暴君幼女は愛されたい! テキトーにLUK≪幸運≫に全振りしたら、ステータス壊れちゃいました~女神様からもらったチートスキル『構造把握』『創作』を使って、玉の輿でハーレムな無双ライフ……スローライフを♪
第36話 アリシア、ナタヌに人生の選択肢を用意する
第36話 アリシア、ナタヌに人生の選択肢を用意する
「えーと、次はねー。小豆を砂糖で煮たぜんざいを――」
「アリシア様、もうお腹が……」
ナタヌが申し訳なさそうにお腹をさすっている。
ということは……はちきったのね! やったー♡
「ナタヌは小食ねー。心配しなくても他の子たちにも少しだけ振舞うからね」
「少しだけ、ですか?」
ナタヌが不思議そうな顔でこちらを見つめてくる。
わたしの言った意味が理解できていないみたい。
「うん、少しだけ。今のナタヌみたいにお腹いっぱいはご馳走しないよ」
「なぜ……ですか?」
そんな子犬のような濡れた大きな瞳で見つめられちゃったら……答えるしかないよね! うん、まあ、見つめられなくてもちゃんと説明するつもりだったよ?
「ナタヌはさ、もし今日だけたくさんご馳走を食べて、明日から何も食べるものがなかったらどう思う?」
「……とても悲しいと思います。昨日のご馳走を取っておけば良かったなと思うと思います」
「そうよね。ご馳走の味を知ってしまってから、質素な暮らしに戻るって考えるとどうかな?」
「つらい、ですね……」
「そういうのって、小さな子には意味がわからないよね。オーナーさんたちがいじわるしてご馳走を隠したって思っちゃうかもしれない。オーナーさんは毎日小さい子たちから、『ご馳走をちょうだい』ってせがまれるでしょうね。だから、わたしはほんの少しだけのお土産にしようと思うの」
明日からの生活が苦痛を感じないように。
これからも続く日常が、つらく悲しいものに変わってしまわないように。
「……なぜ、私にはあんなにたくさんのご馳走をくださったのですか?」
どうしてナタヌだけ特別扱いしたのか。
「理由は2つかなー。1つは単純にわたしがナタヌのことを気に入っちゃったから♡」
ひいきしちゃった♡
「あり、がとう……ございます……」
あれれ? なんでちょっと引き気味なの⁉
おかしいな。「私もアリシアさんのこと大好きですーチュッチュ♡」の流れでは⁉ 最近の女の子が考えることはよくわからない……。わたしとは違う生き物なのかもしれない……。わたしって転生人族だし……。
「んーと、2つ目はね、ナタヌなら分別がつくと思ったから」
「分別、ですか?」
「そう、分別。たとえ今日だけ贅沢をして、その後一生クレープやプリンやケーキやからあげを食べなかったとしても、苦しくて泣いたりしないと思ったから」
「そう、でしょうか……」
「それと、ほかの小さな子たちのことを考えて泣くやさしさを持っているから」
そして、ナタヌは今、自分が何をしなければいけないのか、誰よりもよくわかっているから。
「私……」
「いいよ、泣いても。気が済むまで泣いていいよ。それから、ナタヌの気持ちを聞かせて」
「私……みんなに……つらい思いをさせて……施設の外の子たちにバカにされても……それでも……」
ナタヌは堰を切ったように嗚咽を漏らし、涙が頬を伝っていく。
誰にも相談できずにいたんだね……。
毎日お金のやりくりに奔走しているオーナー夫妻の大変さ。そして常にひもじい思いをしている小さな子どもたちの姿。外に出れば当たり前のように裕福な暮らしをしている家庭がある理不尽さを目の当たりにする……。
自分だってまだ仮成人を迎えたばかりなのに、誰にもつらさを見せないように笑顔を貼り付け、冒険者よりもスキルレベルが上がるくらいスキルを使って孤児院を助ける日々……。
「もうどうしたらいいのか……」
「どうしたらいいのか、じゃないよ。ナタヌ自身はどうしたいの?」
「私がどうしたい……か……」
「そう、ナタヌはどうしたいの?」
「私は……どうしたい……のでしょうか」
何度でも尋ねる。
これはナタヌ自身が出さなければいけない答えだから。
「私がいなくなったら……みんな……」
「みんなの話は今はいい。ナタヌ自身がどうしたいかを尋ねてるのよ」
「私自身……でも、みんなが……」
「もう! 頑固ね……。わかったわかった。あとで言うつもりだったけど、話が進まないから先に言っておくね」
わたしなりの切り札。
ここに、この孤児院に来るって決めた時から考えていたこと。ナタヌみたいな子がいてもいなくてもそうしようと思っていたこと。
「ナタヌがどんな道を選んだとしても、この孤児院にいる子たちが仮成人を迎えて、仕事を見つけて独り立ちするまでわたしが金銭的な面倒を見るから。ナタヌがこれ以上背負う必要ないから。ね?」
「ちょっとアリシア⁉」
じっと黙って聞いていたソフィーさんが驚いたように口を挟んでくる。
「ソフィーさん。大丈夫。これはわたしの個人的な話なので。私財を使って寄付するだけですから、法律は関係ない話です」
毎日地道に街道ローラー作戦で金を集めているのは、魔道具の素材として使うためだけじゃないんですよ。ソフィーさんにはわたしがいくら相当の金を貯めこんでいるか想像もつかないでしょうね。
最初はどこか辺境の地でも買い取って自分の家でも建てようかなって思っていたけれど、最近は違うなーって、わたしがホントにやりたいことってなんだろうなーってずっと考えていたの。
わたしね、お金で解決できる問題で、ナタヌみたいな子の人生に選択肢が増えるのなら、それは安いものだって思っているの。他人のために苦労して、出口がない闇の中でもがき苦しんでいる人が目の前にいて、わたしが解決策を持っているのに手を差し伸べないでいるなんてできるわけないじゃない。
「さあ、ナタヌ。これであなたを縛るものは何もない。さあ、どうする? わたしの寄付によって、これまでよりちょっとだけ余裕のある経営状態になったこの孤児院でみんなと暮らしていくのもいい。それでいつかどこかの貴族様の養子になる、とかね」
「私は……」
「もしナタヌにその気があるなら、わたしの手を取って、新しい道を歩んでいく選択肢もあるのよ。わたしたちは、あなたの才覚を認めて一緒に働きたいと思っているの」
「私の才覚……?」
「そうよー。今、ナタヌの人生の選択肢はたくさんあるの。他人のことを考える必要はないわ。自分の人生の選択肢よ。わたしたちは一緒に来てくれるとうれしいけれど、強制しているわけじゃないし、断ってくれてもいい。ナタヌが自分自身で決めたことなら反対はしないし、それで『寄付をやーめた』なんてことも言わないわ」
「私、どうしたら……」
「わたしたちはね、お店に来たお客さんが、お料理やお酒を楽しんで『またくるよ』って笑顔で帰っていく姿を見るために毎日働いてるの。さっきナタヌがお腹いっぱい食べて『もう食べられない』って言った時みたいな笑顔を見るためにね」
「笑顔……ですか……」
「楽しいよ。お客さんの笑顔ってみんな違っていてみんな魅力的なんだ。人に笑顔を届ける仕事だよ」
少しでも気になるなら、わたしの手を取って。
きっとあなたに向いている仕事だと思うの。
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