第28話 アリシア、バルオッティの街を離れる

 ここ『バルオッティ』は、川の魚も海の魚も集まってくる場所らしく、おかげで新鮮な魚介類がいろいろ手に入った! それはとってもラッキーだった……けどね、さすがに雪の中、街はずれに行っては魚の燻製を試作する日々にも少し飽きてきたわけですよ……。


「いい加減、この街から出ましょうよ。そろそろ先に進みませんか?」


 もうこの雪が止むことはないんじゃないのかな。

 これってどう考えても、早めの冬に突入しましたよね?


「でも馬たちが……」


 ソフィーさんさー、まだそんなことを言ってるんですか?

 馬たちは走れるって言ってるのに。何なら散歩させがてら、一緒に燻製作りに行ってますけど?

 ええい、じれったい!


「もう決めましょ! 選択肢2つ! 1、馬たちはこの街に預けていく。2、わたしの馬車の拡張荷車に乗せて連れていく。はいどっち⁉」


 もうね、暇すぎてね、また馬車を改造しちゃいましたよ。後ろに馬が5頭乗れるように巨大な拡張荷車を創っちゃいましたからね。馬たちが暇でストレスを受けないように、床をルームランナー仕様にしておいたから、ちゃんと運動もできるよー。正面に草原の映像とそこはかとなくリラックスできる音楽も流すようにしたから、快適荷車ライフを送れるね♪


 って、いつまで悩んでるんですかー!

 もう3日も経ったんですよ! ぜんぜん進んでないんですよー⁉


「リーダーたるもの決断は早くお願いします! 3・2・1、はい時間切れー! それじゃ馬車に乗せて連れていきますねー」


「私、まだ何も言ってないわよ……」


 ソフィーさんはずっとおろおろしてるだけだから、もうわたしが決めてあげました!


「もうこの街では見るものもないでしょ。次の街までジェットスキーをぶっ放しますよ!」


 そうじゃないとね……錬金術師のノーアさんのところにって……心惹かれている自分がいるんですよ。

 でも今じゃない。

 そう言い聞かせてるんだから……さっさとこの街を離れましょう。


「あのジェットスキーは街から十分に離れてからにしてよね……」


「もちろん。目立たない目立たない♪」


 わたしたちは普通の冒険者ですからねー。



* * *


「ヒャッハー! いけいけー♪ おらおらおらおらおらおらおらおらおらおら」


「これだからいやなのよ……」


「え? ソフィーさん今何か言いました? あ、おっきい! エレファントティガーサウルスの群れですよー。あー、燃えた燃えた♪」


 今日も『アリシアカッター』は絶好調!

 経験値チャリンチャリン♪


「馬車に乗ると、アリシアは人が変わったようになるから怖いのよね……」


「そうですかー? わたしはいつもと変わらないと思いますけど? おらー! モタモタしてると轢くぞー!」


 いやですねー。

 ハンドルを握ると狂暴になる人っているらしいですからね。そういうのは嫌われるらしいですし、気をつけないといけませんよねー。


「あれですね。これだけ雪が積もっていると、ジェットスキーがちゃんと雪の上を滑れてなんかうれしいですよ」


「それは……良かったわね……」


 ソフィーさん、なんかあんまりうれしくなさそう。うーん、共感してくれないのかなー。

 今までは無理やり魔力の膜を発生させて、その上を滑っていたのでスキーっぽさが足りないとは思ってたんですよね。やっぱり雪の上は滑らかでいいなーって。


「私は少し後ろの客車で休むわ。アリシア……ほどほどにね」


「はーい。おやすみなさい。安全に配慮して全速力は出しませんよ。あと2時間くらいで次の街……なんでしたっけ?」


「『エクリファイス』よ」


「そうそう、『エクリファイス』でしたね。湖の美しい街『エクリファイス』に到着しますからねー」


 そこまで行けたらもう『ダーマス伯領』は目と鼻の先ですね。なんなら明日にはついちゃうかな。やっぱり最初からジェットスキーで移動したら早かったんだよねー。


 って、ソフィーさんもう寝てる!

 ほかのみんなも!

 みんなわたしの馬車に乗ると寝ちゃうのは何でなの? もしかして快適すぎる? 制振構造にしてるからまったく揺れないし。その中で好きなだけ食べて飲んで……まあ、そりゃ寝ちゃいますね。


 しかたない。恒例のいたずらをしておきましょう♪


 おっと。

 さすがソフィーさん!

 近寄ったら半目を開けて……ソフィーさん以外にいたずらしておきますかねー。


 スキッピーのさらさらヘアをマッツ並みにワカメに変えてーと。ついでに金髪を植毛しておこうかな。

 うわ、金髪のうねうねキモッ! なんか予想以上に……ごめんね。腸が冷えにくいように、皮下脂肪が生成しやすいように脂肪細胞をちょこっといじっておいてあげるからさ……。


 マッツは……逆にさらさらヘアにしてみるかな。

 なんか普通だ。……個性が消えちゃった。街であっても気づかないかも。困ったなー。真ん中を剃って……ジャパニーズサムラーイ! これでインパクト出た! ヨシヨシ。


 アークマンは……ちょっとこの間怒らせちゃったしなー。

 弱点……膝の軟骨が減ってるから痛いのかな。アークマンの膝の中で軟骨を『創作』する……すかさず治癒ポーションをかけて再生! おー、良い感じ♪ これで若い頃みたいに飛び跳ねられるね。

 あれ? もしかして、これならソフィーさんの肘も治せるんじゃ?


 エデンはどうしようかなー。

 あんまり思いつかない……。

 

 今日はやめとこ。


「はーい、みなさーん。もうそろそろ起きてくださーい! 湖の美しい街『エクリファイス』にまもなく到着しますよー!」

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