第16話 アリシア、決断する

「ロイス……会いたいよ……」


 会って、「わたしは元気だよ」って伝えたい……。

 でもきっとロイスはそっぽを向いて、「どうせアリシアのことだから、しぶとくどこかで生きているってわかってたわよ。あ~、心配して損した」って言うに違いないの。


 ああ、今すぐに会いたい……。


「ロイスだけではありません。ほかのみんな、アリシアのことを本当に心配しています」


 うん……。

 早くみんなを安心させてあげたい。


『それで、お前はどうするんだ? 時を進むのか、このままなのか』


 スーちゃんの問いかけ。

 15歳のわたしとしてみんなに会うのか、それとも10歳のわたしとしてみんなに会うのか。


 今、その決断をしなければいけない。


 でももう答えは決まっているの。

 みんなに会わずにいなくなる選択肢がない以上、こうするに決まってる。


「わたしは15歳のアリシア=グリーンになります」


 思い悩む必要なんてなかった。

 たとえすぐに別れがくるとしても、わたしはみんなと同じ時を生きていく。

 いつかその時が来て、ノーアさんのところで『賢者の石』の探求をすることになったとしてもこの気持ちは変わらないつもり。


 わたしは独りになりたくない。


 ノーアさんに猫のアイコさんが付いていてくれるように、わたしにも一緒に生きてくれる存在が現れたその時には――。


『それでいいんだな?』


「アリシアの気持ちを尊重します」


「あーしが言ったとおりだお☆」


「アーちゃん……もっとよく考えるのじゃ……」


 ちょっと待って。マーちゃん、そんなに泣かないで? わたしがダイナマイトバディになったら、そんなにダメ?


「魅力がなくなってしまうの……破門するかもしれないの」


 ひどい!

 わたしを信徒にしたのは体目当てだったの⁉


「2%だけ冗談なの」


 残りの98%は⁉

 それってほとんどなんですけど⁉


『マーナヒリン。そんなに悲しまなくとも、どうせアリシアの体なんて5年程度ではそう変わらんよ』


 あー、今、鼻で笑いましたね⁉

 バインバインで「専用のブラジャーがないと肩が凝って仕方ないのー」ってニヤニヤしながらため息ついてやるんだからねっ!

 道行く誰もが振り返って二度見するような美人になるんだからねっ!


『交渉Lv23』を舐めないでくださいよ!

 世界はわたしの虜よ!


『言っておくが、5年半の時を進めても、その分の経験値は得られないからな。ただ肉体年齢が進むだけだということを忘れるなよ』


 ふん、いいですよーだ。

 経験値なんて魔物を狩ればいくらでも手に入るんですからね!


『では7女神のうち過半数の承認のもと、アリシア=グリーンに特例措置を講じるものとする』


「承認します」


「承認するのじゃ」


「承認だお」


『承認』


 最後にスーちゃんが「承認」したその瞬間、わたしの体が光の玉に包まれる。


 あ、これ、洗礼式の時の――。


 懐かしい温かさだ。

 わたしはこの光によって前世の記憶を取り戻し、ギフトスキルを賜った。

 もう一度生まれ変わるのね。


 目を閉じ、女神の光を受け入れる。

 

 手足の末端から、体の感覚が消えていく。

 光の中に溶け、女神様と一体に――。


 突如、わたしの体は光の温かさから切り離され、白い世界から色鮮やかな世界へ。


 うっ、体が重たい……。


 ずっしりと感じる重力に思わず膝をつく。

 夢心地から一転、現実の世界に放り出された感覚だ。


「おかえりなさい、アリシア」


 見上げればミィちゃんの顔。

 いつも通り、やさしく微笑んでくれている。


「ただいま……」


「これが新しいあなたですよ」


 シンプルな手鏡をわたしに向かって見せてくる。

 わたしは膝に手を当ててからゆっくりと立ち上がり、ミィちゃんの手鏡を覗き込んだ。


「これがわたし……」


 思わず自分の顔に手をやって自分自身の存在を確かめてしまう。


 今まで見たことのないような、1億年に1度の美少女が鏡には映っていた――。


『それは少し話を盛り過ぎだぞ』


「心の声なんだからいいでしょっ! モノローグにまでツッコミを入れないで!」


 幼さが少しだけ抜け、幼女から少女へ。

 少しだけあご周りがすっきりして、ほっそりした印象がある。


 でも、間違いなくわたしだ。


 5歳、年齢を重ねたわたし。

 肩までだった髪の毛が腰の長さまで伸びている。

 手足が伸び、身長も少しだけ伸びた、かな?


 だけど――。


「わたしのバインバインはどこ⁉」


 スカスカ!


 まるで……まるで成長していないっ!

 安西先生! これじゃバスケできないですっ!


「なんで、どうして⁉ わたしの『交渉Lv23』はどうして仕事してないの⁉」


『だから過度な期待はするなと言っただろう……』


 スーちゃんが口元を隠して笑っている。

 周りを見れば、ミィちゃんもリンちゃんも視線を外して笑って……マーちゃんだけがうれし涙を⁉ ぜんぜんうれしくないんですけど!


「だって15歳って言ったら、ほら、女性として成長著しい時期なのでは⁉」


 こんな残念お胸じゃ恋人なんて!


「成長期は人それぞれですから……。もう少し先に期待しましょう」


「良いタイミングだお。『創作』スキルで良い感じに盛っちゃうお☆」


「一生そのままで、我のそばにいるのじゃ……」


 やだーーーーーーー!

 わたしは正々堂々勝負したいのー!


 ハーレムもほしいけど、まずは恋したいのー!

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