第41話 アリシア、王様と謁見する
「アリシア様。陛下がお待ちです。こちらへどうぞ」
翌日の昼食後、執事長のボスネルさんに連れられて『玉座の間』という、それはそれはわかりやすい名前の場所へ……。鬼ごっこは終わりかな?
「ふぅ、緊張しますね……」
「大丈夫ですよ。陛下は礼儀作法にうるさくはございませんから、剣で斬りかかったりしない限りは問題ございません」
「それ、冗談で言ってます?」
THE執事ジョーク!
さすがに王様に斬りかかる人はいないのでは……。
こういう謁見の場での正しい作法ってどうするんだっけ?
えーと、前世の知識によると……正座をして土下座!「その方、面を上げい」って言われたら、「ハハー」って言って顔をあげるのか。あれ? でもこれって、こっちが先に部屋で待っているパターンじゃない? 王様が先に部屋にいるパターンで顔を見ずに土下座できなくない⁉ どうするどうする⁉
「それではいってらっしゃいませ」
「えー、ちょっと待ってー! 土下座どうすればいいのー⁉」
と、とりあえず頭を下げながら中に入ろうかな……。
ボスネルさんが開けてくれた扉を通ってー、なるべく王様の顔を見ないように……打ち首獄門になったら困る……。
『アリシア、変なポーズを取っていないで早くこっちに来い』
「あれ? スーちゃん」
王様の隣にスーちゃんがいる!
「もう来てたんだ! こんにちはー」
『こんにちは。ちゃんと謁見の場には同席すると言っておいただろう』
「そういえばそうでした。助かるー! 緊張して緊張して、あ……し、失礼しましたー」
ジャンピング土下座!
打ち首にしないでくださいぃぃぃぃぃ。
「そのほうがアリシア=グリーンか」
「は、はいー! アリシア=グリーンにございますぅぅぅぅぅ」
ご無礼の数々どうかご容赦をー!
「余はストラルド=フォン=パストルランと申す。アリシア=グリーンよ、余の頼みごとのためにわざわざ我が城まで足を運ばせてしまってすまなかったな」
「滅相もございませんーーーーーー!」
『硬いよ。アリシア、いつも通りにしろ』
「で、でも王様の前で失礼を働いたら打ち首になっちゃうよー」
『ならんならん。この国にそんな制度はないよ』
「アリシア=グリーンよ。本来ならば余が出向いて挨拶をせねばならぬ問題だ。それを堅苦しい大臣どもが『王がそのようなこと、前例がありません』とかぬかしてな。余だってたまには王都の外に遊びに行きたいのにさ」
「え?」
「ほら、たまには羽を伸ばしたいのだよ。余も人間だからね」
「え……王様なのに、ですか?」
チラリ。
あれー? なんか思っていた王様の雰囲気と違う……。
「そんなの余の父上が王で、余が第1王子だったから仕方なく王になっただけのこと。あ~あ、ボクも第2王子以下に生まれたかったな~! どう考えても弟のほうが王に向いていたのにさ……」
『おい、ストラルド。口調が戻ってるぞ。もっと威厳を保て』
「し、失礼しました。つい……。王様らしいしゃべり方をしろってスークル様がうるさくて……はぁあ面倒だよね」
王様がため息ついた……。
何この人……?
「だからほら、人払いもしてあるから今日はいいじゃん? 無礼講だよ無礼講。アリシア、普通に顔を上げてくれない? ボクね、堅苦しいのがホントに苦手なんだよ」
「あ、はい……」
やたらとフランクなしゃべり方をする王様。
顔を上げると、間違いなく王様……。
遠くのほうで玉座の間に座り、肩ひじついている王様。スレッドリーそっくりのさらさらな金髪で、くるりと巻いたカイゼル髭を引っ張って遊んでいるのが現国王様……。頭に王冠乗っているし、まあ本物の王様なんだろうなー。
「ねぇ、アリシア。そんなところに座ってないで、もっとそばにきてよ。遠いと声張らないといけないし」
『だからお前も王らしく、威厳あるしゃべり方をだな』
「今くらい良いじゃないですか。アリシア=グリーンは転生者なのでしょう? この国のしきたりは必要ないんじゃないですか?」
『オレに敬語を使うな。お前、王だろ』
「つい昔の癖で……」
王様がスーちゃんにぺこぺこ頭を下げている。
何これ。わたしの知ってる王様とぜんぜん違う……。
「アリシア、聞いたよ? 何か大変だったね~。結界の修復に巻き込まれて、異国に囚われてしまったんだって? 本当にお疲れだったね」
わたしは王様の招きに応じて、ゆっくりと歩み寄る。
近寄っていくと、スレッドリーをちょっとダンディにしたような顔がやさしく微笑んでいるのがわかった。王様なのに気さくだ……。普通に良い人なんだ……。
「は、はい。スーちゃんが一緒だったのでぜんぜん大丈夫だったんですけどー」
「ノーアが動くって聞いてさ、『これは大ごとだ』ってわかったんだけど~、『こっちで処理するから近衛兵は動かすな』って、ミィシェリア様にも言われちゃってさ~。勘違いしないでほしいんだけど、ボクはアリシアのことを見捨てたわけじゃないんだよ? ボクもスレッドリーもすぐに駆けつけたかったんだけど、ミィシェリア様って怒ると怖いじゃない?」
「「『怒ってません!』ってすぐ言うし」」
王様とハモっちゃった♪
「あはは。わたしはぜんぜん大丈夫でしたよ。って、もしかしてわたしのことってスレッドリー……殿下からお聞きになってますか?」
「そりゃもう、聞いてるよ~。ラッシュからもね。うちのバカ息子を鍛え上げてくれたんだって? ラッシュが泣いて喜んでいたよ~」
「鍛え上げたってそんな……。わたしはちょっとガーランドの街を案内しただけですよ……」
ラッシュさんもたいがいだなー。
あの感じだと、相当話を盛ってそう……。
「ボクもずっとアリシアに会いたかったんだよ。スレッドリーが見たこともないくらいの美女だって言うもんだからさ。ボクも親だからね、あいつの将来のお嫁さん候補に興味あるじゃない?」
「お嫁さん候補ってそんな……」
王様、どこまでも軽いな……。
そんなノリで謁見の場をセッティングされても困るんですけどね。
「いや~、スレッドリーが熱を上げるのもわかるよ~。聞いていた通りだね。むしろ予想以上だよ。こんなにもかわいらしくて美しいとは思わなかった。うんうん、スレッドリーも運がいいね。第2王子だから王様にもならなくて済むし、こんなに美しいお嫁さんも捕まえられてさ」
「えっと、あの、その……」
『おい、ストラルド。舞い上がりすぎだ。アリシアはまだ正式に婚約を申し込まれていないし、そもそも良い返事をするつもりもないってさ。どうする? 息子、振られちゃったぜ』
ちょっとスーちゃん、すっごく悪い顔してるー。
なんで煽るようなこと言うのさ。
「あ~、スレッドリーはダメ? 父親のボクから見ても、なかなかのイケメンじゃない? ちょっと頭は弱いかもしれないけどさ~。でもとびっきり性格は良いし、将来は良い地方領主になると思うよ? アリシアのほうが領地経営に詳しいんだっけ。良さそうな領地を与える予定だし、一緒に切り盛りしてやってよ~」
「え、っと、まだちょっと、わたしそういうの考えられる状態じゃなくて……」
『あまり追い込むなって。アリシアは5年半も時が飛んでいるんだ。脳みそは、まだ10歳そこそこなんだよ』
「そうだったね……。つらい経験だよね。スレッドリーにこのことは?」
『言うな。それを伝えるかはアリシア自身が決めることだ』
「わかったよ。ボクの口からは言わない。でもどうか、息子のことを真剣に考えてやってほしい。これは王としてではなくて親としてのお願いだよ」
やさしいお父さんの顔だった。
スレッドリー、ホントに愛されているんだね。
王族って策略や謀略にまみれてギスギスした関係なのかと思ったけれど、そんなことまったく感じられないし、普通に仲の良い親子なんだろうね。いいな、こういうのって。
「はい、ちゃんと考えてみます……」
「ありがとう。じゃあ本題ね。半分はアリシアに興味があって会いたかったんだけど、もう半分は仕事の話だよ」
仕事の話! わたしに何かできることが⁉
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