第37話 アリシア、コース説明を受ける

「ね~、アリシアってかわいいでしょう~。王都には今日来たばかりなのよ」


 狭めの個室――L字型のソファ席に案内され、シノンさんに淹れてもらった紅茶をちびちびと飲んで過ごす。すっごく落ち着かない……。


「アリシアお嬢様はどちらからいらっしゃったのですか?」


 シノンさんの顔が! 近いっ! そんなに覗き込まないで!


「えっと……ガーランドです」


「なんと、アリシアお嬢様はガーランドご出身なのですね。気候が穏やかで過ごしやすい土地だと聞いています。私たちの同僚にもガーランド出身の者がおりますので」


「そうなんですね。この王都と比べると、ゆったりした田舎街って感じかもしれないです。ここはホントに人が多いですし……」


 シルバ村出身のわたしとしては、ガーランドだって十分大きな街だと思っていたけれど、やっぱり王都はぜんぜん違ったものね。人通りが2倍か3倍か、もっとかも。早く市場も見てみたいなー。きっと大きいんだろうなー。そして各地からいろいろなものが集まっているのでしょうね。


「アリシアはすごいのです。陛下のお客様として招かれているのですよ~」


 ちょっと、ラダリィ? それ言っちゃって良いやつ? 情報漏洩とかそういうの大丈夫⁉


「なんと! それは大変名誉なことでございますね。そのようなアリシアお嬢様のお相手させていただけるとは、身に余る光栄と存じます」


 サラッと手の甲にキスされた……。

 もしかしてシノンさん……わたしのことが好きになったってこと⁉ どうしよう。いきなりそんな。まだシノンさんのことをよく知らないのに!


「ラダリィお嬢様も毎日王宮で働かれて、陛下や王族の方々、そしてアリシアお嬢様のような重要なお客様のお相手もされておられますし、大変名誉あるお仕事に就かれていらっしゃいますね。ラダリィお嬢様のお相手をさせていただき感謝しております」


「うふふ♡ デューク、ありがとう♡ 好きよ♡」


「ラダリィお嬢様、身に余る光栄でございます」


 うわ……めっちゃラブい雰囲気……。2人は付き合ってるの⁉ 執事喫茶しゅごい……。



「そろそろコースをお願いしたいのだけれど」


 ソファ席でなんとなく親交を深めていると、ラダリィがそうつぶやいた。デュークさんがさっと立ち上がり、ラダリィの足元に跪く。


「本日はいかがいたしましょうか」

 

「そうね……。私はマッサージコースをお願いするわ♡」


「かしこまりました。それではお部屋にご案内いたします」


 ラダリィが席を立ち、デュークさんにエスコートされて部屋から出て行こうとする。


「え、ちょっと、ラダリィ? どこいくのよ?」


 わたしを1人にしないで?


「んふふ♡ ここからは別々で♡ またあとで会いましょう♡」


 そう言い残すと、ラダリィとデュークさんがイチャイチャしながら出て行ってしまった……。

 別々って……。


「アリシアお嬢様。初めてのご利用ですから、コースのご説明をさせていただきますね」


 シノンさんが微笑む。

 いつの間にか手にしていたメニュー表を開いて見せてくる。


「標準のコースといたしまして、A~Cまでの3つのコースをご用意しております」


 A:フリーコース

 B:お散歩コース

 C:マッサージコース


「ラダリィが選んだのはCのマッサージコース、ってことですか……」


「はい。その通りでございます。立ち仕事の多いお嬢様方に人気のコースとなっておりまして、別室で全身もみほぐしをさせていただいております」


「なるほど……。ラダリィはメイドさんだから立ったり座ったり大変そう……」


「ラダリィお嬢様は2日に1度はおかえりになられます。たいていはマッサージコースをご選択されておられるようですね」


 2日に1度って、めっちゃ通ってる!

 常連すぎるでしょ! メイドさんってそんなにマッサージが必要なの……。


「あ、じゃあ、ほかのAとBのコースもどんなものか教えてください」


「かしこまりました。Aのフリーコースは、このままこのお部屋でお茶を楽しんでいただきながら、お話をさせていただくコースとなっております」


「まさにフリー。まあそっか。愚痴とか言いたい人もいるでしょうからね」


「そうでございますね。日常で起きた悩みや吐き出したい愚痴など、なんでもぶつけていただいてけっこうです」


 執事……大変な仕事だ。

 執事のための執事喫茶も必要なんじゃないの?


「Bのお散歩コースは、店外に出て、王都内であればどこでもお好きなところにご一緒するプランとなっております」


「買い物とか?」


「お召し物を一緒に選びたいとおっしゃられるお嬢様が比較的多いかと存じます」


「男の人の好みは知りたいでしょうからねー。まあ、なんかわかります」


「そのほかですと、健康のためのウォーキング目的でお選びいただくお嬢様もいらっしゃいますね」


「ウォーキング⁉ 1人でやればいいじゃないですか……」


 わざわざ執事さんと一緒にやる意味は?


「お1人ですとなかなか続けられない、そんなお嬢様もいらっしゃるのです。私たちがご一緒に歩きながら励まし、時には叱る。とくに貴族のお嬢様には少なくない需要がございます」


「ほぇー。みんな苦労してるんですね」


 貴族のお嬢様だと運動する機会も少ないのかな。

 豪華な料理を食べ過ぎちゃったりもしそうだなあ。でも、ドレスのコルセットはめちゃくちゃきついから、ダイエットがんばらないと……。たしかに需要ありそうだわ。


「んー、じゃあ、わたしはBのお散歩コースでお願いできますか?」


「かしこまりました。アリシアお嬢様のご準備がよろしいようでしたら、さっそく外へ参りましょうか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る