第22話 アリシア、宝飾店で懐かしい顔と再会する

「結婚する友人に贈るモノって何がいいんだろうね……」


 エデンに付き合ってもらって、市場のお店をあれこれ見て回っていた。


 ロイスを祝福するための贈り物探し。

 明日にはビーリング伯領に向けて出発しなければいけないから、今日中に何か見つけないと……。


「ボクも友だちが結婚するのは初めてだから勝手がわからないよ。あ、お花はどうかな?」


 エデンが目の前の花屋を指さして目を輝かせる。


「お花は良いわね。とりあえず大きな花束は買っていきましょう! お姉さん、結婚式に持って行く用の花束ください! 少し日持ちのするやつ!」


 定番だから花束は必要。

 でも、それだけってわけにはいかないよねー。

 何かモノ。形に残る物体の贈り物がほしいかなー。


「やっぱり宝飾品が無難?」


「女の子に宝飾品は必要だって言うよね。ドレスに合うブローチやネックレスだと喜ばれるのかな」


 意外な答え。「ボク、宝飾品のことなんてわからないよ」って情けない回答がくると思っていたのに、まさか誰かに贈った経験がある⁉ 5年半の間にそんな相手! って、これだけのイケメンに育ったわけだし、そんな相手がいてもおかしくないかな。


「エデンはそういうプレゼントを誰かに贈ったことあるの⁉」


「まさか! そんなの贈る相手がいないよ~」


「だよねー。エデンにそんな相手ができるわけないし、気の利いたことするわけないかー」


「暴君ひどい!」


「あはは、ごめーん」


 そんな冗談を言いながら、心の中でほっとしている自分がいることに気づいていた。


 エデンは女性が苦手。

 でもわたしやロイスとだけは普通にしゃべることができる。それは仲間だから。ある意味、わたしたちは特別な関係なのだ。


 5年半経っても、その関係は継続していた。

 姿は成長しても、エデンは変わっていなかった。そのことがひどくうれしかった。


「じゃあさ、一緒に選ぼうよ。ロイスが驚くようなステキな宝飾品を贈っちゃおう!」


「それいいね! さっそく見に行こう!」


 かつてないほど積極的なエデンに引っ張られ、街一番の宝飾店へと足を踏み入れた。


「あれ? エブリンさんだ!」


 高級ジュエリーショップで、まさかの見知った顔に遭遇!

 高貴なエルフと宝石。似合い過ぎて困る。


「アリシアさんとエデンさん。おひさしぶりですね」


「……どうも」


 エデン、人見知り発動。

 まあいいけどね。


「アリシアさん、事情は軽く聞いていますよ。無事復帰なされたようで何よりです。ギルドのほうにも顔を出してくださいね」


「はいー。その節はご心配をおかけしました!」


 やはりAランクの冒険者ともなると、その辺りの情報は伝わっているみたいね。まあ、いろいろ説明しなくて済むし、こちらとしては助かる。熊のギルドマスターにも挨拶に行かないとね。


「お2人で来られた、ということは……そういうことですか。おめでとうございます」


 エブリンさんがニヤリと口角を上げて、覗き込むようにわたしたちの顔を代わる代わる見てくる。

 何を……はっ!


「違う違う違う! ぜんぜん違いますー! 友人が結婚するので贈り物をしようと思って! 違いますからねっ⁉」


 あー、びっくりした!

 何その「わかってますから」顔!

 ふぅ、暑い暑い。ここ、風通し悪くないですか?


「あら残念。ロイス様によろしくお伝えくださいね」

 

「くっ、全部わかっててからかいましたね……性格悪っ!」


 ずっとニヤニヤしたままのエブリンさん。さすがエルフ族、5年半くらいじゃ見た目はぜんぜん変わらないなー。


「ところでエブリンさんはこちらにどんなご用事で?」


「私も友人たちに贈り物をしようと思いまして」


 エブリンさんがブローチのコーナーに視線を向ける。


「そうなんですねー。もしかしてご結婚とか?」


 エルフ族も宝飾品を贈る習慣があるんだ。ちょっと意外。花冠を編んでそうなイメージがあった!


「そうなんです。知らない仲ではありませんし、このタイミングで復帰されたのなら、アリシアさんにも……エデンさんもですね、ぜひ出席していただきたいですね」


「ん、というと?」


「来月、結婚披露宴が開かれる予定なのです」


 知らない仲ではない……ということは!


「もしかして、ズッキーさんとハインライトさんの妹さんですか?」


「ええ、そうです。ズッキーとハインの妹・フルールが結婚することになりまして」


「おめでとうございます! フルールさんとはまだお会いできていないですが、ぜひお祝いさせていただきたいです! ね、エデン?」


「あ、うん。おめでとうございます」


 そっかー。

 前に一緒に冒険していた時は、ケガで療養していたハインライトさんの妹さんも無事復帰して、そのまま仲良くやってきたのね。ズッキーさんやるぅ♪


「それともう1組」


「もう1組?」


「ハインとエミリーも同時に披露宴を行う予定なのです」


 へ?


 今なんて……?


「ハインとエミリーです」


「え……えええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ⁉」


 あの根暗でアル中で……ズッキーさんに密かに想いを寄せていたハインライトさんと、エブリンさんのことが好き好きアピールをしていたエミリーさんが⁉

 

 2人ともそんな素振りなかったじゃないの!


 いったい何があったーーーーーーーーー⁉

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