第26話 アリシア、王宮内で呼び止められる
「アリシア~! ようやく参ったか~!」
後ろから大きな声で呼び止められる。
こんな王宮内で、わたしの名前を呼ぶのは誰?
振り返ると、そこにいたのは大変身なりの良さそうな若い男性だった。
……誰?
「アリシア、会いたかったぞ!」
いや、ホント誰?
わたし、王都に貴族様の知り合いなんていないんですけど。
「アリシアが来ると知って、ずっと待っていたんだ。すっかり美しくなったな!」
「は、はい。ありがとう、ございます?」
だから誰よ?
金髪で超絶イケメンな貴族様……お店にいらっしゃったお客様かな。んー、ぜんぜん覚えてない。こんなにかっこよかったらさすがに印象に残っていると思うんだけど。
「まずはご挨拶をしませんと、レディに失礼ですよ」
遅れて歩み寄ってきたその人物は――。
「ああ、そうだったな、ラッシュ。ついうれしくなってしまって」
あれ? ラッシュさんだ!
え、待って⁉ じゃあ、この爽やかそうに笑うと歯が光るイケメンは、うそうそうそうそ!
わたしの目の前に立ち、左手を広げ右手を胸の前に。それからゆっくりとしゃがみ込むようにお辞儀をしてくる。
「王宮へようこそ。アリシア=グリーン様。おひさしぶりでございます。スレッドリー=フォン=パストルランにございます」
うっそ、スレッドリー⁉
あのチビで鼻たれで、いけ好かない成金小僧で、わたしの初めての友だち――。
こんなのわたしが知っているスレッドリーじゃない……。
「あ、え、あの……おひさしぶりです。その節はどうも……」
しどろもどろ。
ええい、わたしは何を緊張してるんだ! あのスレッドリーだよ⁉ 世間知らずのお坊ちゃま! と思ってたけど……第2王子様なんだっけか。何でこんなにいかにも王子様って感じに成長してるのさ……。くっそー、育成成功していてちょっと悔しい……。
「なんてな! 硬い挨拶はこれくらいにしよう。友だちに対してそんなにかしこまることはない、だろ! な、ラッシュ?」
「アリシア様がそれで良いなら。私もご挨拶を。お久しぶりですね。ラッシュです。その節は大変お世話になりました」
ラッシュさんは変わってないねー。
今もずっとスレッドリーのお付きなのかな。
「こちらこそお世話になりました。まさか殿下とは知らず、無礼な態度をとってしまい申し訳ございませんでした」
「あれは殿下が悪いのです。王都以外の街を初めて散策し、舞い上がっていらっしゃいました。とてもお恥ずかしいところをむしろ助けていただき……とても感謝しているのです」
やっぱりラッシュさんは常識人ね。
「もう5年も前のことじゃないか。そんな昔のこと忘れた忘れた」
と、腰に手を当てて笑うスレッドリー。
こいつ、やっぱりスレッドリーだわ。ぜんぜん中身は変わってないわ。ちょっとはあの時のことを反省して成長していてよね。
「お忘れになったなどご冗談を。あれからずっと毎日、殿下はアリシア様の話しかしなかったじゃないですか」
「おい、それは言いすぎだろ!」
「アリシア様に教わった領地経営、そして人との接し方。『アリシア様ならこうするだろうか』『アリシア様に褒められるためには』『アリシア様に会いたい』と、毎日毎日お付き合いさせられたものです」
「そ、それは! アリシア本人の前で言うのは反則じゃないか⁉」
おや、スレッドリーくん、顔が真っ赤ですよ?
そんなにわたしのことが好きだったのかな? たった半日ほどでずいぶん懐かれたものですわ♪
「俺だって努力くらいするさ。教えてもらってばかりでは恥ずかしいからな。次に会う時は、アリシアと対等に話ができる友人として振る舞いたい、そう思っていただけだ!」
スレッドリーの鼻息が荒い。
がんばればちゃんとやれる人だったんだ。さすが王族って感じかな。えらいえらい♪
「殿下、努力されることはとても素晴らしいことだと思いますよ。わたしも日々努力してますからね。冒険者登録もして、魔物をバッタバッタとなぎ倒しております♪」
どう? スレッドリーくんや、わたしの強さについてこられるかな?
「ほう、アリシアは冒険者もやっているのか」
スレッドリーの目が光る。
腕に覚えあり、っていうことかな? そういえば、ラッシュさんは聖騎士だっけか。ラッシュさんから剣術の指南は受けていそうね。
「わたし、Aランク冒険者なので、けっこう強いんですよ?」
「Aランク! たしか、ラッシュもAランクだったよな?」
「はい。王宮にお仕えする前はAランク冒険者として活動しておりました。アリシア様もその若さでAランク認定されるとは……」
「暫定ですけど、認定されたのは10歳の時です」
「なんと!」
ラッシュさんの目が見開かれる。
ふふ、驚いた? 驚いたよね⁉ わたしってば、やっぱり強いんだー♡
「アリシア! 1回手合わせしてくれ!」
「へっ? 手合わせ?」
「修練用の木刀ならいいだろ!? な、頼むよ!」
スレッドリーが手を合わせて拝んでくる。
ラッシュさんのほうをちらりと見ると、「すみません、言い出したら聞かないので、一度だけお願いします」みたいな目でこちらを見てくる。
えー、マジぃ?
「わたし、Aランクですけど、剣術系のスキルがあるわけじゃないのでー」
「そうなのか! 俺は『剣聖Lv4』なんだ。けっこうがんばって修行してるんだぜ」
「剣聖スキル! いいですね。将来が楽しみですね!」
そっか。パストルランの血を引いているから、初代国王の遺伝で『剣聖』スキルが?
「アリシアはどんな得物で戦うのが得意なんだ?」
「んーと、いろいろ自分で創っ……調整したオリジナルの魔道具、ですかね……」
あんまりそこは深くつっこまれたくはない。
「魔道具か! かっこいいな! それでいいよ。俺は剣で、アリシアは魔道具で戦おう!」
えー。だるー! 木刀で適当にやろうよ……。
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