第13話 アリシア、人生の決断を迫られる

「5年半ってどういうことなの⁉」


 5年半過ぎていたってことは、つまり5年半も過ぎたってことなの⁉


「そうです。この世界では、あれから季節が5回と半分移り変わったのです」


 みんな5歳も歳を取っているのに、わたしだけ置いてけぼり……。

 それってホントのホントに?


「はいその通りです、アリシア=グリーン。すべての種族が平等に。私も5歳ほど年を取りましたよ。今は確か……1000……何歳か忘れました」


 ええい、ややこしくなるから不老不死は黙ってろ!

 ノーアさんのそれ、もう仕上がってる持ちネタでしょ⁉


「そう言われればミィちゃんの顔にほうれい――」


「女神は年を取りませんっ!」


 うわっ、食い気味に否定された!


「もしかして……怒って……る……?」


「怒ってませんっ!」


 そんな顔隠しながら……めっちゃ気にしてるのね。ねぇ、ミィちゃん……わたしには使い道がないんだけど、この女神クリーム使う?


『イチャついているところ悪いんだが、このまま解散してもいいのか? それとも処置を施すのか早めに決めようじゃないか』


 えっ、処置って何、怖い……。

 異空間の秘密を知ったから、わたし消される⁉


「何を心配しているのですか……。女神が信徒にそんなことするわけないでしょう」


 えっ、そう言いながら、ミィちゃんはなんでわたしの首に手をかけるの? 首を絞めるの? いや……痛くしないで……。


「もちろん冗談です」


 笑顔なのがすごく怖い!


「えーん。スーちゃん……ミィちゃんが信徒いじめしてくるよー。叱ってよー」


 ミィちゃんの手からするりと抜け出して、スーちゃんの背中に隠れる。お義姉ちゃんに叱ってもらいますからね!


『誰がお義姉ちゃんだ……。しかしミィシェリアよ。こんな小さな子をいじめるのはどうかと思うぞ……』


 深いため息。

 あ、冗談じゃなくてマジダメ出しのパターンだった。


「私は場を和ませようと……。ごめんなさい……」


 うわっ、普通に謝られた……。こっちも冗談で返したのつもりだったのに変な空気に……。


「ノーアさん……賢者の石ジョークで何とかこの場を!」


「アリシア=グリーン。錬金術師にして賢者の石の私に対してそんな依頼をしてきたのはあなたが初めてですよ。賢者の石ジョークですか。検討してみましょう……」


 ノーアさんがあごに手をやり、何かを思案しているポーズになったまま動かなくなってしまった。

 賢者の石……石像になるってボケ?


『アリシア……ノーアはそうなったら軽く10年は動かんぞ。えらいことをしてくれたな……』


「えっ、どういうことですか⁉」


『あいつの脳内では賢者の石ジョークについての探求が始まってしまったんだよ。答えが出るまでは何をしても動かん……。あとでラボに運んでおかなければな……』


 動かなくなった賢者の石の運搬……。女神様ってそんなお仕事もあるんですか……。

 でも10年後に探求が終わった後、どんなジョークを繰り出してくるのかめっちゃ気になるんですけど! 10年も溜めたネタだからさぞかしおもしろいんだろうなー。ってハードルが上がるから、ホントおもしろくないと笑わないですよ? 10年後って言ったらわたし……あれ、わたし何歳になるの⁉


「25歳と6カ月ですね……」


 25歳! お姉さんもお姉さんじゃないっ! お色気ムンムンで誰もが振り返る絶世の美女! 王族、貴族から次々に求婚され、ちぎっては投げ、ちぎっては投げの大ハーレムを!


『人族の平均結婚年齢は20歳だぞ。25歳で独身だと……』


 まさかの行き遅れ⁉

 前世だと結婚の平均年齢は30歳くらいのはず⁉ ええー、知ってる知識とぜんぜん違う!


『だが、そもそもな、今のお前は実年齢と肉体年齢に5歳半の差があるんだよ』


 あっ! たしかに?


「つまり、25歳の時にわたしの体は20歳に!」 


 ということはあれなのー?「奥様、いつまでもお若いですわね。うらやましいですわ」「いえいえ、奥様のほうこそお若いですわ」「私は魔族ですから人族よりも肉体年齢が若い時期が長いだけでしてよ。ホホホホホ」って、結局魔族やら獣人族やらにマウント取られる! 人族の若さは短いのよー!


「アリシア」


「何よ、ミィちゃん! わたし、人族で悔しいっ!」


「つまり若いままでいるほうが良い、ということでしょうか?」


 そう言いながら、意外そうな顔をするミィちゃん。

 なんでそんな顔をしているの?


「それはそうでしょ? 若いままのほうが絶対お得だし。だってそのほうがずっとモテるよ?」


「早く大人の体になりたいと言っていたと思っていましたが、記憶違いでしたか。スークル、このまま解散で問題なさそうですよ」


 ん? なんか話が噛み合っていないような気がして仕方がないんですけど……。「早く大人の体になりたい」……うん、確かに言いました。「若いままのほうがいい」……そうですね。うん?


『ミィシェリア。物事は正しく背景と経緯を説明しなければいけないよ。アリシアには正しく伝わっていないと思うぞ』


 うん、なんかすれ違っているのだけはわかりました。


『では改めてオレから説明しよう』


 ポンコツミィちゃんよりも理知的なお義姉ちゃん!


『お前は異空間でしばらく過ごす間にこちらの世界では5年半の時が経過した。世界はお前を取り残して5年半の時を進めたということだ。具体的に言えば、お前の親しい者たちは一律で5歳半の年齢を重ねているということだ』


 はい。なるほど。たしかにそういうことになりますね。

 あー、そうか……ロイスが15歳に。エデンも20歳でセイヤーが21歳、エリオットなんて23歳か……。だいぶ置いていかれてしまった……。


『気を落とすな、アリシア。こういう場合は特例が認められるんだよ』


 スーちゃんが待ってましたとばかりにしたり顔でわたしの肩を叩いた。


「特例、ですか?」


『そう、特例だ。お前には2つの選択肢が用意されている。1つはこのまま生きる。もう1つの選択肢として、時の流れと同じだけ、肉体の年齢を5歳半進めることができるのだよ』

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