第12話 ダーマス領に帰還だーます!

 わたしたちは穴に落ちた場所と同じ、ダーマス領の北の沿岸部の大地に降り立った。


「ふー、現世に帰還! ダーマス領に帰還だーます!」


 さらば穴の中!

 ただいま、新鮮な空気!


 あれ? なんか妙に暖かい……っていうか気温高い! いやっ、暑いっ⁉


 辺りは雪なんてまったく降っていないし、何なら草木は花を満開に咲かせて初夏の陽気。冬支度のままのわたしはじんわりと汗が……。


「急に冬が終わってるー!」


 異空間に囚われていたのは、体感で数時間程度……長くても半日くらい?

 それなのに季節が変わっちゃったの⁉


「アリシア……非常に言いにくいのですが……」


 ミィちゃんがそこまで言ってから言葉を止め、わたしのほうをチラチラと……機嫌を覗うように視線を飛ばしてくる。


「あれ? そういえばもう1人のミィちゃんは?」


 穴を出る時まで両手にミィちゃんだったのにいつの間にか1人減ってる……。おかしい……。


「この場には不要なので別の場所へ向かわせました」


「えー! 2人いるなら1人わたしにちょうだいよ!」


「それはほかの信徒の手前できませんので、自作のフィギュアでガマンしてください」


「あっ、そうだね! あの感動をもう一度! ミニィちゃんフィギュアを創っちゃおう!」


 ちっちゃくってかわいいミニィちゃん♡

 また会いたいなー。


「アリシア、フィギュアを創るのは後でお願いします。今はどうしても伝えておかなければならない重大なことがあります」


「んー、なーに?」


 もったいぶっちゃってー。


「実はその――」


「ああっ! ぜんぜん解決してない! イニーシャ様の救出!」


 ヤンス(殿)の対抗勢力に連れ去られたイニーシャ様を助けてないじゃないの! わたしたち帰ってきちゃったけど、どうしよう⁉


『オレたちのいた空間にはイニーシャは存在していなかったよ。それは間違いない。おそらく別の空間に囚われているのだろう』


「どうします? ノーアさんに片っ端から穴を開けてもらって探すとか?」


「場所の検討かつかなければ、いくら賢者の石といえども対処のしようがありませんね」


 ノーアさんも「お手上げ」というポーズを見せておどけてくる。

 えー、賢者の石は万能じゃないの⁉


『まずは「殿」と約束したように、王国側との対話の場を設けるつもりだ。あいつらもバカじゃない。イニーシャの情報くらい集めてから交渉のテーブルにつくだろうよ』


「なるほど? イニーシャ様のことは、あっちの内乱のせいだからヤンス(殿)に任せる、と……」


 理にはかなっているけれど、ずっと捕まったままだとイニーシャ様も心細いだろうね……。同じ妹として心中お察しします……。


『お前を妹分と認めたわけではないからな?』


 わたしはスーちゃんの義妹♡


『妹分と義妹は別物だぞ……』


 細かいことはいいじゃないですかー。一緒に穴に落ちて囚われた同士なんですから♡


 って、そういえばソフィーさんたちはどこだろう?

 一緒に穴に落ちてないんだから無事だったはずだよね?

 それにワイバーン軍団は? ソフィーさんたちだと、遠距離攻撃がないから手も足も出なかったと思うけど、誰かが倒した?


 あれ? いつの間にか結界が直ってる……?


「アリシア」


「なーに、ミィちゃん。みんなはどこー? それに結界って自動修復機能があったの?」


 それなら急いでイニーシャ様やスーちゃんが直す必要なかったんじゃ。


「アリシア、よく聞いてください……」


「うん? どうしたの? 聞いてるよー」


「これから大切なことを伝えます。これを聞いて、くれぐれも驚いたりパニックを起こしたりしないように……いいですね?」


 めっちゃ重ための前置きしてくるね……。

 ちょっと聞くのが怖くなってきたんですけど……。


 ごくりと喉を鳴らしてから、わたしは小さく頷いてミィちゃんの言葉を待った。


「ノーアが外から……私たちの世界のほうから結界を壊して助けに入るまで、少々時間を要してしまいました。彼らの異空間に張っていた結界を解析するのに時間がかかったからです」


「うん、それはあっちでも聞いたよー。でもスーちゃんとヤンス(殿)が話してる間に助けに来てくれたし、別にすっごい待ったって感じはなかったから大丈夫だよー」


 あれくらいの待ち時間ならよゆーよゆー♪


「そうですね……あの空間の中での体感時間としては、数時間程度でしたからね……」


 ん? あの空間の中の体感時間?


「……どういうこと?」


「この地上と、あの異空間では時間の流れが異なっていたのです」


「えっ、マジぃ⁉」


 あ、そっか。だから冬が終わって春も過ぎて初夏に!

 えー、じゃあ、だいぶ長い時間が経っちゃったんだね……。

 さすがに季節が変わるほどの時間は、いくらソフィーさんたちでもここでピクニックしながら待っていてくれるわけないよね……。「薄情者!」とか思ってしまってごめんなさーい。


「アリシア……」


 ん、ミィちゃんはなんでそんなに悲しそうな目でこっちを見てるの?

 置いていかれたからって、わたし泣いたりしないよ? 馬車があれば1人でもガーランド領に帰れるよー。


「アリシア、違うんです」


「なにがー?」


「あなたたちが異空間で過ごしている間に過ぎ去った時は、半年ではないのです」


 ん? もっと長かったの? あれは冬の初めだったから、7カ月? もしかして8カ月くらい経っちゃった?


「あれから……5年半が過ぎてしまいました」


 …………?


「5年と6カ月です」


 えーと……つまり?


「5年と6カ月、2日と1時間10分20秒が過ぎてしまいました」


 細かく言ってくれてもちょっと意味がワカラナイヨ?


「5年って……1年、2年、3年、4年、5年……?」


 指を1つずつ折って数えてみる……5年半⁉ 片手じゃ足りないよ⁉


「はい」


「なんだってーーーーーーーーーーーーーーーー⁉」


 どういうことどういうことどういうこと⁉

 ほんのちょっと異空間にいただけで5年半⁉


 なんだっけ? そうだあれ! 亀を助けた牛宮城の浦迫太郎⁉

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