第21話 アリシア、わからせてやる
「ねぇねぇ、ソフィーさーん」
「……なによ」
「結局ジェットスキー使うなら、最初からこれで来たら良かったんじゃないですかー? ねぇねぇー?」
「緊急事態だから仕方なくなのよ……」
御者席で手綱を握るわたしの横では、ソフィーさんが足を組んで絶えず貧乏ゆすりをしていた。
そう。
吹雪の中、ソフィーさんとアークマンが話し合った結果、決まった方針。
わたしの『魔力・波乗り式ジェットスキー改☆馬車客車一体型ver』で近くの街まで行く、となったのだ。
「まったくー、素直じゃないんだから。でも馬が5体もいるから、乗せるの大変だったんですからね」
近くの木を全部切り倒して、拡張ボードを作らないといけなかったし。
だけどね、馬車の後ろにさらにソリがつながっていて、馬が5頭乗ってるのは相当目立ちますよ? まあ、この吹雪の中すれ違う人もいないとは思いますけどねー。
「とにかく急いで進みますね。夕方までには何てところでしたっけ、近くの街までたどり着かないと」
「バルオッティ子爵領の『バルオッティ』ね」
「そう、『バルオッティ』でした。夕刻まであと2時間。まあ、余裕で街の閉門時間までには着くでしょう」
へんな魔物に絡まれたりしなければね。
「『バルオッティ』ってどんな街なんですか? 大きい? 小さい?」
「一度も訪れたことがないからギルドで聞いた情報だけになってしまうのだけど、海産物がおいしい街らしいわ。街の規模はかなり小さめだという話だけれどね」
「おお! 海産物! 魚が食べられるんですねー。さすが海が近くなってきた! 楽しみだなー♡」
「アリシアは魚を食べたことがあるのかしら? ガーランド領から出たことがないという話だった気がしたけれど……」
おっと、まずい。
話の辻褄が合わなくなってきた。
「えーーーーっと、旅芸人の方の話を聞いただけです! 魚というそれはそれはおいしい食べ物があるという話をね!」
「私は食べたことがあるけれど、あれは臭くて食べられたものじゃないわよ。やっぱり肉こそ最強の食材ね」
魚の味を思い出したのか、ソフィーさんが鼻にしわを寄せて顔を歪ませる。
いきなり生魚でも食べたのか、それとも鮮度が悪い魚を食べさせられたのかな? どっちにしても、正しく取り扱われた魚を前にしたら、そんなことは言えなくなりますからねー。バルオッティについたら、市場を物色しなければ! 良さそうな海産物はありったけ買い込んでアイテム収納ボックスで持ち帰ろうっと!
楽しくなってきたー!
* * *
「えっと……あれは……なんですかね?」
「なにかしら、ね……」
なんか、その……厄介そうですよね。
ちょうど街道を挟んで両側に、バッファローの群れ……もはや軍勢がお互いににらみを利かせるように向かい合っていた。
バッファロー同士の合戦って雰囲気?
「左がスノーバッファローで、右がマウンテンバッファローのようね……」
なんですか、マウンテンバッファローって。平地を走っていてもいいんですかね?
「縄張り争いかしらね」
「今にらみ合ってる間に通り抜けられますかね? それとも両方とも焼き払います?」
両軍合わせると500……1000体いるかどうかというところ。
「さすがに焼き払うのはちょっと……生態系壊れたら困るわ」
「魔物の生態系も維持しないといけないんですか? 人を目の敵にしてくるんだし、絶滅させればいいのに」
「それはダメよ。ある種族を絶滅させれば、ほかの種族が新たにそこを縄張りにするようになる。それが人では手に負えない強力な魔物だったら、近くの街が危険にさらされる可能性だってあるのよ」
「うーん。そしたらそれも絶滅させれば」
「怖い考え方はやめなさいね……。それに魔物と言っても、バッファローのように肉も毛皮も人の役に立つ魔物だっているのだから、必要以上に狩るのは良くないのよ」
なるほどね。
人に敵対行動を取る魔物という括りに入れていても、野生動物と扱いはそう変わらないってことなのね。
「ちなみに、マウンテンバッファローっておいしいんですか?」
おいしいなら少しは狩っていきたいな。
「スノーバッファローと比べると、若干質は落ちるわね。身が硬く、脂身もほぼないので、そのまま食べるのはおすすめしないわ。燻製にしたりして何とかって感じかしらね」
「うーん。狩るのはやめておこうかなー」
「もう少し北にいけば、いやってほど見られると思うわよ。主な生息地がスノーバッファローよりもさらに北部地域にある山岳地帯なのよ」
「そりゃあマウンテンですもんね……」
「魔物除けの魔道具は使えないのかしら?」
「あー、でも、マウンテンバッファローのほうがLv85あるみたいなので、魔物除けはスノーバッファローにしか効果がないかもです」
意外と強いな、マウンテンバッファロー!
「だけど片方だけ追い払ったら、このにらみ合いみたいなのは終わるのかな?」
「そうかもしれないわね……やってみてくれる?」
「OK、ボス。魔物除けの魔力波を流します」
馬車に取り付けてある魔物除けの魔力波を、近距離全方位から、前方左のみに切り替えて、一気に出力を上げていく。
たちまち、スノーバッファローの群れの足並みが乱れ、魔力波から逃げるように走り出す。
「効果ありましたね……って、マウンテンバッファロー⁉」
スノーバッファローの群れを追いかけるように、マウンテンバッファローの大群が動き出したではないですか! 容赦なく後ろから角でスノーバッファローをつつきまわしている。なんだか敗走兵の掃討作戦の様相を呈してきた……。スノーバッファローが一方的にやられていて、ちょっとかわいそうな気も……。
「しばらく待てば街道も通れるようになるでしょう」
ソフィーさんは動じることもなく、2つの群れの動向を眺めていた。
野生の縄張り争いってこういうものなの?
マウンテンバッファローのやつらー、めっちゃ悪い顔してるなー。わたしがスノーバッファローの群れを追い払ったおかげなのに、まるで自分たちが強いみたいに振舞って……ちょっと気に入らないな……。
レーザーでドカ撃ちしてやるー!
マウンテンバッファローの群れの中心に、特大のレーザーを一発撃ち込む。
「アリシア⁉」
「いや、なんかちょっとイラっとしちゃって」
マウンテンバッファロー、調子に乗るなよ! 漁夫の利のくせに!
「慌てふためいちゃってまあ♡」
スノーバッファローもマウンテンバッファローもごちゃごちゃに入り混じって逃げていく。
バッファロー風情が、このアリシア様に勝てると思うなよっ!
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