第14話 アリシア、みんなの意見を聞く

『特例措置が用意されているんだよ。お前には2つの選択肢がある。1つはこのまま生きる。もう1つは肉体の年齢を皆と同じに5歳半進める』


 スーちゃんから提示された特例措置。


 肉体年齢が10歳のままのわたし。

 肉体年齢が15歳になったわたし。


 今ならどっちも選べるってことなんだ……。


「でもどうしよう……」


 異空間から出てきていきなり、「今から15歳です」って言われてもよくわからないよ……。わたしの中ではそんな準備はぜんぜんできていないし。


『自分の精神年齢に合わせた見た目を取るのか、周りに合わせた見た目を取るのか、その2択ということだな』


 うーん。まとめるとそういうことよねー。

 わたしの中身は、体感で数時間しか経過していないんだから当たり前だけど10歳のままだものね。でも、ガーランドに帰ったら、みんな5歳も年を重ねているわけで……。わたしだけが変わらないでいると絶対浮いちゃう……。みんなやさしい人たちだから、どちらを選んでも普通に接してくれるとは思うけど……。


「間に合ったようじゃの! アーちゃん!」


 声に反応して振り返ると――。


「あー、マーちゃんだ! こんにちはー!」


「あーしもいるお~☆」


「リンちゃんもこんにちはー! こんなところまできてどうしたのー?」


 水の女神・マーナヒリン様。そして正義の女神・リンレー様。そろってご登場ですねー。ミィちゃんとスーちゃんもいるし、女神様がいっぱいだー!


「間に合って良かったのじゃ。アーちゃん、早まってはいけない!」


 なぜだかマーちゃんから熱い視線を送られた後、ギュッと抱きしめられる。

 早まるって何?


「アーちゃんは今の姿こそ至高じゃ。これ以上一切年を取ってはならんの」


 そういうことですか……。

 それって、完全にマーちゃんの趣味だよー。ずっと年を取らないのはちょっと……。


「アリシア=グリーン。賢者の石となるなら、それはすなわち不老不死の存在ということです。今の肉体を維持することも若返ることも自由自在」


 あれ? ノーアさんだ。ノーアさんがしゃべってる!

 もう賢者の石ジョークの探求は終わったんですか? 10年コースのはずが、わりとお早いお帰りですね。


「そんなのダメだお! 年齢に合わせた振る舞いを覚えることこそ大切なマナーだお。TPOをわきまえた振る舞い、15歳の成人ともなれば立派なレディ。ボンキュッボンのダイナマイトバディになるべきだお」


 ボンキュッボン!

 いやいやいや、獣人族じゃあるまいしー。人族の15歳はまだそんな感じじゃないですお? 成人してからも体の成長は続きますからね……。でも今よりはちょっとだけ期待してもいい、かな……カナ?


 つまりあれですね。

 マーちゃんとリンちゃんはそれぞれわたしに、「10歳の今のままでいるべき」って助言と「15歳の体を手に入れるべき」って助言をされにきたわけですね?


 困ったな……。

 どちらもおっしゃっていることはわかるんですよねー。

 どうしたものかな……。


「アリシアは何を求めていますか?」


 ミィちゃんからの問いかけ。


「何って……10歳の体か15歳の体か……うーん」


 どうかなー。わからないよー。どっちも決定打に欠けるというか、一長一短というか。


「そうではなく、この先の人生に何を求めているのか、という質問です」


「へ? 人生に?」


「図らずも今、アリシアは人生の岐路に立っているのですよ。5歳半という人族にとっては決して短くない時の差。それをどう埋めるのか。肉体で埋めるのか精神で埋めるのか、それを選択しなければいけないのです」


 どちらで埋めるのか、か……。


「残念ながら、今回はどちらも取るという選択肢がありません。おそらくどちらを選んだとしても、しばらくは難しい時を過ごすことになるでしょう。しかし、先を見据えての選択であれば、どちらを選んだとしても、その難しさ、やりにくさ、つらさは徐々に解消されるはずなのです」


 先を見据える……。


「仮に10歳のままの肉体を選んだとしたら、アリシア自身は肉体と精神に差がない状態ですから、そこに思い悩む必要はなくなります。しかし、一時的に周りの親しい人々との心の距離に悩むことになるでしょう。人によっては一時的でないかもしれない。なぜなら、人とは見た目を通してその相手を見る生き物だからです。これまで同い年だと思っていた人物が急に5歳も年下になったとしたら、これまで通りの付き合いができるか……その判断は相手にゆだねるしかなくなります」


 わたしが変わらないことを選択したとしたら、周りの人に付き合い方をゆだねることになる。

 その話どこかで……そうか、ノーアさんだ。ノーアさんはずっと変わらないことを選んだ。ノーアさんの人生を通り過ぎ、去っていく人たちがいた。けれどずっとそばにいてくれるアイコさんという存在もいる。もしかしたらこの先ほかにも、アイコさんのように寄り添ってくれる人が現れるかもしれないけれど、それは相手が決めること、か……。


「仮に15歳の肉体を選んだとしたら、アリシア自身は自分の肉体と精神の差を埋めるのに苦労することになります。しかし、周りの親しい人はこれまでと変わらず接してくれることになるでしょう。もしかしたら5年半の空白を埋めるために最初はぎこちないやり取りがあるかもしれませんね。ですがそういったことも含めて、仲間と一緒に成長していく喜びを享受し、支え合いながら生きていける楽しみがあるでしょう」


 わたしは5年半もある肉体と精神の差を埋められるのかな……。

 いきなり15歳のような振る舞いを求められるわけで……。これまではなんとなく許されていたこともきっと許されなくなる……。リンちゃんの言うようなマナーをしっかりと身につけないと、それこそ周りから浮いてしまって誰もそばにいてくれないかもしれない……。


「どっちを選んでも大変そう……」


「だからこそ、最初の質問に戻るのです。アリシアはこの先の人生に何を求めますか?」

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