第23話 アリシア、VIPルームに誘う

 ハインライトさんとエミリーさんが結婚する⁉


「うっっっっっそでしょっ⁉」


 またまたー、エブリンさんたら♪ ひさしぶりに会ったからってわたしをからかおうとしても無駄ですからね? さすがにその手には乗りませんよ?


「本当のことです」


 エブリンさんが微笑んでいる。まったく表情を崩す気配もない。……うそぴょんは?


「マジのマジ?」


「マジのマジです」


「そんなことが……何がどうなるとそうなるんですか……」


 おかしい。

 ありえない。


 ハインライトさんはズッキーさんのことが好き。

 エミリーさんはエブリンさんのことが好き。


 2人とも『構造把握』で見えるくらいにはわりとはっきりと本気の部類だったはず。それがなぜ……。人の気持ちは5年半でそんなにも大きく変わるものなの?


「人族の成長は著しい。あんなに幼かったエミリーも今ではすっかり大人ですから。エルフ族から見ると羨ましい限りです」


 エブリンさんは少し淋しそうな笑みを浮かべる。


「大人ですか……」


 エミリーさんは今17歳かー。わたしより2つ年上だ。

 出会った頃でも年齢のわりに十分大人っぽかったと思うけれど、エブリンさんからするとまだまだ幼く見えていたということなのね。


 長命のエルフ族からしたら、わたしはどんなふうに見えているのかな。10歳の幼い子ども? それとも15歳相応の大人?


「馴れ初めについては2人に聞いてあげてください。恥ずかしがって話さないかもしれませんけれど」


 そう言って、再びいたずらっぽく笑う。


「じゃあ、披露宴に出席してインタビューしちゃいますね! 楽しみだなー」


「ほどほどにお願いしますね。エミリーは身重な体なのでお手柔らかにしてあげてください」


「へっ? 赤ちゃんが⁉」


 そ、そうか。

 結婚ともなるとそういうことも……。

 ハインライトさんとエミリーさんはそういう関係なわけで!

 あんなにかわいいエミリーさんに赤ちゃんが……って、ハインライトぉ! お前そっち系じゃなかったのかぁぁぁぁ!


 はっ! ダメよ、アリシア。あなたは15歳。大人としてちゃんと2人を祝福しなきゃ……。ああっ、でも今ハインライトさんを見たら、反射的に殴ってしまいそう。

 

 だけど……ここに至るまでにいろいろあったはずよね。

 ハインライトさんにだって、あんなに好きだったズッキーさんのことをあきらめる何かが……。尋ねたとして、素直に話してくれるのかな。いや、濃いめのお酒飲ませて、エミリーさんのいないところで聞きだすか。


「私はこのブローチに決めようかしら」


 エブリンさんがショーケースの中を指さす。

 宝飾店の店員さんが取り出したのは、大きな雫の形をしたエメラルドを中心に飾った、シンプルな銀細工のブローチだった。エメラルドの純度が高く、非常に高価なのがわかる。そして、とても腕の良い職人の手による品。


「良いですね。エメラルドかー」


 たしか、前世の知識によると、石言葉は「夫婦愛」。結婚する友人に贈るのにぴったりかもしれない。


「わたしたちもエメラルドにする?」


「あ、うん。すごく素敵だね。ロイスの瞳の色だ」


「たしかにそうね。ロイスに似合いそう!」



* * *


 宝石の種類はエメラルドに絞ったものの、ブローチ、ペンダント、ネックレス、イヤリング、リング……うーん、迷う……。

 わたしもエデンも宝飾品のことがぜんぜん分からず、店員さんとエブリンさんにあれこれアドバイスをもらい、ようやく買うものを決めた時には、もうすっかり夕方になってしまっていた。


「なんかすみません。わたしたちの買い物に付き合わせてしまって……」


「気にしないでください。ロイス様への贈り物を一緒に選べるなんて光栄です」


 なんて良い人!


 ついでに『構造把握』!

 よし、エブリンさんは引き続きフリー! まだわたしにもチャンスはある!


「きょ、今日のお礼に今度どこか食事でもいかがですか?」


 勇気を振り絞って、デートのお誘い!


「そんなお礼だなんて。お気になさらずに。私の好きでさせていただいたことですから」


 ガードが堅い。

 こうやってみんな玉砕してきてるんだろうなー。


「ですが、『龍神の館』のお料理は評判ですから、一度は口にしてみたいですね」


「なんと! ぜひぜひ! いつでもVIPルームを開けますから! ね、エデン?」


「もちろんです。お店の料理は暴君のプロデュースによる自慢の品々です。どれを食べてもおいしいのでぜひいらしてください。ボクのパフォーマンスも見てください」


 いいね、エブリンさんのためだけに踊ろう! わたしも参加しちゃう!


「そうでした。エデンさんは大人気のパフォーマーさんでしたね。ローラーシューズショーは人気が高くて、簡単にはチケットが取れませんもの」


「エブリンさんのためなら、いつでも特別な演目を披露しますよ。ね、エデン?」


「もちろんです。ボクも精一杯のパフォーマンスを披露させていただきます!」


 エデンも乗り気だね。

 まあ、今日だけでもめちゃくちゃお世話になったし。


「ご都合が良い日を教えてください。VIPルームの空き状況を確認しますから」


「そう、ですわね……」


 エブリンさんが予定を確認しだしたその時だった。


「どけっ。無礼者ども。道を開けろ!」


 なんか通りの向こうがやたらと騒がしい。どうしたんだろう?


「何事です⁉ 武装も解かずに隊列を組んで街を進行するなど非常識ではありませんか⁉」


 速い。

 閃光のごとくエブリンさんが飛び出していき、騒ぎの中心――所属不明の部隊とにらみ合っていた。


「我々は『パストルラン王国第6近衛騎士団』である」


 近衛騎士団? 王様の護衛をする部隊がなぜガーランドに?


「私は『王立ギルド・ガーランド伯支部』ギルドサブマスターのエブリン=ソルスティアムです。近衛騎士団がガーランド伯領に何用でしょうか?」


 そうだそうだー。街のみんなが不安がってるじゃないかー!


「そこのアリシア=グリーンに勅命が下っている。我々と一緒に王都に来てもらう」


 えっ、わたし?

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