第24話 アリシア、勅命が下る
「アリシア=グリーンに勅命が下っている。我々と一緒に王都に来てもらう」
え、わたしですか?
何かやっちゃいましたか?
近衛騎士団に怒られるようなことは何もしていないはず……最近、北部のダーマス領から戻ってきたばかりだもん。
「私は『パストルラン王国第6近衛騎士団』団長・タカルディ=ラリアッタと申す。アリシア=グリーンに勅命である。王都に同行していただこう」
うわっ、ムキムキゴリラ!
ズッキーさんよりもはるかにでかい!
「近衛騎士団の団長さんがわざわざわたしを出迎えに? 勅命って王様の命令ってことですか?」
「そうだ。アリシア=グリーンには陛下に謁見していただく」
強制イベントって感じ……。
絶対連行するぞオーラが半端ないよ……。
ふぇぇん。ミィちゃんどうなってるのー?
『私よりもスークルのほうが詳しいかと。ひとまず悪い話ではありませんよ』
そうなの?
怒られるわけじゃなくて?
『なんだお前、王に怒られるようなことをしたのか?』
スーちゃん……。
王様に怒られるようなことは……たぶん何も?
『たぶんか、気をつけて生きろよ。しかし、今回は怒られないから安心しろ。王への謁見はこの間の件だよ』
この間の件?
『「殿」の件だ』
あー、異空間のヤンスの話! 対話の橋渡しがどうのって件ですね?
『そうだ。王が当事者であるお前の話を聞きたいということらしい』
さらっと言いましたね……。
わたしが当事者だって、けっこう広まっているんですか?
『いや、もちろんこの件は最高機密だから王宮でも一部の者しか知らない』
そうなんですね。
そのわりに、近衛騎士団なんて仰々しいものが目の前に現れているんですが……。
『そいつらはただのお使いだよ。事情は何も知らされていない。お前を迎えに来た、ただそれだけだ』
そんなことしなくても、スーちゃんが声をかけてくれたらすぐに王宮でもどこでも行くのに……。こんな大層な迎えが来てしまったら、みんなに説明するのが大変になっちゃう。
『ただのお使いにも意味はあるんだよ。お前のような小娘が1人で現れて王宮の門を叩いたとしたら、たとえ正式なアポイントメントがあったとしてもそう簡単には中に入れてもらえない。迎えがあればそこがすんなりいくわけさ』
自分で呼んでおきながらそんなふうになるのですか。王宮って大変なんですね……。正直あまり関わりたくないなー。
『ではそいつらと一緒に王宮に来い。謁見の間で会おう』
はーい。って、ダメですダメです! この後ロイスの結婚式があるので、謁見はその後にしてくださいよ! そもそもスーちゃんだって信徒の結婚をお祝いしなきゃ。
『結婚式か……。忘れてたな』
忘れないで! スーちゃんの大切な信徒のロイスにとっては一生に一度のことなんですよ! ちゃんと祝福してあげて!
『5日後か。それに出席してからだと王との約束の日に間に合わんな』
謁見の日はいつなんですか?
『6日後だ』
それなら、結婚式が終わってすぐに、女神様のワープ的なあれで移動すれば間に合うのでは?
『オレは間に合うが、アリシアは間に合わん』
わたしも一緒に連れて行ってくださいよー。義妹泣いちゃう。ぐすんぐすん。
『しかし、お前は近衛騎士団とともに王宮入りしなければいけないからな……』
そこを何とか……。
スーちゃんは女神様なんだし、なんとかできるでしょ?
『できないことはないが……役目を果たせなかった第6近衛騎士団は良くて解体。悪ければ全員死罪だな』
うわー、前時代的! ホントにそんなことあるの⁉
さすがに目の前にいるこの人たちが死罪になってまで結婚式にいくわけには……。えー、どうしよう。でもロイスの結婚式にわたしが行かないなんて。同郷の親友……。手紙で済ますわけにはいかないですよー。
『よし、わかった。オレに良い考えがある』
なんですか? 誰も死罪にならないです?
『ああ、大丈夫だ、任せておけ。お前はこのまま近衛騎士団と王都に入れ。あとは何とかする』
スーちゃんがそう言うなら?
でもわたし、絶対ロイスの結婚式には出たいので、何とかしてください! お願いします!
『ああ、ドレスは王都に準備させておく』
ドレスを準備? まあ、お任せしましたからね!
「アリシア=グリーン、大丈夫か? 私の話は聞こえているか?」
目の前の騎士団長様が眉根を寄せてこちらを見ていた。
しまった。スーちゃんとの会話に夢中になってすっかり待たせちゃった。
「あ、はい。すみません、急に神託が……」
「すぐに出立と言いたいところだが、アリシア=グリーンにも準備の時間が必要だろう。1時間後に、ガーランド門の前に来てくれ。良いな?」
意外とやさしい……。
顔も体つきも、前世の動物園の資料で見たゴリラにそっくりなのに。後ろ向いたら急にうんち投げつけられたりしないよね?
「はい、急いで準備して向かいます! お気遣いいただきありがとうございます!」
頭を下げたまま、後ずさりする。
「ちょっとエデン!」
遠くのほうで見物していたエデンを呼び寄せて耳打ちする。
「わたし、なんか王様から呼ばれているみたいで、このまま王宮に行くことになっちゃったから。ソフィーさんたちにそう伝えてくれる?」
「ええっ⁉ ロイスの結婚式は5日後だよ⁉」
「うん、わかってるけど、勅命だから動かせない日程らしいの。でも、結婚式のほうはスーちゃんが何とかしてくれるって言ってたから、そっちは後から指示に従って!」
「スーちゃん?」
「女神・スークル様よ。ロイスが信仰している女神様!」
「スークル様! 何とかするってどういうこと?」
「さぁ? 女神様が何とかしてくださるって言ってるんだから細かいことは気にしないの!」
わたしだってスーちゃんがどうするかなんて見当もつかないよ。
「そんなぁ」
「情けない声出してないですぐお店に帰ってみんなに知らせて! きっとスーちゃんからそっちにも何かしらの連絡が行くはずだから」
「い、Yes、暴君少女!」
「良い返事ね。じゃあ、わたしは工房に帰って親方に話をしてから、王都行きの準備してそのまま出かけるからね。あとはよろしく!」
うーん、王都かー。
一度は行ってみたかったけど、急だねー。
まあ、考えていても仕方ないよね。
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