第39話 アリシア、重傷者を治療する
「ワイバーン! どこ⁉ ふがふが」
マッツと一緒に孤児院の建物から外へ出る。
わたしはライトサーベル三刀流、ナタヌはアークマンの大きな杖を握りしめ、辺りを見回して警戒する。
「もっと市街地のほうだ!」
「OK。急ぐよ!」
わたしとマッツはローラーシューズに魔力を込めて滑りだす。
「ま、待ってください~」
はるか後方からナタヌの声。
あ、しまった。
ナタヌは素足だ!
「ごめんごめん! ちょっと抱えていくね」
急いで戻ってナタヌを小脇に抱える。
わっ、軽い! 見た目以上にスカスカ……栄養足りてないのかな……。これからはたくさん食べさせてあげるからね。
「いっくよー!」
「きゃ、きゃあああああぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁあああああ」
ドップラー効果を残しながら、ナタヌの悲鳴が通りを駆け抜けていく。
「それにしてもひどい状況ね……」
通りを歩いている人は誰もいない。
そもそも、地面も建物もそこらじゅう穴だらけで、隕石がたくさん落ちたのかっていうくらいひどい状況だ。まあ、わたしのローラーシューズは魔力の波を流してその上を滑るから、地面に穴が開いていても関係ないけどねー。
「こっちだ!」
マッツの指し示す先、それは街の中心部。噴水広場がある方角だ。
「こっちにケガ人が集まってる!」
「よしきた! ナタヌ、スピードを上げるよ!」
「え、え、ええええええぇぇぇぇえええええええぇぇぇぇえええええ」
最高速度でマッツを追い抜き、噴水広場に到着。
うわ、けっこう人がいる!
10人や20人じゃきかない。これはしっかりトリアージしていかないと重症患者の治療が間に合わなくなる。
『構造把握』
治癒ポーションをありったけ取り出して、手足が欠損していたり、意識不明の人に振りかけていく。
「ナタヌ! この辺りに一帯に、めいっぱいハイヒールを連発していって!」
「わかりました!」
軽症者はナタヌのハイヒールである程度おさまるはず。わたしはとにかく重傷者をみてまわる!
んー、そういえば、なぜアークマンはいないの……。こんな時こそ、アークマンが活躍する場面じゃないの? って、ソフィーさんも、誰もいない!
「マッツ! ソフィーさんたちはどこへ⁉」
「ワイバーンを追っていったんだと思う。たぶん海のほうだ」
なるほど。
でも空の上には攻撃できないし、撤退したなら深追いするよりこっちの治療を手伝ってほしいんだけどな!
なんて愚痴っていても仕方ないか。
だいたいの人がワイバーンの爪で深手を負っているか、建物の崩落に巻き込まれてのケガみたいね。
でもワイバーンはどこから来たの……。海のほうに撤退したってことは……まさか海を越えてやってきたってこと? 海の向こうにあるほかの国? これまで一度もそんな魔物が観測されたなんて記録は知らない……。
(ミィちゃん、どうなってるのわかる⁉)
『緊急事態です。北部沿岸地域の保全を担当している女神と連絡がつかない状況なのです』
えっ、女神様同士で連絡が取れないって、そんなことあるの⁉
『ありえません。ですが、ありえないことが起きているようです』
『やほほ~、アリシアたん。生きてるかお?』
リンちゃーん! なんとか生きてるおー! ワイバーンが攻めてきて、みんなケガしちゃってるの!
『アーちゃん、無事じゃな』
マーちゃんも! わたしは無事だよー。ねぇ、ワイバーンはどこからやってきたの⁉ もしかして、海を越えて?
『おそらくそうじゃな……。本来我ら女神の張った結界で魔物は海を越えられないはずなのじゃが、一部結界が破損しておるようじゃ……』
それって、北部沿岸地域担当の女神様がいなくなっちゃったから……。
『今、スークルが緊急代行として結界の再生成を行っています』
スークル様が! どこどこ⁉ お会いできるチャンス! ミィちゃんはまだ会うのは早いって言ってたけれど、今はそんなことを言っている場合じゃないよね。お会いしたい!
『そうですね。行きなさい。街を抜けて街道をまっすぐ北へ。その先の海岸にスークルはいます』
ミィちゃん、ありがとう! わたしにお手伝いできることがあるかもしれないし、行ってくるね!
「マッツ、ナタヌ! わたし、ちょっと街の外、海のほうまで行ってくる!」
「え、なんだって⁉ 何を言っているんだ⁉」
「そっちにね、スークル様がいらっしゃるらしいの。わたし、お手伝いしてくるから、ここをお願い。ナタヌ、重傷者の治療はだいたい終わっていると思うから、あとはあなたが対応するのよ! もし治らないケガがあったらこれを使って」
そう言って、ナタヌに治癒ポーションをダース単位で渡していく。
「はい! お任せください!」
「良い返事ね! 頼んだわー!」
待っててスークル様!
それにワイバーンの群れも見つけて駆逐してやる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます