第31話 アリシア、ダーマスに到着だーます!
「ダーマスに到着だーます!」
「そうだね。暴君の馬車すっごく速くて助かったよ!」
エデンが微笑む。
誰かツッコんで……。
到着だーます……半日考えたギャグだったのよ……。
「さすがにダーマス伯領の中心街だけあって賑わってるわね」
ソフィーさんが言う通りだねー。パストルラン王国の最北端といってもいい場所に位置する街『ダーマス』。その入り口付近は思ったよりも人の往来が激しかった。
こんなに雪が降っているのにみんな元気だねー。
道は雪かきもしっかりされていて、地面がちゃんと露出していて歩きやすいし。お店の前にうず高く積まれた雪を火魔法で溶かして回っているのは、服装からして領主の軍隊の人っぽい。寒い地域だと除雪も軍の仕事なのかな。
「雪が街に入ってこないように防護フィールドを張ればいいのに……」
フィールドの振動熱で溶かすんですよ!
「そんなことできるのはあなただけよ……」
ソフィーが深いため息をついた。
そうかなー。ちょっと物理を勉強したら誰でも思いつきそうなのに。そういうところの努力をしないから、いつまでも火魔法で雪を溶かして回らないといけないんだぞ!
「しかしこの海風きついな……」
「すっごく寒いじゃんよ!」
マッツとスキッピーが自身の腕をさすりながら文句タラタラだ。
馬車の中でぬくぬく過ごしてるから体がなまったんじゃないの? ちょっとその辺走ってこい!
「わたし、海を見てみたいなー」
「なんだ、アリシアは海を見たことがないのか? 俺様が連れて行ってやろう」
と、アークマン。
「あ、うん。……エデンも行きましょ!」
「うん、ボクも海見たい!」
エデンが元気よく返事をしてくれた。
セーフ。
やっぱりアークマンと2人きりはちょっと怖い。もし何かあって……パーティー的にヒーラーを失うのは少しだけ困るし?
* * *
「海だー! 初めて見たー! 崖! 波すごい!」
想像していたよりも激しい海だった。
断崖絶壁の崖。海面まで30m? もっとある?
張り出したごつごつした岩の壁の先端に立ってみる。崖から少し身を乗り出して下を覗くと、強烈な波が幾度となく衝突しているのが見えた。この複雑な地形は波が削りとったんだ……。
「ちょっと怖いかも……」
エデンは及び腰。
わたしよりもずっと手前のほうでおっかなびっくり海を見つめていた。
「もっとこっちにこないと! 風がすごいよー!」
「落ちたら危ないし……」
「アリシア、風が強いからそこはさすがに危険だぞ! お前の体重だと吹き飛ばされかねん!」
アークマンがエデンのさらに後方から大声を出して注意してくる。
まったく、わたしが何の対策もせずにこんなところに立つわけないでしょうがー!
「大丈夫ー。靴履き替えてるからー!」
わたしが履いているのは普段のローラーシューズではないのだよ。
馬の鞍につけていたジェルマット(改)の応用バージョン! 靴の裏がどんな地面にも魔力でぴったりと吸着するトレッキングシューズ仕様なのです!
なんならこのまま崖を直角に降りていくこともできるよー。
「アークマン、やっぱりここって外海?」
「外海?」
「えーと、この海の向こうってどうなってるのかなーって。ほかの国があるの? それともずっと海が続いてるの?」
国の地図に他国の情報は載っていない。
世界地図みたいなものがここには存在しているのかな。わたしは少なくとも目にしたことはない。
「ほかの国、だとは思うが……俺様もそれはよく知らない。海の向こうにほかに国があるということは聞いたことがある。しかし、船で行けるような距離ではないのだと思う」
まあそうだよね。
パストルラン王国にあるのは帆船で、近海漁業用だと思う。それで何日も、もしかしたら何十日もかけて大海を行くのはほぼ不可能だろうし。
ほかの国も同じような文明レベルなのかな。
別の国から軍隊が攻めてきたって話は歴史上残っていないけれど、ミィちゃんたちはそんなような話をしていた気がする。
ほかの国、見てみたいな……。
言葉通じるのかな。さすがに通じないかな。
でも翻訳機みたいなものが創れる? ある程度文法がわかれば……。語学は苦手だー。
「さすがにそろそろ寒さが限界だ。街に戻らないか?」
アークマンの問いかけで意識を引き戻された。
「はーい。初めて海が見られてうれしかった! アークマン、ありがとうね!」
「お、おう」
わたしが微笑みかけると、アークマンが照れたように笑う。
違うよ? そういう意味じゃないからね? ただお礼を言っただけだから変な反応しないで⁉
「ん、エデンは何してるの? 早く街へ戻ろう?」
声をかけてもエデンはしゃがみこんだまま動こうとしない。
見れば膝がプルプルと震えていた。
「ちょっと寒くて……」
うそつき。
雪女族の血を引くエデンがこの程度で寒いわけないでしょ。
まったく。
しかたないね。
「はいはい。手だして」
腰が抜けて膝が震えるエデンを無理やり引っ張り起こす。
エデンにも怖いものがあったのね。
生まれたての小鹿のようなエデン、ちょっとかわいい♡
王子様っていうより手のかかる弟って感じよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます