第七章 アリシアと女神・スークル 編

第1話 アリシア、魂の声に耳を傾ける

「え、何?」


 真っ暗だ。

 完全な闇――何も見えない!


『アリシア、聞こえるか?』


「スークル様⁉ どこにいらっしゃるんですか⁉」


『ああ、お前の下だよ』


「えっ! ご、ごめんなさい!」


 慌てて飛びのく。

 なんだかふわふわしている地面だなとは思ったんだけど……まさか女神様を足蹴にしてしまっていたなんてっ! 不敬罪で処される⁉


『それだけ冗談が言える余裕があるなら大丈夫そうだな。ハッハッハ』


 そんな、笑って許していただけるのでしたら……。


『そんなことよりも……ここはまずいぞ』


 まずい、とは? そういえばわたしたち、地面に開いた穴に落ちましたよね。

 ここは地底、ですかね?


『おそらく違う。地底なら脱出すればいいだけだが』


 というと?


『おそらくオレたちがいたところとは別の……言うなれば異空間だな。さっきから試しているが、ほかの女神と連絡がつかない』


 ええっ⁉ そんな⁉


 ミィちゃんミィちゃん!

 マーちゃーん!

 リンちゃんっ!


 ダメだ……わたしのほうも誰とも通信できないよ……。


『あの大地の揺れ。地面に開いた大穴。偶然にしては出来過ぎだ』


 つまり……。


『狙われたな』


 これってイニーシャ様と連絡が取れないことと関係ありそうです、よね……。イニーシャ様もわたしたちと同じで異空間に囚われていたから連絡がつかなかったんじゃ……。


『断言はできないが、おそらくそう考えるのが自然だろう。しかし、イニーシャがいるのは、こことは別の空間のようだ。イニーシャとも連絡がつかない』


 つまりはわたしたち……捕まったってことですよね。何も見えないし、どうしたら……。ペタペタペタペタペタ。


『うん、わかったから。そんなに触らなくてもオレはそばにいるから、な?』


 ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタ。


『どさくさに紛れていろいろなところを揉むんじゃない。お前、「構造把握」のスキルでオレの位置を正確に把握しているだろ』


 えへ♡

 じゃあ、手を繋いでくださいます? やっぱりこわくて……。


『うむ、そうしよう』


 スークル様の長くて細い指に手を重ねる。

 ちょっとエロい……。


『お前、女神の見た目は仮初の姿だということはわかっているのだろう?』


 わかってますけどー。でも、今のお姿が、「みんなに見せたい姿」なのですよね? 今は暗くて見えないですけど。


『とくにそのようなことを意識はしたことはなかったが……この姿が一番、自分の力の制御がしやすいとは思っている』


 その凛々しいお姿が自然体なのだと思います! まったく、誰だよ、筋肉ゴリラとか言ってるヤツはー⁉


『オレは戦いの女神であって、筋肉の女神ではないからな……。イニーシャやミィシェリアよりも腕力自体は弱いぞ』


 ミィちゃんってば、やっぱりパワー系!

 怒ったら容赦なく殴ってきそうだもんね……。


『女神は怒ったりしないが……ミィシェリアはしょっちゅうプリプリしているな』


 プリプリ……かわいいけど、それってやっぱり怒ってません?


『怒ってはいないらしい……』


 疑惑の判定!


『そんなことよりこの状況をどうにかしよう』


 そうでした! でもどうにかってどうするんですか?

 一応足がつくところが地面なんだなってことくらいしかわかりません……。壁もないし。魔力感知しても何も返ってこないし……。


『オレには見えているぞ』


 女神アイ!

 その美しい瞳には何が見えているんですか⁉


『この空間には多くの魂が囚われている』


 えっ、急にこわい。

 アンデッド系の魔物が⁉


『そうではない。この空間に囚われたまま命を落とした者の魂かもしれない。その魂はどこにも行けず、そこらを彷徨うばかり……』


 元の世界とは異なる空間だから、肉体を離れても魂の行きつく先がない……。なんてことなの……。


『今のオレにはどうしてやることもできない……』


 わたしにできること……祈ります。


 どうか彷徨える魂に安らぎを。

 願わくは、この空間から解き放たれて、あるべき場所へ帰ることができますように。


 えっ、なになに⁉


 わたしの周囲がぼんやりと光って――。


『お前の祈りだ。彷徨える魂たちがお前の祈りに感謝をしているのだろう』


 そう、なんですね。

 わたしには祈ることしかできないの。でもね、この異空間を破壊して、スークル様と一緒に元の世界に帰るその時、できることならあなたたちも一緒に連れていきたい……。


 どうか力を貸して!


『お、おお……魂たちがお前の声に反応している』


 ありがとう。

 とても温かい……。みんな、一緒に行きましょう!


『お前はやはり不思議な人間だな。興味が湧いてくる』


 そうですか? わたし、褒められてます?


『ああ、褒めているとも。さあ、魂が導く先に進んでみよう』


 スークル様に褒められちゃった!

 みんな、ありがとう! 全員で脱出しようね!

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