第48話 アリシア、新婚初夜に反対する

「新婚初夜、断固反対!」


 有志のデモ隊で王宮を取り囲んで、夜通し反対を訴えるぞー!


「私は……そんな……」


 ロイスの顔色が赤くなったり白くなったり青くなったり。それに合わせて目まぐるしく表情も変化していく。


「ゼルミス様はそのようなことはおっしゃられないのだけれど、やはりこの世界のしきたりのようなものがあるのかなと思って……興味があるわけではないのよ? でも、いざとなったらと思うと、今のうちから覚悟を決める必要があるのかと……」


「王宮でも跡継ぎの話ばっかりしてるし、貴族様もそういう感じなの? 子どもは愛の結晶でしょ。義務的に作ったらかわいそうよ」


「それはそうだと思うのだけれど、現実はそうもいかないと思うのよ……。一族の血を絶やすわけにはいかないし。お父様には子が私しかいないから、ガーランドの血を受け継ぐ者も必要なの」


 ロイスがため息をつきながら椅子に腰かけ直す。


「セドリックさん……お父さんって兄弟とかは?」


「早くに病死したらしいわ。今はお父様1人なのよ」


「そっかー。そうなると……」


「私には2人以上の子を産むことが、半ば義務として課せられているの……」


 1人はビーリング伯爵家の跡継ぎ。もう1人はガーランド伯爵家の跡継ぎ。

 とても重い使命ががが。


「わたしが養女にでもなってあげようか。なんてね」


 でも、血族を大切にしている家系なら養女じゃ意味ないか。なんとかロイスの助けになりたいなー。


「ホントに?」


「えっ?」


 あれ、半分冗談のつもりで言ったのに、ロイスが思いのほか食いついてきた⁉


「そうか、その手が……。お父様もアリシアのことを気に入っているみたいだし……なくはない話ね……」


 ロイスは何やら真剣に思案し始める。


「あれ? でも養女だと血は途絶えちゃうからダメだよね?」


「いいえ、そうではなくて。お父様とアリシアが子どもを作ってくれればいいのよ」


「えっ⁉」


 ちょっと待って待って待って待って!


「それは養女ではなくない⁉」


「ええ、側室というものかしらね」


 さらっと言われた!


「側室って! わたしがセドリックさんと……さすがにそれはちょっと……」


 親子ほどの年齢差……いや、わたしとロイスは同い年なんだから、完全に親子でしょ! 倫理的にダメでしょ! ってこの世界の倫理観は……?


「アリシアと家族に、母娘になれると思ったのに残念ね」


 ロイスが口角を上げて笑う。少し含みのあるような視線を向けてくる。

 

「からかったわね! さすがに同い年の母娘はなしでしょ!」


「あら、別にこの世界ではとくに珍しいことではないわよ」


「むぅー」


 やはり血族を途絶えさせないためには、あらゆる手段で子どもを作っていく必要があるでしょうからね。大変なのはわかるけれど……。


 わたしにできることは――。


「わかった!」


「アリシア、何がわかったの?」


 突然わたしが出した大声に反応し、ロイスが視線を向けてくる。


「わたしが創ります」


「えっ、お父様との子を……?」


 ちょっと嫌そうな目で見るのはやめて!

 さっき真面目な顔でそれを提案してきたのはロイスですよ⁉


「違うってば。そうじゃなくて、人工授精と人工子宮の研究をしようと思うの!」


「なにそれ……?」


 ロイスはピンと来ていない様子。


「わたしの前世の研究テーマとはだいぶ離れちゃうんだけど、まあ、もともと興味がなかった分野でもないというかね」


 この世界の現状からすると、実用化したらものすごく意味があるんじゃないかって思えてきたのよね。


「要はあれよ。人の体を介さなくても、子どもが作れるって技術かな。精子と卵子を取り出して、人工的に授精させたあとに、人工の子宮内で子どもを育てて出産、って感じ。人体に負担をかけずに、血統をつなげていくことが可能、みたいな?」


「なんだかすごく壮大な話に聞こえるのだけれど……」


「そうねー。人工子宮は知識的にも足りていないから、研究にはちょっと時間がかかるかも」


 実験用の胚をどう調達するかってところも課題としてはあるかな。前世だとここに対する倫理的な問題視があって動物実験も大変みたいだったけれど……。


『アリシア、もちろんこの世界でもその研究は認められません』


 ミィちゃん、こんにちは!

 やっぱりダメ……?


『生命を人工的に作りだしてはなりません。動物であれ、人であれ、魔物であれ、そこはすべて同じです』


 むぅむぅ。

 やっぱりそんな気はしてたんだよね……。

 でもそうなるとロイスが新婚初夜を迎えてしまう……。


『祝福してあげるのも、友人の務めですよ』


 祝福はしてるけれど、生々しいのは嫌なのー!


『アリシアもスレッドリーと結婚すれば良いのですよ』


 え……それは……話が違くない?


『結婚すれば初夜も迎えることになりますし、ロイスと同じになれますよ』


 いーやーーーーーーーーー!

 あいつとなんて考えられないって!

 ミィちゃんはなんでそんな意地悪言うの⁉


『私は愛の女神。子どもを生すことは究極の愛なのです』


 やだやだやだやだやだやだ!

 わたしは人工授精でいきます!


『それは愛の結晶とは言えないので認められません』


 遺伝子的には愛の結晶でしょ!

 そこはいじってないんだからー。


『いけません』


 ぅー、ミィちゃんのわからずや!


『愛の女神として譲れないのです』


 やーだー!

 もうミィちゃんなんて知らないっ!


「ロイス!」


「は、はい?」


「わたしと今すぐ逃げよう!」


 新婚初夜断固反対!


 我等友情永久不滅!

 喧嘩上等夜露死苦!

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