第21話 アリシア、チームドラゴンと再会する
エリオットにお姫様抱っこされたまま、お店の中に突入していく。
昼営業の開始直前の時間。
多くの天使ちゃんたちがせわしなく動いているのが見える。見知った顔、知らない顔、たくさんの天使ちゃんたちの視線が集まってくるのを感じる。
エリオットは華麗なローラースケーティングで、人が交差する廊下をスルスルと抜けていく。
わたしも最初は愛想笑いをしていたものの、だんだんといたたまれなくなってきて、エリオットの分厚い胸板に顔を隠すようにうずめてしまう。
普通にお店に戻るだけでも恥ずかしいのに、お姫様抱っこは超きつい!
「もう下ろしてよー!」
「はっはっは! みんな、我らの暴君がご帰還だぞ! どけどけ~、道を開けろ~!」
ますます調子に乗るエリオット。
くっ、このままではまずい……意識を刈り取るか。
「どいてどいて~! みんなどいて~! 暴君が帰ってきたってホント⁉」
高く透き通るような声。懐かしい声が遠くから近づいてくる。
「おう! エデン、ここだ!」
エリオットの大声に合わせて、その胸板が振動する。
「暴君! ホントに暴君だ! 無事だったんだね! 良かったよ……わ~、暴君だ!」
テンションの上がり下がり激しいな!
ちょ、やめてエデン、抱きつかないで! エリオットの胸板とサンドイッチにしないで! って、エデン、あなた背が伸びたわね! 顔は見えないけど。
「やっと追いついたっす。暴君、おかえりっす! 待ってたっすよ~」
2人の男の隙間から、セイヤーの顔が見え隠れする。イケメン少年からイケメン青年へと成長したセイヤーがそこにはいた。少し照れたような安心したような表情を浮かべ、鼻の下を擦っている。
「ただいま……って、セイヤー! この2人何とかしてー!」
「自分には無理っす!」
きっぱり。
諦めが速い! ちょっとはなんとかしようとする素振りを見せて!
* * *
「そっか……。そんなことがあったんだね……」
テンションの上がりきった3人(主にエリオットとエデン)に、しばらくの間ハグされたり胴上げなんかをされて……いい加減うるさいので鉄拳制裁。静かになった3人を引きずって控室に運び、治癒ポーションを振りかけ意識が戻るの待つ。
ようやく意識とテンションの戻った3人に、わたしの身に起きたこれまでの出来事を話し終えた。イマココ。
「つまり、暴君の中では北の方面に遠征に行ってから、1週間くらいしか経っていないってことっすか?」
「異空間から出てきて、なんだかんだあったから、2週間くらい? でも、セイヤーたちの過ごした5年半には程遠いね……」
わたしたちはチーム。
隠し事はしないことにしていたので、異空間で時を飛び越えてしまったこともすべて包み隠さず話したのだった。
「女神様たちに頼んで体だけ成長を……」
「それならもっと、ほら、大好きな巨乳にしてもらえば良かっ――」
あれれ? エリオットが急に寝ちゃった。練習で疲れてるのかな?
「やっぱりアリシアちゃんは変わってないっすね……。見た目が美人さんになってるのに中身は暴君幼女のままっす……」
「やだなー。セイヤーくんったらー美人さんだなんて困っちゃう♡ でもわたしは生まれた時から淑女よ? ねー?」
「はい、暴君は生まれた時から淑女っす……」
「ふふふ♡」
見た目が美人さんかー。
もう1回……1000000000回言ってほしいな♡
「このことはあまりみんなに知られたくないの? オーナーからはそういう話は聞いていなかったよ」
エデンが上目遣いで覗うように見てくる。
おおー、これがローラーシューズショー人気No.1アイドルのご尊顔! それにしても育成成功しすぎだよ……。前からまあまあイケメンだとは思っていたけれど、マジのイケメンに育ったなー。セイヤーとは方向性が違うイケメンって感じ? 陰と陽? それに5年半前よりも儚さが増したというか……真っ白できめ細かい肌にほんのり赤みの差した頬。思わず息をのんでしまう。雪女族の血おそるべし……一生推せるっっっ!
「女神様たちが誰にどう伝えているかわからないんだけど、あまり広くみんなには知られたくはないかな。ソフィーさんには折を見て伝えるつもりだけど、知っているのはここにいる3人とソフィーさんと親方と奥さんのスーズさん……あとはロイスにも伝えようかな」
ロイスにはまだ伝えられてなかった。
わざわざ工房を訪ねてきてくれたのに、結婚式の話でバタバタして終わっちゃったからなー。この話はもう少し落ち着いてからかな……。
ビーリング伯爵領は近くにあるけれど、頻繁に行き来ができるのかわからないなー。そもそも結婚したらご子息はどこに住むの? ビーリング伯爵領内? それともあらたな領地を賜ってそこに移住を? もしかして、結婚のタイミングでビーリング伯爵が爵位をお譲りになる?……何にもわからない!
「ロイスちゃんといえば、結婚式は5日後か~。ここから3日はかかるから、前乗りするとして、明日出発だな」
「そうだね。みんなで一緒に行こう」
「ついでに『ビーリング』の街を観光するっす!」
みんなロイスの結婚のことをしっかりと受け入れているみたい。
「アリシアちゃんも一緒に行くっすよね? 自分たちとオーナーがお店の代表ってことで式に招待されてるっすよ」
「うん。もちろん一緒に行くよ……」
わたしだけがついていけていない話題だ。
ちゃんと祝福すべきだって頭ではわかっているんだけど……。
「暴君? どうしたの? 暗い顔して、お腹減った?」
エデンがわたしの顔を覗き込むようにして様子を伺ってくる。
「そう、ね。お腹減ったかも。セイヤーなんか作ってよ! 5年半で料理の腕がどう成長したか見てあげるわ!」
「えっ、自分っすか。料理はあんまりやれてないっす……」
「うるせー! さっさと厨房行ってこい! 忘れたのかー⁉ わたしの命令は絶対だぞ!」
「い、Yes、暴君幼女!……暴君女? 暴君少女?」
敬称で迷うんじゃない!
「暴君女だと暴力女みたいだな。暴力女でも間違ってはいないが、暴君少女のほうがかわいげがある。暴君処女でもい――」
あれれ? エリオットがまた寝ちゃったね。何か気の利いた推理でもするのかな?
うーん、ロイスの結婚式かー。
なにか贈り物を用意しないとだよね……。
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