第47話 アリシア、ロイスに打ち明ける

 結婚披露パーティー会場の跡地に飛び込むと、すでに会場の片づけはすっかり終わっていた。

 だだっ広い部屋の隅っこにイスがポツンと1つだけ。ロイスが下を向いて座っていた。


「ロイスごめん、遅くなっちゃった! 結婚おめでとう!」


 部屋の入り口から大声で叫ぶ。

 わたしの声に気づき、ロイスがゆっくりと顔を上げてこちらを見てきた。水色のシンプルなロングドレスに光が当たり、まるで水の流れのように揺らいでいた。さすが主役のドレス、すごくとっても最高にきれいだよ。


「もう、遅いわよ。パーティー終わっちゃったじゃないの」


 口調とは裏腹に、ロイスはどこかホッとしたような表情を見せていた。わたしはローラーシューズを滑らせて、ゆっくりと近づいていく。


「なんかスーちゃんに振り回されちゃったね。まさか会場の手配以外何もしてないなんて!」


「女神様のご提案だったので私も深くつっこんで確認しなかったのがいけなかったのよ。何から何まで裏方をやらせてしまってごめんなさい」


 ロイスが立ち上がり、わたしに向かって頭を下げる。


「ロイスのせいじゃないでしょ! 全部スーちゃんのせい! きっちり落とし前はつけてもらうから大丈夫!」


 大きな貸しだから、これを返してもらうには……やっぱり義姉妹の契りは必須でしょう♪ お義姉ちゃん♡


「アリシア……? 落とし前って……なんだかすごく悪者みたいな顔してるけれど……」


 怪訝そうな顔でこちらを伺ってくる。

 やば、わたし今、顔に出ちゃってた⁉ ぜ、ぜんぜん悪いことなんて考えてないよ? いよいよスーちゃんの義妹になれるなーって、清らなか気持ち?


「そ、そんなことよりパーティー楽しかった?」


「ええ。みんなにたくさん祝福されてとても良い気分だったわよ。こんなにも大勢の前で自分が主役になれる日が来るなんて、前世では想像もつかなかったもの……」


 ロイスはうれしそうに微笑んだ後、少し声のトーンを落とした。


 つらい前世の記憶は決して消えることはなく、どんなに楽しいことがあったとしても、度々思い出さなければいけない呪いのようなものだ。それはわたしも同じだけど。

 なぜ女神様たちは、転生者につらい記憶を取り戻させるようなことをされるのかな。確かにそれが条件で、チートなステータスや場合によってはチートな前世の知識を得ることができるわけだけど、人によっては、前世のことは何も思い出さずにこの世界の住人として生きたほうがしあわせに思えるほどの記憶だってあるわけで……。


「昔は昔、今は今だよ。ロイスは今、しあわせの絶頂でしょ。貴族の娘として生まれて、贅沢三昧して、わたしという心のパートナーを得た上に、さらに一生遊んで暮らすための戸籍上のパートナーまで得てさー」


 無理やり笑顔を作る。

 ロイスは今がしあわせ。昔のことなんて気にする必要はないもの。


「私、別に贅沢三昧は望んでないわよ……。それに心のパートナーって何よ」


「初めて出逢った時に、一生一緒にいるって誓いあった仲じゃない!」


「あなた、自分の都合が良いように記憶が改ざんされてるわね……」


 うわっ、完全に憐みの目で見られている! ちょっとした場を和ますためのジョークなのにマジにとられてるぅ!


「フンだ。ロイスになんて、もうコーラもナゲットクンも創ってあげない! 今日限りで心のパートナー解消ね!」


 そんなマジトーンで来られるなら、わたしにだって考えがありますからね! ロイスが自宅でいつでもおいしいジャンクフードが食べられるように取り計らってたのになー。お父さんのセドリックさんに、お店の食材収納庫と繋がっているアイテム収納ボックスを渡していたのになー。わたしの気持ちが伝わってなかったのなら、とってもかなしいなー。


「あなたって相変わらず子どもっぽいのね。そこが愛らしくて好きなところだけどね」


「わたしのことが好き⁉」


 まさか逆転でわたしと結婚の流れ⁉


「一応言っておくけれど、友だちとしてね……。みんなあなたのその無邪気なところが好きなのよ」


 ああ……うん。

 まあ、わたしの中身10歳だし……でもきっと、これからはもっと大人っぽく振る舞わないとダメよね。


「あまりうれしそうじゃないわね?」


「お祝いの席で申し訳ないんだけど、ちょっとだけわたしの話をしても良い?」


 今話すしかないと思った。

 これまでの経緯、異空間の話。そして空白の5年半。


 一気にまくしたてるようにすべてを話した。


「そういうことだったのね……。妙だなとは思っていたのよね。断片的な情報だけが手元にあって……ミィシェリア様からお聞きしていたお話がようやく全部つながった気がするわ」


「ちゃんと言えてなくてごめんね。それと、毎日ミィちゃんのところに礼拝に行ってくれてありがとう」


「突然のことだったし、心配だったのよ……。友だちとしてね」


 強調してくるなー。

 人妻に手を出すほど落ちぶれちゃ……人妻かー……ありかもしれない。ありよりのあり。ありありのありかもかもかもかも?


「今私は親友から感じてはいけない……何かおぞましい感情を浴びせられたような気がしたのだけれど……」


 ちっ、勘が鋭いな。

 なんらかのチートスキルかな?


『構造把握』


 うーん。

 別にこれといって怪しげなスキルは所持していなさそう。

 うわー、知りたくなかった!

 実はもう、けっこう……だいぶゼルミス=ビーリング様のことを好きになってるじゃないの! どういうこと⁉ わたしというものがありながら!


「ちょっとロイス……。わたし、15歳に初夜はまだ早いと思うの!」


「なっ」


 一瞬にして、ロイスの顔がわたしのドレスよりも真っ赤に染まる。


「何覚悟決めちゃってるのよ! 今夜泊まる王宮で? そんなの絶対許さないっ!」


 何があっても阻止してやるんだからねっ!

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