第43話 アリシア、条件を並べ立てる
『スレッドリーと一緒に異国との交渉の場に臨みたいのか、臨みたくないのか。アリシア、お前が決めろ』
スーちゃんの無茶ぶり。
口元が引くついているし、これって絶対悪ふざけだよ……。
「なんでわたしなのよー」
「アリシア、頼む! 俺を連れて行ってくれ!」
そんな頭下げて頼まれてもなー。
空気読めない子はちょっとなー。
『考えようによっては、スレッドリー王子の新たな一面を知るチャンスかもしれんな。お互いのことをよく知り、親交を深めるのもまた一興』
一興じゃないよ、まったく……。
大使の仕事って国の命運をかけた一大事でしょうに。そんな恋愛の話をしている場合じゃないんじゃないの?
『おや、恋愛の話と認めるのだな』
「違っ!」
今のは言葉の綾で!
何をニヤニヤしてるんですかっ! わたしたちは友だちだから恋愛とかそういうのじゃないの!
『そう思っているのはアリシアだけのようだがなぁ』
それはその……勝手にスレッドリーが盛り上がってるだけで、わたしは知らないことですぅ!
『そういうところも含めて、じっくり話し合う時間が必要なんじゃないか? 人族の一生は短いぞ』
わ、わたしは転生人族だもん……。
スレッドリーは相変わらず期待を込めた目でこちらを見ていた。視線を送り返すと、ちょっと顔を赤くして瞬きが多くなる……。コイツ、何を照れてるのよ。
「わかった、わかりましたよ! 連れて行けばいいんでしょ!」
「アリシア~~~~~~~!」
スレッドリーが両手を広げて飛びかかってくる。
その突進を身をよじってかわす。スレッドリーが飛びかかってきた勢いを利用して、通り過ぎた頭を後ろから掴んでそのまま床に寝かせておく。
お座り!
「良いのかい、アリシア。こう言っちゃなんだけど、スレッドリーは交渉の席には不向きな男だよ? 連れて行っても、正直ダサいところしか見られないんじゃないかな」
さすが御父上。息子さんのことをよくご存じで……。
まあね、わたしだってそれくらいは薄々勘づいてますよ。でも、スレッドリーが望んでいるのって、ただお付き合いするだけじゃなくて、婚約・結婚を前提にって話ですよね。まずは相手の欠点などを把握したほうがいいのかなって。それでも「コイツマジムリ」ってならなければ、まあ、きっと少しは何かを考えられる段階に進むかもしれない、とか思ったり思わなかったり……。
「それも含めてスレッドリーなのかな、とは思ってますけどねー。結婚とかはちょっとまだ考えられないけれど、友だちとしては悪くないとは思ってますよ」
結婚はやっぱりちょっとね……。
『「まだ」だとよ。なあストラルドよ。良かったな』
「はい。どうやら親が気を回しすぎなくても大丈夫なようで」
スーちゃんと王様が目配せし合って何やら楽しそうに……。
2人とも絶対勘違いしてるよー。聞いてました、わたしの話? まるっきり脈なしだからね。恋愛対象ではありませーん! 顔だけの男はダメでしょ! もっと頼りがいがあるというか、どっしりと構えていて包容力にあって、わたしが何をやっても許してくれて、しりぬぐいをしてくれて、お金があって遊んで暮らしても怒らなくて……殴っても死なない人じゃないとね。
『欲張りすぎだぞ』
いいでしょ! 望みはでっかく!
『スレッドリーなら頼りがい以外のところはだいたい満たしてるだろ』
えー、そうかなー。
でも殴ったら死ぬし?
『お前が本気で殴ればだいたいの人族は死ぬ。人族以外でも良いなら、どこからかタフなヤツを探してきてやるが』
すっごいこだわりがあるわけじゃないけど、タフなだけが条件だとちょっと怖いなって思います。
『あれこれと贅沢だな』
なんか気のせいかもしれないけど、スーちゃん……無理にわたしとスレッドリーをくっつけようとしてない?
『……してない』
ホントかなー? なんかやたらと推してくるような?
『オレの不注意で、この件にお前を巻き込んでしまったからな。5年半も時を飛ばしてしまった。責任を感じているよ。だから、お前がしあわせになれるようにサポートしたいと思っている』
そんなそんな。
スーちゃんが悪いわけじゃなかったでしょ。
かといって、ヤンス(殿)が悪いわけでもないし、あれは不幸な事故だよ。気にしていないって言ったらウソになるけど、誰の責任でもないんだから。
まあ、そんなに責任を感じてくれるんなら、義妹としてお義姉ちゃんとちょっとくらいエッチな関係になるっていうのはどうですか?
『どうもこうもないな。まだ義妹と認めたわけでもないし』
頑な!
イケメンなお義姉ちゃんとちょっとエッチなことしたい!
『オレは女神だぞ……』
そこは種族の壁を越えて!
『種族云々の前に概念がな……まあいいか。とにかくだ、お前のことは気にかけている。早くしあわせになってくれ』
はーい。
それは素直にうれしいです。
わたしだって早くしあわせになりたーい。
「そういえば、ガーランド伯爵の娘さんがこっちくるんだっけ?」
思い出したように王様がこちらに話を振ってくる。
「あ、はい。結婚式を急きょここでやらせていただくことになったとか」
「無理にアリシアのことを呼んじゃったからだよね。ボクのせいだから、遠慮せずに王宮の良さそうな部屋を適当に使っちゃってよ」
「ありがとうございます! ってわたしも招待されている側だし、セッティングするわけじゃないんですけどね」
まあねー、これが包容力だよねー。
スレッドリー見てた? 寝てて見てないか。そういうところだぞ! 立派な親からちゃんと学べよ!
「あさってかあ。ロイスの結婚式楽しみだなー」
きっと素敵なウェディングになるよね!
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