。そういうことですわね?」


 長姉のグレンダン公爵夫人からのお言葉。

 まるで値踏みされるかのように、その視線がわたしの頭からつま先までゆっくりと移動していくのを感じる。


 この質問、なんて答えたら正解なの……。


「まあまあ、大姉様。アリシアが困っているじゃないですか。難しいお話はまた今度ということにして、もっと楽しい話をしませんこと?」


 真ん中のラミスフィア侯爵夫人が助け舟を出してくださる。

 た、助かった……。


「楽しいお話ですの? 何かしら?」


「そうですわね。私はたとえば、アリシアの故郷のお話を聞いてみたいですわ」


「私も聞いてみたいですわ。こんなにおいしいお菓子を作れるんですもの」


「私も興味がありますわ」


 ほかのお姉様方も口々にしゃべりだす。

 どうやらわたしに多大な興味を持ってくださっているようだけど……このつよつよなお姉様方をどうやったら満足させるのか、とっても不安……。


「出身はどちらだったかしら?」


「あ、はい。『ガーランド』です」


 の、近くのシルバ村です。10歳で仮成人を迎えるまでは、年に数回ほどしか『ガーランド』を訪れることのなかった田舎者でございます。


「『ガーランド』は王都からかなり近いわね。ああ、そうでしたわ。ガーランド伯爵のお嬢様が先日ご結婚を」


「ここ、王宮で行われたのでしたね」


「彼のご令嬢は弟の婚約者候補ではなかったかしら?」


「年齢も同じですし」


「仮成人の祝いの際に……」


「なるほど、そうでしたわね」


「うっかりしていました。そうでした」


「それはもう過ぎたことです。仕方のないことですわ」


 いや、何?

 お姉様方の会話は断片的過ぎてぜんぜん理解できないんですけど。言葉は最後まで言ってくれないと……。女神様みたいなテレパシーで会話しているの?


「アリシアはガーランド伯爵の令嬢とはご縁がありまして?」


「あ、はい。ロイスとは良き友人です。わたしのプロデュースするお店も手伝ってもらっています。……いました?」


 ロイスも結婚しちゃったからもうお店は手伝ってもらえないのかもしれない……でも、あの口ぶりだとロイス自身はこの先もショーに出演したいっぽかったし、ビーリング伯爵もローラーシューズショーのファンだし? でも『ビーリング』に引っ越すことになったらなかなか通うのは難しいだろうし……まだちょっとわからないかな。


「まあ! ロイス嬢が飲食店で給仕をなさるの?」


「貴族の令嬢が給仕をなさる……どんなお店なのかしら」


「とても興味が湧きましたわ」


「あ、いえ。ロイスは給仕係ではなくて、ローラーシューズショーというショーのパフォーマーとして出演をしてもらっていて……」


「「「「「ローラーシューズショー?」」」」」


 お姉様方がきれいにユニゾンしてくる。

 さすが五つ子だなー。


「わたしが考案したショーなのですが、音楽に合わせて飛んだり跳ねたり回ったりする……実演したほうがわかりやすいですか?」


 百聞は一見にシカズ……だっけ?


「そのローラーシューズショーというものをアリシアが実演なされるのかしら? ここで見せていただけるようなものなのですの?」


「ええ。普段からローラーシューズを履いていますのでいつでも。音楽もありませんし、イメージを伝えるためにほんの触りだけ披露させていただきますね」


 興味を持っているお姉様は3人、か。

 残る2人はあんまり興味なさそうで、プリンやポッキーに手を伸ばしていらっしゃる。


 わたしは席を立って、片足を高く上げると、そのまま流れるようにシューズを滑らしていく。


「まあ!」


「滑っているわ!」


「歩いていないのに動いているわ!」


「不思議ね!」


「まあ不思議ですわ!」


 どうやら驚きは与えられたみたい!


 ふふふ。

 全員がわたしの動きにくぎ付けになってるわ。サニタリアル公爵夫人? プリンがスプーンからお皿にこぼれてましてよ? 


 よし、調子に乗ってスピンも見せちゃうよー。

 調度品にだけは気をつけて、ね。


「回ったわ! 回りましたわ!」


「ねえ、速すぎて見えませんわ」


「アリシアが見えませんわ」


「まあまあ、どうしましょう」


「きれいですわ」


 さあ、次はジャンプですよー。

 天井の高さ、計算よし!

 床に穴を開けたら困るので、スターライトイリュージョンはやめて普通のトリプルアクセル! さらにクワドトウループ! トリプルトウループ! コンビネーション技だー!


「まあ、飛びましたわ!」


「鳥のように!」


「回りながら飛びましたわ!」


「美しいですわ!」


「とても素敵ね!」


 何かやれば、お姉様方はすごくナチュラルな反応を見せてくださる。まるで子どもたちに見せている時みたい。パフォーマンスしているこっちがうれしくなっちゃう♪



「とまあ、こんな感じの技を……複数人で組み合わせ……ながらですね……。お店に……お食事に来てくださった方たちに……お見せしているんですよ……」


 ふぅ、息が切れる、ね……。

 王宮に来てからちょっと運動不足かも……。


「素晴らしいですわ!」


「飛んだり跳ねたり!」


「お店で見られるのね」


「もっと見たいですわ!」


「これをロイス嬢が?」


「複数人ということはほかにもローラーシューズ、をされる方がいらっしゃるのかしら?」


 皆様、興味津々、といったご様子。

 ローラーシューズショーに興味を持ってくださる方が増えるのはうれしいね。貴族だけじゃなくて王族の方も楽しめるということがわかって良かったー。王都でショーをしてもそれなりに人を集められそうな予感! 本格的に計画しても良いかなー。


「はい。わたしは基本指導役というかプロデュース側なので、パフォーマーは今3人がメインで、加えてロイスが週末たまに参加する形ですね。あとは新人が最近育ってきている……らしいです」


 新人さんはまだ見たことないけど、エリオットが言ってたから!


「こちらに呼んでくださらない? もっと見たいわ」


「そうですわね」


「広い会場が必要なら用意させますわ」


「ぜひお願いします」


「全員のパフォーマンスを見せていただきたいですわ」


 なん、と?

 いきなりチームドラゴン出張版を⁉

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