第20話 アリシア、懐かしい顔と再会する

「スーズさん! わたし、みんなに会って元気に挨拶してきます!」


 とは言ったものの……。

 まだお店は営業時間前だし……。


 わたしはだんだんと鈍っていく決心の中、『龍神の館』の正面入り口前をうろうろしていた。


 まだ誰も外には出てきていない。

 誰か知っている天使ちゃんが出てきてくれればなー。


「うちの店に何か用か?」


 ひぃ!

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。怪しい者じゃありません! 失礼しました!


 高速で頭を下げながら、ローラーシューズを起動してバックダッシュで店の前から走り去る。


「もしかして……暴君?」


「えっ?」


 わたしは足を止め、顔を上げて声の主の姿を見た。


「エリオット……エリオットだ!」


 ローラーシューズを逆噴射し、慌てて戻る。


 チームドラゴンの最年長。魔族のエリオットがそこにいた。

 5年半ぶりに会うエリオットはすっかり大人になっていた。どこか甘さの残っていた顔は精悍な顔つきに。さらに背も伸びて、筋肉量も格段に増えている。立派なボディービルダーになっちゃって……。

 

「暴君……本当にアリシアなんだな! 行方不明になったと聞いた時はどうしたらいいのかと……良かった……」


「ちょっと! 先に泣かないでよ! こういうのは女の子が泣くものでしょ……」


「うれしいのに男も女もないだろ……。それに暴君だって泣いてるじゃないか……」


 だってエリオットが泣くからつられて……。

 会いたかったよ……。



「へへへ。エリオットは元気にしてた?」


 ひとしきり泣いて、お互いに感情を落ち着かせてから、遠慮がちに言葉を交わす。


「あ、ああ……。オレもみんなも元気さ。ちゃんと2日おきにショーにも出演している」


「そっか。だいぶ筋肉仕上がってるもんね」


 二の腕をつついてみる。


「おう。リフトで5人一気に持ち上げるパフォーマンスが人気なんだ」


 両腕に力こぶを作り、ポージングするエリオット。

 うわっ、予想以上に筋肉の盛り上がりが……。それ以上鍛えるとボディービルダーみたいでちょっと怖いよ……。


「オリジナルの技も開発してるのね。すごいすごい!」


「エデンとセイヤーに人気が集まっているから、オレは2人に花を添える役さ。あとは新人にも人気で追い抜かれつつ……」


 エリオットはどこかさみしそうな笑いを浮かべる。

 そういえば異空間から戻ってすぐ、マーちゃんから聞かされたチームドラゴンの人気順……。ダントツ最下位のエリオット。がんばっているのにつらそう……。


「もうちょっと筋肉量を減らしたほうが女性ウケが良いんじゃないかなーとか?」


「筋肉は裏切らん! 女はすぐに裏切るからな!」


 荒ぶる鷲のポーズ。

 いや、この5年半の間に何があったのよ⁉ うーん、でもなんか予想できそう……。


「あ、2人はどこにいるの? 会いたいなー」


 もし良かったら、連れてきてくれるとうれしいんだけど。


「営業前だし、ホールで練習してるだろ。ひさしぶりに稽古をつけてくれ」


 わたしの手を取り、お店の中へ歩き出すエリオット。


「あっ、でも……」


 いきなりお店の中には入りづらいっていうか……。なんかもう部外者みたいなものだし……。


「どうした? ひさしぶり過ぎて店の入り口を忘れたのか? こっちだよ」


 半笑いでわたしの手をグイグイと引っ張ってくる。


「そんなの見ればわかるわよ! そうじゃなくて! 営業前に部外者がお店の中に入るのはちょっと……」


「部外者? 何言ってるんだ?」


 不思議そうな顔でこちらを見てくる。


「だってあれから5年半も経っちゃってるし……。知らない天使ちゃんもいっぱいいるし……」


「そりゃ店の規模がでかくなって人数も増えてるんだから当たり前だろ。なんだ? 5年も経ったら暴君もすっかりしおらしくなって、鬼の暴君魂はどこかに置き忘れてきたのか?」


「なによ、その鬼の暴君魂って! そんなの最初から持ってませんー。わたしはずっとかわいいかわいいアリシアちゃんですー」


「それそれ。懐かしいな。いつもの暴君幼女で安心したわ。しかしもう幼女でもないな。もう立派な女性だ」


 エリオットが目を細めてこちらを見てくる。


「ちょっ、いやらしい目で見ないでよ!」


 わたしは自分の体を抱きかかえるようにして、エリオットの視線を避ける。

 まさかエリオットがわたしに欲情を⁉ これが15歳の大人パワー! なんてことなの……まさかエリオットがわたしのことを……うん、別にそういう目で見られるのも悪い気はしないっ!


「見るか。そんなペラペラの体。オレはずっと年上のお姉さん好きだ。今のは一般論とお世辞だ」


「はいはい知ってましたー。どうせあれでしょ。怪しいお店に通い詰めて、そこのサキュバスのお姉さんに入れ込んで有り金巻き上げられたとかそんなことでしょ。わたしにパワーで勝てない見掛け倒しの筋肉だるまのクセして、一般論にお世辞だーあ? 生意気生意気生意気!」


 エリオットのくせにー!

 次わたしの体のことをからかってきたら本気出すかんなっ!


「み、見てきたように言うな! しかし大人になってもアリシアは相変わらずのキレだな。いや~、懐かしい懐かしい」


 笑いながらわたしの体をひょいと持ち上げる。

 お、お姫様抱っこ⁉


「ちょっと何よ!」


「四の五の言わずに行くぞ! みんなも喜ぶと思うぞ!」


 頭上からエリオットのウィンクが降り注ぐ。

 ぐへー。これも一般論⁉ 次やったら目を潰すよ⁉


「もうはずかしいからやめてー! 普通に歩くから下ろしてー!」


 ジタバタしてもエリオットは離してくれない。


 やだやだ。

 今は注目を浴びたくないの!

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