第37話 アリシア、ナタヌの秘密に気づく

「ナタヌ、どうかな? あなたの考えを聞かせて?」


 わたしが語れることはすべて語ったと思う。あとはあなたが決めるだけよ。

 とまあ、すべて言いたいことは言ったところで一息つき、ナタヌの様子を冷静に観察してみる。


 百面相。ですね。

 顔が赤くなったり青くなったり、唸ったり笑ったり。きっとこれまでの人生を振り返り、孤児院に住む仲間の顔を思い浮かべているのだと思う。

 

 楽しさ7割。苦しさ3割ってところかなー。

 あとはどうやって首を縦に振らせるか……。え?『強制しているわけじゃないし、断ってくれてもいい』なんてもちろん建前よ! 何があっても連れて行くに決まってるでしょ! こんなダイヤの原石を放っておくことなんてできないよー。もし断ってくるようなことがあっても、薬でも嗅がして連れて帰って……うまいこと記憶を操作するとか? なーに、オーナーさんにネゴっておけば、何とでも言い訳は立つから大丈夫♡


「私は……」


 百面相をしていたナタヌが、いつの間にか覚悟を決めたようにわたしのことを見つめていた。


 それじゃ、ナタヌの結論を聞きましょうか。


 と、イスに座り直した瞬間だった。


 ドゴーーーーーーーーーーンッ!


 耳をつんざくような破裂音。おそらく建物の外からだ。

 一瞬遅れて衝撃波が体を駆け抜けていく。


「えっ、何⁉」


「ケガはないわね⁉ アリシアとナタヌはその場で待機よ!」


 わたしがイスから立ち上がろうとした時には、すでにソフィーさんが大声で指示を残しながら、執務室から飛び出していくところだった。


「私はアークマンたちと合流して状況を確認するわ!」


「え、あ、はい!」


 と、わたしの返事を聞くことなく、ソフィーさんは走り去ってしまった。さすがと言いますか、幾度となく死線をくぐり抜けている戦士は有事の際になんと頼もしいことか。


「さきほどの音はなんでしょうか……」


 ナタヌが不安そうな声で尋ねてくる。


「んー、わかんない……。地震? でも待機って言われちゃったし」


 とんでもなく大きな音の後にこれまた強めの衝撃波がきたよね。でも、見たところこのボロい建物には何のダメージもなさそう。あの衝撃だったら、建物が消し飛んでるレベルの威力だと思ったのに……。


 物理の衝撃波ではなくて、魔力波? 物理の建物に干渉しない魔力波なんて起こせる? わたしがあの威力の魔力波を撃ったら、たぶん建物ごと破壊しちゃいそう……。

 

 なんだか嫌な予感がする……。


 ちょっといろいろ準備をしておこう。


「ナタヌは普段魔法スキルを行使する時、杖を媒介にしないの?」


「杖……は高価なのでとても手が……」


 杖の重要性は理解しているみたい。

 魔法スキルの行使には杖が必須と言ってもいい。エルフの鍛えた千年杉を柄に、使うスキルの性質に合わせた宝玉をはめ込むことによって威力が何倍、何十倍にもアップさせることができるわけで。


「んー、とりあえずアークマンの予備の杖でいいかな。ナタヌもプリースト系のスキル持ちだもんね」


 アイテム収納ボックスから一本の杖を取り出してナタヌに手渡す。

 アークマンの身長に合わせて作られているから、ちょっと大きいかも。ナタヌの身長よりも長い杖だ。杖のてっぺんには、ナタヌのこぶしくらいはある大きなブルーサファイヤの宝玉が埋め込まれている。


「それ、とりあえず使って。ヒールやキュアの時間短縮や威力アップが期待できるから」


「そんな! こんな高価そうな杖受け取れません!」


 ナタヌは慌てつつも決して落とさないようにしっかりと両手で杖を握りしめ、わたしに向かって返そうと差し出してくる。


「貸すだけだから、ね? 今何か起きてる。もしかしたら誰かケガをしたかも。ナタヌにも働いてもらうかもしれないからそれを持っている必要があるの」


 取り越し苦労ならいいけれど、あの爆発音だもの、たぶんそんなことはない……。少なからず被害が出ていると思う。早く外に出て状況を確かめたい。


「それと、ローブとマジシャンハットと、んー、サイズ大きいな。ちょっと待って! 仕立て直す!」


 ナタヌを『構造把握』!

 サイズはふむふむ……ふむ⁉ ふむふむふむふむ! えっ、うそ、マジ⁉


「な、なんですか……?」


「んーん、なんでもなーい」


 ナタヌ、エルフの血を引いてるんだ。

 だいぶ遠いけど、それが隔世遺伝的に現れてこのスキルか。まだまだLv0のスキルもたくさんある。この子、とんでもなく冒険者向きだ……。


「はい、できたよー。これ装備して。あとこのアミュレットを左右の手首に。これとこの指輪を右手の人差し指と中指にはめて。最後に首からはこのペンダントを」


 これでよし、と。

 この魔道具たちを装備しておけば、しばらく放置して様子をみるだけで、残りのプリースト系のスキル顕在化するのでは? そうしたら今すぐにでもアークマンを超えそう……。


「温かい……なんでしょう、この感覚」


「今渡したのにはいろいろ良さげな呪術がかかっているから、たぶん少ししたら体になじむと思うよー。スキル行使が楽になるかも?」


 わたしのほうもフル装備で準備、と。

 ライトサーベル二刀……じゃじゃーん、そうだ! 口に咥えて三刀流にしよう♪


 んー、ソフィーさんからの連絡はまだかな⁉

 こっちは準備万端ですよ!

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