第22話 アリシア、魚料理のフルコースを所望する

「ここが『バルオッティ』の街ですかー」


 馬車から降りて冒険者の証を見せると、わたしたちはなんなく街の中に入ることができた。別にピンクの馬車だからって変な顔はされなかったよ? 一瞬門番の人の表情が固まったような気もするけれど、わたしにはこの金ぴかに光るAランク冒険者の指輪がありますからねっ!


「想像していたよりは大きい街かも」


 ソフィーさんが小さめの街って言うから、わたしの出身地のシルバ村くらいを想像してたけど、ぜんぜんそんなことないじゃないですかー。城壁もしっかりしているし、雪が降っているのに人の往来もあるし、ちゃんとした街って感じする!


「まずは宿を探すわよ。雪は止みそうもないし、とにかく落ち着けるところを確保しなければ」


 ソフィーさんが辺りを見回しながら歩き出す。

 といっても、街の入り口付近はやっぱり商業施設が中心というか、道の両側は食べ物屋や土産物屋が軒を連ねている。この辺りに宿屋はなさそう。あ、そこの雑貨屋見たいかも! この辺りではどんな鉱石が取れるんだろう?


「ギルドでおすすめの宿を訪ねるのはどうだろう」


 アークマンの提案。

 おー、それ、わりと冴えてる気がする! アークマンって意外とちゃんとしてるのねー。ソフィーさんのサポート役というか、副官みたいなポジション?


「たしかにギルドで聞くのが良さそう! ここって観光地っぽい街だし、適当に入ってぼったくられたくないなー! それで、アークマン、ギルドはどこにあるの?」


 雪の中うろうろしたくないから早くギルドに行きましょ。

 泊るところはできればレストランと宿屋がセットになったところがいい。あとは湯が使えるところかなー。


「さあ、ギルドはどこかな……」


 アークマンが首をすくめる。

 おーい。知らないで言ってたの⁉ まったく……。


「スキッピー、いってこーい!」


 昼間に食べた鳥の骨を遠くに投げてやる。


「オレっちは犬じゃないってばよ……」


 と言いながらも渋々走り出す。

 斥候ワンコ、ギルドを探しにいっけー♪

 

 走り去ったはずのスキッピーがものの1分ほどで舞い戻ってきた。


「あっちにあるらしいってよ」


「はやっ!」


 このワンコ、なかなか有能だ! ご褒美に骨を3本も上げちゃおう♪


「街の人に聞いたんよ。だから骨はいらないってばよ」


 なるほどね。えらいえらい。ついでになでなでもしてやろう♪

 スキッピーワンコの髪をくしゃくしゃにしてから、頭の上にカイロを乗せてやる。


「あったかいっ!」


「ご褒美だぞー。あとはここに火魔法を放てば、あら不思議! チリチリヘアに即変身♪」


「やめれ~! オレっちはさらさらの髪がトレードマークなんよ⁉」


 スキッピーは慌てて頭の上からカイロを取ると、そのままポケットにつっこんだ。

 なーにが、さらさらの髪がトレードマークよ。何日も洗ってないからべったべたになってるってのー。撫でたわたしの手が油まみれに……。ま、わたしの創った簡易シャワー室は男子禁制だから、誰にも使わせないけどねー。


「ベタベタヘアのスキッピーは放っておいて、早くギルドに行きましょ!」


 ソフィーさんとアークマンの背中を押して走り出す。

 あ、もちろん自分の足で走ってるよ? いきなり初めての街では目立つし、ローラーシューズは使わないからね⁉


「あ、置いてかないで~」


 エデンが情けない声を出しながら追いかけてくる。少し遅れてマッツとスキッピーも続く。



* * *


「なーんだ。ギルドの隣にこんな良い宿があるんですねー」


 わたしたちはギルドを訪ね、宿屋の紹介を受けた。

 立派な装飾が施された門構えのギルド・バルオッティ支部。その真横に、これまた豪奢な宿屋が併設されていたのだった。ギルド員御用達なんだって!


 宿屋の中に入り、『王立ギルド』所属の証、冒険者の指輪を見せると、フロントのおじさんが深々と頭を下げてから、わたしたち1人1人に個室を用意してくれた。

 前金で1人1泊銀貨20枚。わりとお高めー。でも食事付きだし、お湯も使い放題♡ ベッドは……アイテム収納ボックスにある自分の簡易ベッドを使おうかなー。


「荷物を置いたらまずは食事にしましょうね」


 階段を上がり、各自の部屋へ。部屋に荷物を放り込んでからすぐに、階下の食堂へと足を運ぶ。


「ごはん、ごはん♪」


「アリシア、ずいぶんうれしそうね。そうしていると年相応なのよね」


 わたしを見つめてくるソフィーさんの眉根が下がっている。


「だって魚料理の街ですよ! 楽しみじゃないですかー!」


 名物はなにかなー、どんな料理が出てくるのかな♪

 席に着いてすぐに、給仕のお姉さんに声をかける。


「追加料金払っても良いので、最高の魚料理フルコースをください!」


「ちょっと、アリシア⁉」


「せっかくだしー。良いものが食べたいです! なんですか? お金がないなら、わたしがソフィーさんのガチャガチャ貯金箱から払ってあげましょうか?」


「ちょ、シー! それは内緒よ!」


「ガチャガチャ貯金箱ってなんだい?」


 マッツが話に食いついてくる。ソフィーさんの慌てっぷりを見て、興味深々の様子だ。

 それだけじゃないね。マッツもガチャガチャ好きだもんねー。お店の前に設置したケロケロカエルッピのフィギュアシリーズ全10種をコンプリートしてたし。


「それはねー。わたしがギャンブルをねー」


「わかったわよ! 今日は私のおごり! それでいいでしょ!」


「わーい。ソフィーさん太っ腹ー♡ そういうわけだから、良い魚をじゃんじゃんもってきてくださいね♪」


「か、かしこまりました!」


 困った顔をしながら、給仕のお姉さんが調理場へと向かっていく。


 何が出てくるんだろう。

 もしかして、生魚も食べられたりするのかな?


 わくわくだー。


 

「と思っていた時期もありました……」


 なんじゃこれ……。


 焼き魚。煮魚。焼き魚。煮魚。焼き魚。煮魚。


「量を出せば良いってもんじゃないでしょ! せめて炒めたりとか! 揚げたりとか!」


「うわっ、うちの料理暴君が暴れ出した! ヒィ、お助けを~!」


 スキッピーが飛び上がる。


「誰が料理暴君じゃ! お前の自慢のさらさらヘアもワカメに変えてやろうか!」


「そう言って俺のほうを見るな。つうか、俺の髪はワカメじゃないからな?」


 うっせー、マッツ! ワカメ! うねうねしてるくせに! 天パのヤツは長髪にするな! 潔く短く切れ!


「お酒もワインしかないし……日乃本酒が飲みたいわね……」


「まったくだ……」


 ソフィーさんにアークマン、それは仕方ないと思うの。日乃本酒は、たぶんわたしにしか創れませんからね。


「お店で食べるより、暴君の料理のほうがずっとおいしいね」


 エデンさ、めっちゃ笑顔でこっちを見られても……これと比べられてもあまりうれしくない! けど……そう言ってもらえるとやっぱり悪い気はしないというか……。


「あとで市場で魚を仕入れて、野営しながら料理しましょうかね……」


 うーん、たしかにそのほうが良い気がした。


 大金払ったのに。とほほ……。

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