第45話 アリシア、前代未聞に巻き込まれる
「はい、それがオードブルなので先に出してください。それは食前酒です。はい、ノンアルコールはこっちです。間違わないようにノンアルコールにはストローを差して提供してくださいね。全員に行きわたるように先にグラスに注いで。はい、それでお願いします」
まぁ、そう……。
宮廷料理人の方たちが誰もいないってことは、当日の指示もこうなりますよねー。
ボスネルさんたち数人の執事さんが、お料理やお飲み物のサーブはやってくれるので、わたしは厨房からあれこれ指示出しつつ、料理の最後の盛り付けや味付けに専念することになった。ラダリィ属するメイドさんグループは会場の接客担当らしい。これでなんとかまわる、かな……。
「あ、炭酸入りの飲料は取り扱いに気をつけてくださいね。すぐに気が抜けちゃうので、もう少しギリギリに」
「アリシア様。少し休憩をお取りになったほうがよろしいかと」
ボスネルさんが心配そうに声をかけてくる。
「そうですねー。一旦ここを捌いたら、追加分の料理を必要とするまでに時間もあるでしょうし、外の空気でも吸ってこようかと思います」
昨日からずっと厨房に籠りっきりだから、さすがに気分転換したいかもー。
ふと、厨房の隅にぶら下がっている真っ赤なドレスを見る。
ラダリィが今日のために用意してくれたドレス……。
ホントは会場のほうで出席者として祝福したかったな……。でも、こうなっちゃったんだから仕方ない! なんとかパーティーが成功するように全力を尽くすだけよ。何はともあれ、開始前の今が一番忙しいからね。
「そういえば、お皿やフォークの数は足りていますか? 立食形式だけど、足の悪いお客様のために席もちゃんと用意してくださいね」
あー、そういえば、前菜用のクラッカーがちょっと足りないかも!
けっこう余分に創ったと思ったんだけどなー。あ、そっか。昨日の夜中にちょっと調子に乗って生ハムメロン乗せをラインナップに加えたからか……。うー、こっそり追加分のクラッカーを創るか……。誰も見てない、よね。
2000枚くらいあれば大丈夫かな。
材料は小麦粉と塩と油、あと水で――。
『創作』クラッカー!
よしよし、これに煮ホタテを乗せていってーと。ちょっと味見。おー、おいしい! ちょっとクラッカーに汁が染みて良い感じ♡
「誰かー! これ会場に持って行ってくださーい」
オードブルはこんなものかな。
あとは定番の揚げ物系を出していこう。すでに大量に創って収納してあるから問題なーし。バカみたいに食べる人がいなければ足りなくなることはないでしょう。
* * *
「ふぃー、ちかれたよぉ……」
メインのスノーバッファローのローストビーフも出たし、あとは最後のデザートだけよね。会場盛り上がってるかなー。結局休憩取れてないや。
厨房の隅にかかったままのドレスをチラ見する。
やっぱり見に行く時間はなさそうね……。ま、でも仕方ない!
「アリシア! 大変です!」
ラダリィが血相を変えて厨房に飛び込んできた。
「どうしたの⁉ そんなに慌てて!」
「それが、それが……会場に陛下が!」
ラダリィはどこかを指さして膝を震わせている。
「あ、ああ? そういえば謁見の時に、なんか顔を出すかも的なことをおっしゃっていたかもね。それがどうかした?」
「どうか、じゃないですよ! 招待されてもいないのに陛下がパーティーに出席されるなんて前代未聞の出来事ですよ。そのようなご準備もしておりませんし、参加者の皆様も混乱されて……」
「え、そうなの⁉ あの王様、わりと気軽な感じで『いけたらいくわ』って言ってたのにな……」
やっぱりそうだよね。
あのフランクな物言いにちょっと麻痺しかけてたけど、国王様だもんね。そんな居酒屋に入るみたいに「よ、やってる?」ってパーティーに来られたらみんな困惑するかー。
んー、スーちゃん、なんとかならない?
『おう、任せておけ。オレが呼んだことにしておく』
ありがとう。あとはお願いね。こっちも料理の提供は大詰めだから、もうひと踏ん張りするー。
『頼んだぞ。こっちは任せておけ』
「ラダリィ。なんとかなりそう。スーちゃん……スークル様にお願いしておいたから。たぶんすぐに混乱も収まると思うー」
だから会場に戻って平気だよ。
「スークル様もいらっしゃるのですか⁉ 招待されてもいないのに女神様がパーティーに出席されるなんて前代未聞の出来事ですよ。そのようなご準備もしておりませんし、そんなことをしたら参加者の皆様も混乱され……」
ちょっ、デジャヴ⁉
いや、もういろいろと前代未聞なのはわかったから、あれをこうしていい感じに適当に何とか頼むよー。
わたし、アイスの冷え具合とかチェックしないといけないからね。会場のほうは任せます! 王様やら女神様やら立場があると大変なんですね。
お、バニラアイスおいしくできてる♡
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