第27話 アリシア、勝負を受ける

「俺は剣で、アリシアは魔道具で戦おう!」


 えー、マジだるい……。

 魔道具っていったって、基本は対魔物用だから……死ぬよ?


「木刀じゃないんだし、わたし手加減できないですよ?」


「俺もそこそこ修行して強くなっているから、きっと大丈夫だ!」


「いや……魔道具ってそういうのじゃなくて……」


 本気出したら、数十km離れたところから、レーザーで王都丸ごと焼き払うこともできるんですよ? 一度防護フィールド張ったら、相手がどんなに剣の達人も、たぶん一個大隊でも、わたしに近づくことさえもできないんですよ?


「アリシアさん、少しだけ殿下のお相手をしていただけませんか。どうかお願いいたします」


「うーん、はーい、わかりました……」


 ラッシュさんにそこまで頭を下げて頼まれちゃったら、まあ仕方ないかー。

 ライトサーベルの出力を最小の最小まで抑えて……これなら当たってもしびれるだけ……気絶だけで済むかな? 王族を真っ二つにしたりしたら、さすがに謝って急いで蘇生しても許してもらえないだろうからちょっと怖いな……。


「それがアリシアの得物か! 初めて見る武器だ……」


 でしょうね。

 なるべく人には見せないようにしてるもの。


 まずはライトサーベル通常モード。

 魔力を通すと、刀身が深緑の光を放つ。


「魔力をエネルギーに変換しているのです。出力は絞ってあるのでたぶん死なないと思いますが、かかってくるならある程度の覚悟はしてくださいね」


「覚悟……」


 スレッドリーがつばを飲み込む音が聞こえてくる。


「さっきも言いましたけど、わたし、剣術系のスキルは持っていないので、寸止めとか、気の利いたことはできませんから」


 剣術は見様見真似の我流。基本戦術は近寄ってくる魔物を最大出力で薙ぎ払う。ライトサーベルのブレード部分はそのためだけに存在してますからね。


「殿下は何を使ってもかまいませんよ。木刀でも、なんならその腰に下がっている真剣でもね。もちろん、遠慮なく『剣聖』スキルを使ってください」


 どんな武器を使ってもわたしに当たることはないし、その前に勝負は決まるし?


「美しい女性に真剣で挑むなど王族の名折れ。修練剣で行かせてもらう」


「そういうお世辞を言う部分だけは成長されたようでー」


 だから美しいとか……たまに王子様って感じを出してくるのやめてよね。悔しいけれどちょっとドキッとしちゃう。

 

「いざ参る!」


 スレッドリーの雰囲気が変わる。


 下段に剣を構え、腰を落として少し前のめりな姿勢で静止。

 めずらしい構えだね。


 左足がジリッと地面を擦り、わずかに腰が左に傾いだその時、スレッドリーが瞬間移動したかのようなスピードでわたしに肉薄してきた。


 さすが剣聖!

 

 だけど、甘い!


「太陽拳ーーーーー!」


 刹那、深緑色のサーベルが発光して純白に変わる。朝、カーテンを開けて朝日を直視した時の光量――それの何十倍。網膜を突き刺すような光が、コンマ数秒の間にわたしを中心に放射状に広がっていく。わたし以外のすべての生き物の視界を奪う大技だ。


「うぉあ⁉」


 驚きとも悲鳴ともとれる叫び声をあげて、スレッドリーの動きが一瞬止まる。


「隙あり!」


 目が眩み動けなくなっているスレッドリーとの距離を詰める。深緑色に戻ったライトサーベルを、無抵抗なスレッドリーの体に当てて回るだけの簡単なお仕事♪


 両肩、両腕、両足、最後に胴――。

 頭は勘弁しておいてあげましょうね♪


 太陽拳の光が収まった後に残されたのは、全身がしびれて気絶しているスレッドリーと、それを見下ろすわたしの姿だった。

 

「勝負あり、ですね。って聞こえてないか」


「す、スレッドリー様! ご無事ですか⁉」


 血相を変えて走り寄ってくるラッシュさん。


「たぶん気絶しているだけなので平気かなと? ケガをしないように触ったつもりです」


 一応『構造把握』してみたけれど、外傷はなし、と。


 あ、ごめん……。なんかたぶんこれ……ううん、間違いなく絶対見ちゃいけないものを見ちゃった……。


 特徴:ドM(死の淵に立つとその分だけ強くなる。またその状況に追い込んだ相手に激しい好意を持つようになる)


 ヤバいヤツだ……。


 スレッドリーくんって、修行つけてくれてるラッシュさんのことめっちゃ好きじゃん……。あ、でも同性としての尊敬だけなんだ。そこはセーフか……。


 で……わたしのこと好きすぎでしょ……。えっ、なんでなの? わたし、スレッドリーのことを死の淵になんて追い込んだことないよ⁉ ああっ、10歳の時に精神的ダメージを……ってそんなひどいことしたっけ⁉


 うわー、やっぱり男女の友情なんて存在しないんだー!

 やばい……今は完璧に叩いちゃったし、このラブ度からしたら、今スレッドリーの目が覚めたりしたら、マジで求婚されちゃうんじゃないの⁉


 そんな! 心の準備が!

 今はちょっと……かなーりかっこよくなってても、あのスレッドリーだよ⁉


 あーーーーーーーーーーーーーーーーー!


 えー、やばいやばいやばいやばいやばい、どうしようどうしよう。



 よし、今は逃げよう!



「わたし、ちょっと急用を思い出しました! 先を急ぎますので殿下には謝っておいてください!」


 ずっと空気のごとく壁際に佇んで様子を見ていたゴリラ騎士団長を引っ張って、王宮の中へと走り去る。もちろん、ローラーシューズ最大出力だ!


 あー、やばいやばいやばい。

 だってあのスレッドリーだよ、あのスレッドリー!


 うわー、どうしよう!

 求婚されて断ったら……死罪?


 え、でも断る必要あるんだっけ?


 いやー、でも求婚を受けたら王女? 女王? 側室? わたし何になっちゃうの?


 ムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリ!

 まだ心は10歳なんだよ。そんなこと考えられないよ!


 暑い暑い、暑いよー!



 誰かー!


 ロイスー! わたしを助けてー!

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