第32話 アリシア、ウナギのかば焼きと出会う
海から戻ったわたしは、街の広場で休んでいたソフィーさんたちと合流する。
「お待たせしましたー。まずは宿、ですかね? 例のごとくギルドに向かいますかー」
初めての街に来た時のお作法は覚えましたからね。
あ、ソフィーさんたち、何か食べてる⁉
「そうね。拠点を確保してから孤児院を訪問しましょうか」
ねぇねぇ、何食べてるの? 串焼き? もしかして魚⁉ ちょうだいちょうだい!
「そんなに見つめなくても、あなたたちの分もちゃんと買ってあるわよ。スキッピー」
「腹ペコちゃんたちはこっちに来るんだぜ。たーんとお食べ!」
スキッピーが手に持っている袋の口を開けると、甘くて蕩けそうな匂いが漂ってくる。
「なにそれー? おいしそう! 初めて嗅ぐニオイだー」
「ウナギって魚らしいぜ。海と川が混じる場所でとれるんだってよ!」
おー、ウナギ!
前世の記憶の端っこにちょっとだけあるかも。なんか長細い蛇みたいな形状だった気がする。どうやら高級料理だったみたいで、口にしたことはなかったけど。
「ウナギのかば焼きって料理で、開いたウナギに甘辛いたれを何度も塗って――」
「いいから食わせろー!」
「食わせろ~!」
「早く寄越せ!」
うんちくはそれからだ!
スキッピーの手から袋をふんだくり、エデンとアークマンの前で大きく開け放つ。
「これは暴力的な香り……」
「いただきま~す!」
我先にと袋に手を突っ込み、ウナギのかば焼きを取り出して食べ始めた。もちろんわたしも!
「んーまい! これがウナギ!」
濃厚なタレがふっくらとしたウナギの身に沁みこんで絶品……。なんかほしいな……パン、じゃないね。白米! そう、この感じは白米と一緒に食べろと前世の記憶が語り掛けてくる!
うぉー!
残り少ないお米を気合で複製創作!
ふっくらと炊き上げるイメージでさらに加工創作!
きたー!
これが炊き立てのご飯だー!
ウナギのかば焼きをご飯の上に乗せて……一緒にいただく!
至福しふくSHIFUKUーーーーーーーーー!
間違いない、これだ! ウナギはご飯との出会いを待っていたのよー!
「ちょっとみんな……」
小声でソフィーさんたちを呼び寄せる。
「絶対大声を出すなよ……このご飯と一緒にウナギのかば焼きを食べてみて」
売れるほど用意はできない。
この食べ方が街の人に知られたりしたら……おそらく奪い合いの戦争が起きるっ!
「何よそれ? あら、良い匂いね。食欲をそそられるわ」
炊き立てのご飯から湧きたつ香りを鼻から吸い込んだソフィーさんの目が蕩ける。
「ウナギのかば焼きとご飯です。これはおそらく女神様が与えられたもっとも尊い食事。昇天しないように心して食べてください」
「ずいぶん煽るわね……」
「しかしこの匂い。アリシアが言うなら間違いなさそうだな……」
全員に皿を配り、少量ずつご飯を分けてから、ウナギのかば焼きを乗せていく。
「ウナギを何度もご飯にバウンドさせて、タレをしっかり馴染ませたら、ウナギとご飯を一緒に口の中へ!」
みんなが小さく頷き合う。
「いざ、実食!」
はぅあーーーーーーー。
やっぱり至福ーーーーー!
なぜこんなにおいしい食べ物が海のそばでしか食べられないのか!
全国に流通させたい!
それにお米は香辛料じゃないのよ! 主食として食べられるように、本格的に水田を普及させたい!
「ちょっとマッツ! 大丈夫⁉」
ソフィーさんが急に膝から崩れ落ちたマッツを抱き留める。
ソフィーさんのウナギは隣のアークマンがしっかりと預かっていた。さっすが連携が完璧にできている!
「あ、一瞬意識が。うますぎて女神様が見えたよ……」
ほら、言わんこっちゃない。
最初に注意したでしょうに。意識をしっかり持っておかないと異世界転生してウナギになるぞ!
「ご飯がもっとほしい……」
いや、エデン。そんな目で見られても、ホント貴重なのよ。
「あんまり食べちゃうと、日乃本酒が創れなくなっちゃうから……。あ、ここ北部地域よね。原料のお米が手に入るかも⁉」
雪のせいで水田の有無はわからなかったけれど、国内で少量のお米が流通しているということは、どこかでは栽培されているはず。やっぱりそれは比較的寒い地域、つまりここ北部地域だと思うのよね!
「よし、市場を見に行こうよ!」
エデンがいち早く駆け出す。
「待ちなさい! まずは宿を確保よ!」
「あ、そうだった……でもお米……」
エデンががっくりと肩を落とし、とぼとぼと歩いて戻ってくる。
ご飯、おいしかったのね。
「内緒だぞ♡」
そっとエデンに小さいおにぎりを渡してあげる。
前に調理済みでいつか食べようと思ってアイテム収納ボックスに入れておいたの! 特別だからね!
「暴君……ありがとう!」
まったくもう、エデンは手がかかってかわいいな♪
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