第46話 アリシア、ドレスを身に纏う
「……リシア。アリシア」
ん……誰?
「アリシア、起きてください」
「んー、むにゃ……あと50分……」
さすがにちょっと疲れたよ。なんだかもう眠いんだ……。
「もう招待客の皆様も帰られてしまいましたよ」
「んぁ……ラダリィ……。お客さんはみんな喜んでた?」
「はい。このような料理を食べたのは初めてだ、と。皆様とても満足そうにされておられました」
「あーそれは良かった。がんばった甲斐があったね……おやすみ……むにゃむにゃ」
パーティーが成功したなら良かったよ。
ロイスも喜んでくれたかなー。
わたしはゆっくりと目を閉じて、再び仮眠の体勢に入る。さすがにもう疲れたよ……。
「ですが! 私は少し怒っています」
ん、どうしたの、ラダリィ?
片目を開けて見ると……あれ……腕を組んでほっぺたを膨らませて、わかりやすく「怒っています」ポーズだね。
「あの方たちはなぜアリシアを手伝わなかったのでしょうか?」
「あの方たち?」
誰のことだろう。
「新婦のロイス様と同じお店で働かれている――」
ああ、はいはい。そういうことね。
「ソフィーさんたちねー。うん、まあ……わたしも頼まなかったし?」
「それでもお仲間なら様子を見に来たりなど……」
「わたしが頼まなかったから、彼らは手伝いが不要だと判断した。それだけのことかなー。彼らもわかっているのよ。わたしがホントに困っていたら、ちゃんと『お願い』をするってことをね」
お、今のちょっとかっこ良くなかった⁉
キメポーズがあったほうが良かったかな。テイク2やりたい。ね、ちょっともう1回やり直そう!
わたしがホントに困っているとしたら、頭を下げてお願いをする女だってことをねっ♪ んー、なんか違うな。テイク3!
「信頼されているのですね……」
「うん、まあねー。あと、ソフィーさんたちにはロイスのそばにいてあげてほしかったっていうのもあるかな。ロイスもきっと心細いだろうし?」
ロイスにとっては貴重な仲間だと思うの。貴族のつながりでもなく、伯爵家のお世話係でもなく、対等な立場で一緒に働く仲間たち。きっとロイスが家族にも見せない一面をわたしたちは知っている。
だってさ、たぶんガーランド伯爵――お父さんのセドリックさんも知らないでしょ。ロイスがちょっとMで、お尻叩かれたり、コルセットきつめにつけてあげると密かに喜んでいることなんて。
わたしはそういうのを見せあえる仲間って大事だと思うなー。
わたしはMじゃないから、お尻叩かれて喜ぶ気持ちは理解してあげらないけど、ロイスが喜ぶから、いくらでも叩いたり蹴り上げたりしてあげるけどね?
え、いじめじゃないよ?……かわいがり?
「パーティーの間、ロイスって笑ってた?」
ちゃんと結婚に納得しているのかな。
100%望んでいないとしても、ちょっとだけでも笑えている状態だと良いな。
「はい。とてもうれしそうにされていましたよ」
パーティーの様子を思い出しながら微笑むラダリィの表情がすべてを物語っていた。
そっか、それなら安心だね。
大丈夫なんだ。
「ご自分で確かめに行かれたらどうですか?」
ん、どういうこと?
「ロイス様、まだ会場で待っておられますよ」
「マジぃ⁉ パーティーが終わってからもうけっこう時間経っているんじゃないの⁉」
「はい。会場の撤収作業もほとんど完了しています。ですが、『アリシアが祝福しに来てくれるはずだからここで待つ』と」
ちょっと、不意打ち!
涙が込み上げてくる。
ダメ、まだ今泣いちゃ……。
「わたし、行ってくるねっ!」
「アリシア、待ってください!」
ローラーシューズを起動した瞬間、ラダリィに手を引かれて止められる。
「ドレスを。お祝いの席ですから」
厨房の隅に静かに佇む真っ赤なドレスを指さしていた。
「そうだね。ありがとう」
ラダリィに着替えを手伝ってもらって、パーティー用のドレスに着替える。肩が紐状になっていて、とても露出度が高い。胸元もわりときわどい感じになっているけれど……コルセットと詰め物で素敵な大人のシルエットになっているから平気ね♪ あとは絹のストールを巻いて、肩と胸元を隠したら完成! この世界にもこんなデザインのドレスもあるのねー。
「今度こそ行ってるね! 何から何までありがとう!」
「お気をつけて、いってらっしゃいませ」
深々と頭を下げるラダリィに小さく会釈してから、わたしはロケットスタート。
ロイスが待っている。
ロイスがわたしのことを待っていてくれている。
あの時、工房に訪ねてきてくれた時に言えなかったことを話そう。
これまでの5年半のことを聞こう。
わたしの特別な友だち。
ロイスの輝かしい未来を祝福しよう。
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