第39話 アリシア、褒め倒される
「ラダリィ、今日はありがとね。とっても楽しかったー」
王宮に戻り、ラダリィと2人、わたしの宿泊場所になっている貴人の間へと向かう。
「そうでしょう、そうでしょう。あのお店は会員の紹介がないと入れませんからね。でも次からはお1人でも大丈夫ですよ」
「そうねー。機会があったらまた行ってみたいかな」
楽しかった。
ホントに楽しかったから、ハマっちゃったらヤバい気がするの……。あ、でも、なんかよくわからない合言葉があるから、わたしが行っても入れないんじゃない?
「私はあそこに帰るために働いているのです」
ラダリィさんうっとりですね。
もうラダリィにとってはまさにパラダイスなわけね。って、ここまでハマると、ほら、なんかもう、すべてを捧げてる、みたいになっちゃうし大丈夫かな……。
「そういえばアイススケートも広めてくれたんだって?」
「ええ、それはもう。私の街の一大産業ですし。こういうコツコツとしたアピールをしておけば、デュークの特別な存在に……」
あ、これ、ガチ恋ってやつだー!
わたし知ってる。アイドルにガチ恋すると裏切られた時に立ち直れなくなるって。すべてを憎むストーカーになるらしい……。ラダリィ、ホント大丈夫かな……。
「ほどほどにしておきなよ? デュークさんはお店の人で、お仕事でラダリィとお話してくれているわけだから……」
「そう……みんなそう言うのです。でも私とデュークはもはや店と客を超えた特別な関係。通じ合っているのですよ♡」
あ、もう手遅れだわ……。
うーん、デュークさんはどんな人なんだろう。ラダリィのことをだましたりするような悪い人じゃないと良いんだけど……。
「アリシア……」
もう一度お店に行って詳しく調べてみないとダメかな。もし、危険なお店だったりしたら、ラダリィを守らなきゃ。
「アリシア……」
ん? 誰かわたしのこと呼んだ?
「あら、ゴミ……スレッドリー殿下。いらしたのですね」
「スレッドリー! 無事だったのね。意識が戻らないからちょっと寝かせておいたんだけど」
正確には、ラダリィが道の脇に投げ捨ててましたけど。それに今、普通に「ゴミ」って言いかけた⁉ 王族に対する扱いってこれでいいんだっけ⁉
「アリシア……あの男は誰なんだ……」
「あの男?」
スレッドリーが泣きそうな顔で訴えかけてくる。何のことかな?
「街中を仲睦まじい様子で男と……。きききキスまでして!」
「まあ、アリシア。そんなことまでしていたのですか? かわいい顔をして隅に置けないですね」
「え、もしかしてシノンさんのこと⁉ あれは――」
ラダリィが口に手を当てて、『秘密』のポーズ。内緒なの⁉
キスって手の甲にですよ! しかも一方的に……。って、スレッドリー、まさかあなた、つけてきてたの!?
「素敵な方ですわよね。シノン様。アリシアととってもお似合いです」
「え、え、えーと。そ、そう?」
ちょっとラダリィ! スレッドリーを煽るみたいに……どういうつもりよ?
「アリシア~~~~~~~!」
「な、なに⁉」
「俺というものがありながら、なぜあんな男と~~~~~」
ちょっと、スカート掴まないで!
鼻水つけないで!
「あらあら、女々しい王子様ですこと。オホホホホ」
ラダリィがスレッドリーを見下すように高笑いする。
これはそういう流れ? スレッドリーをからかって遊ぼうっていう?
「あいつのほうが身長が高いからなのか⁉ 地位と金なら俺のほうがあるぞ!」
うわ、最低な発言だ! マジ引くー。
「はい、失格。ゴミ殿下。アリシアの顔、見てくださいまし。『こいつ王族なのを鼻にかけて、金にものを言わせてアプローチしてきやがった! ゴミofゴミ。王族なのもお金があるのも、殿下の功績ではなくて、陛下や先代様が築き上げたものでしょう! うわ~こんなダメな王族がいるんなら、この国ももう終わりだわ~。さっさと国外脱出も考えないと。ゴミの顔なんてもう二度と見たくないわ。ぺっぺっぺっ』って顔をされてますよ」
「いや、さすがにそこまでは思ってないって……」
ラダリィ辛辣すぎるよー。
ちょっと……こいつ最低だなって思っただけだからね?
「すまなかった~~~~~。もう俺王族やめる~~~~~~~」
ホント極端な人だなー。
うーん、なーんか、泣き顔が絵になるけど……。もしかして、ラダリィに泣かされ慣れてる?
「ハハハ。ご冗談を。スレッドリー様から王族の身分をなくしてしまったら、もう塵1つさえも残らないではないですか」
「お、俺だって裸一貫でアリシアを守っていく覚悟が!」
「剣の腕も、領地経営の頭脳も、商売の才能も、ただの腕力さえもアリシアに遠く及ばないゴミ殿下が、でございますか? 今の冗談だけは非常におもしろかったので評価いたします」
ラダリィが恭しく頭を下げる。
完膚なきまでに心を折りに……。
もう何も言い返せなくてただ泣いちゃってるじゃないのさ……。
「だ、大丈夫よ? きっとスレッドリーにだって良いところが……良いところが……えーと、そうだなー、うーんと、昔よりけっこうかっこよくなったよ?」
「ほ、ホントか⁉ 俺の顔、好きか⁉」
すぐに手を握ってくるんじゃない。
何? 王都の男はすぐ手を握ってくるのがブームなの?
「好きとか嫌いとかはないかなー。客観的によ、客観的に」
「殿下、良かったですね。1つでも褒められるところがあって。顔が良いという評価はとても重要でございます」
「そうか! 重要か!」
スレッドリーの顔が一瞬で明るくなる。
うまいこと操作されてるなー。
「ええ、重要でございます。王族と言えば国の顔ですからね。顔が良いことは必須の条件とも言えるでしょう。子を成すためには美男美女であることは非常に重要だと思いますよ」
た、確かに……?
もしかしたらブサイクな王子様だと国民に軽んじられるかもしれない、ね? わからないけど。
「おお! それはめでたい! 俺の顔がアリシアに気に入ってもらえているなら間違いないな! 当代随一の美貌を持つアリシアと俺の子なら美しい子が生まれるのに疑う余地もないな!」
いや、さすがにそれは言い過ぎ……。
「あらあら、お惚気ご馳走さまでございます。アリシア、良かったですね。愛されていますね♡」
「もう、からかうのもそれくらいにしてよー」
こっちにまで飛び火させて来ないでー。
当代随一って、もう絶対ほかのところで言わないでよね! 恥ずかしすぎるわ!
「アリシア!」
「な、何よ?」
「俺と子を成してくれ!」
ハレンチ!
音速を超えた平手打ちをスレッドリーのあごにお見舞いする。スレッドリーは10回転ほどスピンした後に、その場にへたり込んだ。
しばらく反省して寝てなさいっ!
「あらあら、良いところでしたのに。殿下はもうお休みになられたのですね。本日も早寝でございますね」
ハレンチ王子は廊下の隅に寄せて、と。
「殿下は決して悪い方ではないのですよ?」
「それはわかるよ……」
「幼少期よりアリシアに一途で在らせられます」
「うん……」
「だからといってアリシアが気に病むことはなく、良いお答えをする必要はありません」
「うん……」
「けれど少しでも気にかけていただけるのなら、殿下にもチャンスをお与えください。殿下のことを知る時間をとっていただけないでしょうか」
ラダリィの真意。
ちゃんと受け取ったよ。
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