第42話 アリシア、仕事を頼まれる

「そろそろ本題に入ろうか。アリシアに1つ仕事を頼みたいんだ」


 なんと! 王様からわたしにお仕事の依頼が⁉ 王宮は人手不足ですか⁉ トイレ掃除とかお風呂掃除とかなんでもやりますよ! あー、ラダリィからおすすめされた通りにメイド服を着てくるのが正解だったのかも!


『メイドをさせるためにわざわざお前をガーランドから呼び寄せるわけないだろ』


「そ、そうですか……。ではわたしの料理の腕を見込んで、とか?」


『そうだな。異世界料理は、いろいろことが片づいたら振る舞ってやると良い』


 ことが片づいたら……?

 ちょっと怖そうなキーワードですね……。


「アリシアは異世界料理が作れるんだったね。初代様とノーアと同じ転生者の料理かあ。気になるね。今度ボクにもぜひ食べさせてよ」


「あ、はい。ぜひ!」


 王様はどんな料理が好きかな?

 きっと普段高級な料理をたくさん食べているだろうし、シンプルな料理のほうが逆に新鮮に映るかもね。たとえば……ポップコーンとか! 目の前で作ったら驚くだろうなー。


「それはまたの楽しみに取っておくとして、お仕事のお願いというのはさ、この国の大使として、例の殿様と国交に関する取りまとめをしてほしいんだよ」


「えっ」


「向こうさんもさ、一度顔を合わせているアリシアとスークル様のほうが交渉しやすいかと思ってね。ちゃんと国の代表としての権限があれば問題はないでしょ?」


 あー、これ冗談じゃなくて本気の顔だわ。

 今日ってそういう話だったの⁉


『そうだよ。オレもそれが良いと思っている。こういうのを乗り掛かった舟と言うんだろ?』


 なんか前世の世界にはそんなことわざがあるらしいですね……。

 まあ、スーちゃんが乗り気なら、わたしはそれでもいいですけどー。


「大使って具体的に何をしたらいいんですか?」


 国交を求めている体を持たない意識だけの人たち……人なのかな? まあ、人か。そんな人たちとどんな話をまとめたらいいんだろう。


「その辺は大臣たちに任せているから、あとで細かい指示を聞いておいてよ。基本のシナリオはこっちで用意するから、あとは臨機応変にお願いね。責任は全部ボクが取るし」


『ああ、オレたちに任せておけ』


「スーちゃん⁉ そんな安請け合いをしていいの⁉」


 ここまでの間に、一切具体的な話が出てきていないんですけど!


『お前は代表としてニコニコしていればいい。それだけで有名になれるぞ』


「わたし、別に有名になりたいわけじゃないよ……」


『ちやほやされたいんだろ?』


「そりゃ、まあ……されないよりは……?」


 そんなのみんな同じでしょ? ちやほやされたら気持ちいいし、そうだよね⁉ 街行く人に「アリシアちゃんすてきー」「アリシアちゃんかわいいー」「アリシアちゃん結婚してー」って言われたいってささやかな望みしかない、よ?


『大使になれば、それも叶うんじゃないか?』


「そう、かな?」


 国の代表かー。

 国家予算を使いまくりの旅もできるかも!


『出ても行き帰りの旅費くらいだな』


「王様のケチ!」


「えっ、ダメ?」


「あ、いえ、こっちの話です……」


 もう、スーちゃんったら、わたしにだけ聞こえるように話してたのね! それは反則でしょ! ちゃんと王様にも聞こえるように会話して!


『アリシアが贅沢な旅をしたいんだとよ』


 あ、そういう都合の悪いところだけ言うのはダメッ! わたしの印象が悪くなるでしょ!


「もちろんできる限りのことはさせてもらうよ。会見の場所はどこにしようかな?」


『ま、どこでも変わらんと思うが、これ以上アリシアが年を取っても困るから、こっちのフィールドでやらせてもらうことだけは決まっているな』


「そうですね……。異空間だとちょっと……」


 これ以上みんなと精神的な年齢差が出るとさすがに耐えられそうもないよ……。


「そうなると、おそらくダーマス辺りになるかなと思うけど、大臣たちと戦略を練ってから連絡するね。あちらさんとの最初の連絡はスークル様にお願いしていいんでしたっけ?」


『ああ、「殿」とはいつでも連絡がつくようにパスを交換してある』


 パス?

 魔力パスってことかな。魔力パスは個人個人波長が違うし、個人IDみたいなものだよねー。


『そんなものだと思ってくれればいい。向こうは焦っているようで焦っていないし、定期的にこちらの状況を伝えておけば問題ないよ』


「ありがとうございます。早めに戦略を組み立てますので、もうしばらくお時間をください」


『おう。お前も国王らしくなってきたじゃないか』


「そうですか~? スークル様に褒められると照れちゃいますね」


 王冠を外して頭を掻く王様……。見た目威厳があってダンディなのに、すごくフランクにしゃべる人。そしてスーちゃんに褒められて笑う姿はまるで少年のよう。不思議……。


「父上~~~~~~~~!」


 話がまとまりかけたその時だった。

 大声をあげながら謁見の間に飛び込んできた人物。なんかもう、予想通りって言ってもいいのかな……。どうせ来るんだろうなーって思ってたから、驚きはしないけどね。


「父上~! お話がございます!」


 鼻息荒くスレッドリーが王様の前に滑り込む。

 

「スレッドリーよ。今大切な話をしておるのだ。アリシアを国賓として迎えて、話し合いの真っ最中だというのがわからぬか? いかに王子と言えど無礼である。下がれ」


 王様は、さっきまでの柔らかな雰囲気から一転、国王としての威厳をビンビンに感じさせる威圧感を放っていた。陛下! ちょっとかっこいいじゃないですか!


「ですが父上! 俺……私もぜひ、大使の1人にお加えいただきたく直訴に参ったのでございます!」


 スレッドリーは玉座の間の前で片膝をつき、礼を尽くして懇願する。でも、王様は一切スレッドリーと視線を合わせようとはしない。さっきまで和やかムードだったのに、突如緊迫する場面になってまいりました……。これが国王と王子のバトルなのね……。


「ならぬ! 下がれ!」


「どうかお願いいたします!」


 スレッドリーはその場を動かず、王様に視線を送り続けていた。


『なあ、ストラルド陛下よ』


 スーちゃんが口を挟んだ。

 口元が妙に笑っていて……絶対悪いこと企んでいる時の顔だ!


『交渉の件はオレとアリシアに一任した、そうだったよな?』


「そうでござ……そうだ。余の権限を持って任せた」


『じゃあ、大使がもう1人増えても、文句はないわけだ?』


「ぐっ……女神・スークルがそれを望むなら、余としては異論はない……」


『ではこうしよう。アリシア、お前が決めるのだ』


「へっ、何を?」


 スーちゃんが何か言い出したよ⁉


『スレッドリーを大使の1人として加えるかどうか、お前が判断しろ』


 え、えええええええ?

 なんでわたしがそんなことを⁉

 やだやだやだ!


 うっわ! スレッドリーがめっちゃ期待込めた目で見てくるんですけど⁉

 おかしいでしょ、なんでわたしがそんなことを決めなきゃいけないの⁉


『一緒に行きたいのか、行きたくないのか。今決めろ』


 なんでわたしに決めさせようとしてくるのー⁉

 ひどい嫌がらせだよ!

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