第15話 アリシア、みんなの近況を聞かされる

「もう一度訪ねます。アリシアはこの先の人生に何を求めますか?」


 ミィちゃんの質問。

 その真意はわかった。


 わたしは人生の岐路に立っている。

 異空間に囚われている間に過ぎてしまった5年半を埋めなければいけない。自分の肉体年齢か、それとも精神年齢のどちらかで。


 わたしはみんなのことが好き。

 ずっとみんなと一緒にいたい。


 だけどいつまでも『龍神の館』に居ちゃいけないのもわかってる。あのお店はソフィーさんのお城で、わたしは一時の間、貴族様とのパイプを繋ぐために居させてもらっただけ。その対価としてお店のプロデュースを手伝った。それだけのことなんだから。


 でも、気になるのが……ナタヌはどうしてるかなあ。

 わたしが「教育係をする」なんて息巻いてはっぱをかけたのに、いきなり5年半も不在にしてしまって……。あー、孤児院に寄付もできてない……。どうしよう。5年半……つぶれてしまっていたりしないかな……。


『それについては安心するが良いのじゃ』


 マーちゃん?

 安心ってどういうこと?


『「アーちゃんに預かった」ということにして、孤児院に寄付をするようにソフィーに指示を出しておいたぞよ。ソフィーには我が幾ばくかの金銭を融通しておいたから問題ないの。女神がこんなことをするのは本来は良くないことだが、緊急措置だから仕方ないのじゃ……』


 えー、そんなことまで!

 マーちゃん、ホントにありがとう! お金、すぐに返すね!


『信仰で返してくれれば良いの。我はお金に興味ないのじゃ』


 うん、うん。

 いっぱいお祈りするね! みんなにもマーちゃんのすばらしさを布教するからね!

 ホントに助かったよ……。孤児院の経営も続けられて、ナタヌも自分の道を進むことができているってことよね……。


 そっか。5年半……わたしなんていなくても世界には何も影響がないんだね……。

 わたしがどっちの選択をしたって、誰にも何の影響もないってことだー。


『そんなことはないの。みんながどれだけ心配しているか、少しだけ伝えておくのじゃ』


 マーちゃんはあの日、わたしとスーちゃんが異空間に囚われた日から先の話をかいつまんで聞かせてくれた。


 地面に開いた穴に吸い込まれる瞬間を目撃したソフィーさんたちは、さすがに大きなショックを受けたらしい。エデンは地面に穴を掘って探そうとしてくれたとか。

 だけど、わたしが消えたことで防護フィールドが消滅。直後にワイバーン軍団との戦闘を強いられることになってしまった。空からの強襲になす術がないソフィーさんたち。もうダメかという時に、街での治療を終えたマッツとナタヌが現れ、なんとかナタヌの新スキルによってワイバーン軍団を退けることに成功したらしい。ナタヌ、やるじゃないの!


 街に戻ってから、わたしが消えてしまったことで寄付のことやらなんやらで揉めたらしいけれど、マーちゃんが間に入ってくださったおかげで、なんとかナタヌは孤児院を離れられることに。その後はソフィーさんに連れられて『龍神の館』へ。すぐに頭角を現して、今や筆頭天使ちゃんとして、その後採用になった女の子たちの教育に携わっているんだってさ。ナタヌ、もともとの才能を刺激して目覚めさせただけなのに頼もしくなっちゃって……。


 ローラーシューズショーの人気ぶりは健在で、いまや王都にもその噂が広まりつつあるとか。お店で公式のファンクラブなんてものもできていて、ちょっとした有名人になっているみたい。一番人気はエデンかー。続いてセイヤー、ロイス、エリオットの順らしい。エリオットがんばれ! 筋肉はウソをつかないぞ!


「みんなうまくやっているんですね。たまにはわたしのことを思い出してくれたりしてるとうれしいな……」


 もう死んだ人みたいな扱いなのかなー。

 5年半だもんね。

 最初は悲しんでくれても、さすがになー。


「そんなことはありませんよ。みんなアリシアのことを心配しています」


 ミィちゃん、慰めはいいよー。

 わたしだってそれくらいはわきまえてるっていうか、そんなことで不貞腐れたりしないよー。たぶんわたしでも5年半も音信不通の人がいたら、「そんな人もいたなー」くらいになっちゃうと思うし?


「ロイスは礼拝のために私のもとを訪れていますよ」


 ロイスが?

 スーちゃんの信徒のはずなのに、なんでミィちゃんのところに礼拝にいっているんだろう。あ、そうか。スーちゃんも消えてしまったから……。


「そうではありません。ロイスはあなたのことを心配して祈りを捧げているのです」


「ロイス……」


「アリシアがこの世界からいなくなり、その情報がガーランドに伝えられてから、ロイスは1日も欠かすことなく神殿を訪れているのです」


 ごめん……ちょっと泣いちゃった。


 わたしなんかのためにわざわざ毎日神殿まで……。

 ありがとう。うれしい。


 すごく会いたいよ……。


 わたし、決めた。

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