第2話 アリシア、女神とは何かを知る

「どれくらい歩きましたかね……」


 行けども行けども真っ暗闇の中。

 まっすぐ歩けているのかすらも怪しい。いや、ホントに前に進んでいるのかも……。


『さあな。進んではいると思うが……』


 繋いでいる手に若干力がこもるのを感じる。

 やはりスークル様も確証がなさそうですね……。


「魂ちゃんたちは何かわからない?」


 わたしの声に反応して、複数の魂たちがぼんやりとした光を放つ。その光のおかげで、少しだけスークル様のお顔を確認できた。

 あらー、スークル様ってば、やっぱりちょっとだけ焦っていらっしゃるみたいね……。この状況はなかなかに不気味ですもんね……。


「わたしたちを……というか、たぶんスークル様を捕らえた理由ってなんでしょうね……」


 女神様を捕まえるなんて大それたことを誰が考えるんだろう。

 身代金要求? でもそれって誰に対して? ほかの女神様にとか?


『イニーシャの失踪。そしてイニーシャの管理する北部結界の破壊。ワイバーンによる「ダーマス」市街地襲撃……』


 スークル様が一連の事件を並べて、関連性を検討していく。

 スークル様の妹分的な知恵の女神・イニーシャ様が消えてしまったところから始まった事件。一見するとどれも関連性がなさそうだけど……わたしたちはここにいるわけで……。


『そして、北部結界修復中に大地震が起き、オレたちがここに囚われている』


 やっぱり偶然にしては出来過ぎだし、どう考えても関連ありますよねー。


『そうだな。女神を2神も捕え、北部結界を破壊している。いったい何が目的なのか……』


 結界を破壊して得をするのってやっぱり……外の国なんでしょうか? 内乱でそんなことをする意味もあんまりなさそうだし。女神様を捕らえる理由も、考えられるのは戦力を削ぐ目的ですよね。


『いよいよその時が来たのか……』


 やっぱり他国の侵攻って想定されてました? ミィちゃんたちも似たようなことを話していたことがあったし。


『ああ。それはずっと想定されていたことだ。この世界にはパストルラン島のような島がいくつも存在していると考えられている。それぞれの土地に、オレたちのような女神、男神、信仰の対象があるはずだ』


 考えられている? あるはず?

 実際にはどうなっているのかご存じないのですか?


『オレたちはこの地において信仰され、女神として存在しているからな。ほかの土地に出向くことはない。とくに興味もないしな』


 ふーん、そういうものなんですね。

 前世の記憶だと、神様や女神様は世界全体、もしくは宇宙全体を統べる存在というか、すべての国や地域を全部まとめてみている存在だとしていますが、こことは考え方がずいぶん違うようですね。


『そういった神の存在は否定しない。オレたちよりも上位の存在があったとして、ただオレたちがそれを知覚することができないだけかもしれないからな』


 3次元の存在が4次元の存在を知覚できない、みたいな?


『似たようなものだろう。高次元の存在と言い換えても良いかもしれないな』


 でも、わたしは高次元の女神様で在らせられるスークル様のことを近くできているのですけど、これはどういうことなんでしょう?

 もしかして、転生したことでわたしも高次元の存在になっているとか⁉ とか⁉


『いや、高次元と言っても、知覚できないほどの差はないのだろうな。言うなれば、3.5次元といったところか? オレたち女神の知識は、とくにお前のような転生者を通じて他の世界にアクセスして手に入れることが多い。そのせいか、知識が偏ることもよくあるし、理解が正しいかは正直わからない』


 女神様ってすごく遠くて抽象的な存在なのかと思ってましたけど、意外と身近な存在? 3.5次元なら手が届きそう! なんだか2.5次元アイドルみたいだし! 触れられるアイドルってステキですね♡


『そのたとえはよくわからないが……理解してもらえたということでいいのか?』


 はい♡


『良い。では話を戻すと、このパストルラン島以外にも複数の島があり、おそらく同じように国家を形成していて神のような存在がいると考えている。これまでは干渉しあうことがなかっただけで、何かのきっかけで干渉、交渉、侵攻が起こるだろうということは予想がついていたよ』


 何かのきっかけ、ですか。


『それは相手の事情を確認しなければわからないな』


 スークル様は怒っていないんですか?

 一方的に攻撃されているのに。


『何が正義なのかを見極めるのはリンレーの領分さ。オレは戦いの必要があれば、先頭に立ち、勝利を手にする。それだけだ』


 かっこいい……。

「正義は我にあり」とはおっしゃられないんですねー。でも相手に正義があったとしても戦うんですね。


『オレの守るべきはパストルラン島をおいてほかにはない。この土地、ここに住まう者たちの信仰によって存在しているのだからな』


 みんなの願い、みんなの想い、みんなの祈りによって存在する女神様たち、か。ホントにわたしたちの女神様なんですね……。


『何を今さら』


 あ、笑いましたね!

 わたし、けっこうまじめに言ってるんですよ? 女神様は女神様だなーと、なんとなくって言ったら失礼かもしれないですけど、とくに疑うことなく信仰してきたんです。でも、理由があって守ってくださっている。それがわかって、ますます女神様たちのことが好きになりました!


『オレたちは共に生きる存在なんだ。それを忘れるな』


 はい!

 共に……力を合わせてここを脱出しましょう!

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