第40話 アリシア、思いっきり遊ばれる

「とは言ったもののー」


 どうしたらいいの、この状況!


 廊下で眠る(気絶)スレッドリーのことを考えながら、貴人の間に引きこもり、1人頭を抱えるわたし。


 適当な返事はできないし、かと言ってはぐらかすのにも限界はあるし……。

 このままだと陛下との謁見の時か晩餐会か、もしかしたらロイスの結婚式に乗り込んできて暴走する危険だってある……かもしれない。


「悪いヤツじゃないのは間違いないんだけどね……」


 でも急に結婚とか、誰が相手でもまだ考えられないって……。


 せっかくガーランドを離れてわたしのことを知る人が少ない王都に来れたのに。

 もうちょっとそっとしておいてよ……。

 いろいろ考える時間をちょうだいよ……。


「アリシア、いい感じに悶々としていますね」


「うわっ、びっくりした! いつの間に部屋の中へ⁉」


 背後に立っていたのは笑顔のラダリィ。

 ラダリィの魔力は微小過ぎて、わたしの魔力探知に引っ掛からない。怖い……。


「殿下がお目覚めになられましたので、適当にあしらってご自分のお部屋に帰っていただくようにいたしました」


「適当って……。不敬罪で投獄されたりしないの?」


 容赦なさすぎて、まずはラダリィの身が心配だよ。

 

「あれくらいは教育の範疇でございますよ。執事やメイドに与えられている権限にございます」


「執事やメイドさんって、王族を教育する権限があるの⁉」


 そういうもの⁉

 もしかして、この世界の常識⁉


「もちろん冗談です。そんなことをしたら死罪になってしまいます」


「ラダリィー!」


「アリシアも殿下と同じでからかい甲斐があってかわいいですね」


「もう! 田舎者だからってバカにしてー!」


 シティーハラスメント!

 都会って怖いところ!


「そうでした。大切な用事があってこちらに参ったのです」


 ラダリィが何かを思い出したように、ポンと手を叩く。


「用事?」


「明日の謁見の際のお召し物を合わせましょう」


 あー、そうか。陛下との謁見!

 わたしはそのためにここに来たのでした。スレッドリーのことで悩むためじゃないのよ!


「平服ってわけにはいかないか……。でもわたし、貴族でもないし軍人でもないし、平民が謁見する時ってどんな服が正しいの?」


「決まりごとはございませんよ。よほどみすぼらしい服装でなければ、どんなものでも失礼には当たりません。実際、今のお召し物のままでもけっこうですよ。なんなら私と同じメイド服はどうですか? 似合いそうです♡」


「それはさすがに……」


 どんなものでもって言われるのが一番難しい……。

 でもメイド服が不正解なことだけはわかります!


「でしたら一般的な貴族の作法に倣うのがよろしいかと。来客用にいくつかドレスをご用意していますから、お好きなものを選んで、サイズを合わせましょう」


「ま、そうなりますか……」



 ラダリィに連れられて、衣裳部屋へ。

 王宮は広いし、どれだけ歩かされるのかと思ったら、貴人の間からわりと近い場所にあって良かった!


「こちらからお好きなものをお選びください」


「こちらからって、多いわ! ムリムリムリ!」


 こんなの選べないって……。

 いくつか用意してくれているって言うから、2~3着かなって思ったら、フロア全部がドレスで埋まってる部屋って何さ! 100? 200? 1000着以上あるかも⁉ 何この部屋。服屋の倉庫か何かなの⁉


「私はこちらに控えておりますので、気になるものがございましたらお気軽に声をかけてくださいね」


「いや、ちょっと……全部同じに見えるし……」


 ダメだ。もうわたしの脳が考えることを放棄している……。

 

「こちらのデザインなどは最近の王都での流行のものですね。こちらは古き良きと言いますか、根強い人気のあるデザインになっています。私はこちらの落ち着いたものなども良いかと思います」


 いや、全部同じだよ……。

 王都のオシャレ怖い……。


「ラダリィ……」


「なんでしょうか?」


「選んで……」


「私が選んでよろしいのですか?」


「わたしにはちょっと荷が重い……」


「そうですか。アリシアは奥ゆかしい性格なのですね。わかりました。わたしがアリシアにぴったりのドレスを選んで差し上げます」


「ありがとう……助かります」


「いえいえ、役得です。こんなにかわいらしい着せ替え人形を手に入れられて、私もしあわせいっぱいです」


「着せ替え人形って……」


 衣装選びをお任せした以上、間違ってはいないけど。

 もうこういうのって、慣れている人に任せるに限るよね! 下手に直感で選んだりして、「コイツないわー」みたいなのを選択しちゃって、「クスクス、田舎者だわ」みたいに後ろ指差されるのが一番怖いもの……。


「まずはこちらなどいかがでしょうか?」


 すぐに戻ってきたラダリィの手には何着かのドレスが。

 その中でもひと際目立つのが真っ赤なバラの刺繍がたくさん施されているドレス。……やけに丈が短くない?


「では少し失礼して」


 あっという間に今着ている服を脱がされ、下着姿に。

 ちょっと恥ずかしい……。


「こちらのコルセットを身に着けていただいて」


 ぐえぇぇぇぇ。

 ドレス着る時って、この苦行が絶対必要なの?


 あ、すごい。このコルセットやるじゃないの!

 胸がめっちゃ盛られてる♪ 谷間完成♡


「ではまずこちらのドレスを。いかがですか?」


 いかがって言われても……。


「こちらの鏡をご覧ください」


 あ、そっちに全身が映る鏡があるのね。


「ってなんじゃこりゃー!」


 エロッ!

 これ、ドレスじゃなくてちょっと豪華なメイド服じゃないの⁉


「あらかわいい♡」


「かわいいって……いや、かわいいけれどもさ……」


 ダメでしょ、これは。

 超ミニのスカートで生足バーンって出てるし。胸もポロリしそうで……なんでラダリィが着てるメイド服より露出激しいのよ!


「これなら陛下もワンチャンあるかもしれませんよ」


「何のワンチャン狙ってるの……」


「め・か・け♡」


「そういう目的じゃないから……」


 さすがに嫌よ……。王様と王子様の泥仕合に巻き込まれるとか……。


「もっとおとなしくて露出が少ないドレスでお願いします……」


 ワンチャンいらないので、失礼にならないものを……。


「……つまらない」


「ちょっと!」


 聞こえてるからね!

 絶対ふざけてるでしょ!

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