第20話 アリシア、異性を意識させる

 とりあえず、今後の方針についての話し合いは、ソフィーさんとアークマンに任せるとして、馬たちの様子を見に行こうかな。

 

「エデン、マッツ。馬たちの調子はどうー?」


 大樹の下で、馬たちは寄り添うように座り込んでいた。やっぱり寒いのかな……。


「暴君! 馬たちは大丈夫だよ。寒さにはめっぽう強いからね」


 エデンが背中にかけた布の上から双子の馬たちを撫でている。エデンに撫でられて、馬たちは気持ち良さそうに頭を震わせた。


「寒さに強いって言ってもねー。さすがに吹雪はきつくない?」


「吹雪きだけなら問題ない。しかし雪が積もり過ぎると、足を取られるから進むのは危険かもな」


 マッツが、一番小さい馬の長いたてがみに指を通した後、背中をポンポンと叩いた。


 馬たちの心の声を聴いてみると、「大丈夫、いけるよ」「もっと走れるよ」という想いが伝わってくる。キミたちすごいなー。背中に乗ってる人間のほうがきつくなってるって言うのにさー。


「このあとどうしようかねー。しばらく吹雪も収まりそうにないし、足首くらいまで積もってきてるし、さすがにこのまま進むのはきついよね……」


「さすがに俺もここまで本格的な吹雪は初めてだよ。あまり北部地域に遠征に出ることが少なかったというものあるが……」


 そうかー。マッツが経験してないっていうことは、エデンも?


「もちろんボクも初めて。ボクは平気だけど、みんなは寒いでしょ」


「わたしはまだギリギリ平気だけど、この雪の中進んだらスキッピーが倒れちゃうかもね……」


 スキッピーは『寒さ×』の男。

 無理をさせたら30歳を前に禿げちゃうかもしれない……。


 でもエデンは弱点部位として『暑さ×』がついてないよねー。なんだか不思議。人族とのハーフだと種族の弱点みたいなのが打ち消されることもあるのかな。まあ、でも、代わりにものすごく気になる弱点があるんですけどね……。


 弱点部位:異性×。左後方。辛さ×。


 異性×かー。もしかして、わたしのこと苦手なのかな……。普通に接してくれてるように見えるけど、無理させてるのかも……。


「エデンってさー。辛い食べ物って苦手、だよね?」


 無難な話題のほうから……。


「あ、うん。ナゲットクンのホットはちょっと食べられないかもしれない……」


「はいはい。チーズ味ばっかり食べてるもんねー」


「俺はホットが一番好きだな」


 と、マッツが会話に参加してくる。


「お客様にもホットは人気よねー。そこまで辛さは強くしてないし。もしかしたら、もう1個、さらに辛くした『ホットハイパー』みたいなのを発売しても良いかもって思ってるとこー」


「それは人気出るかもな!」


 お、普通の味覚(?)のマッツからは良さそうな感触。

 ガーランドで辛いものブームでもおこしちゃいますかねー!


「そしたらお店に帰ったら試作してみて、マッツに試食をお願いしようかな」


「それは楽しみだ!」


「辛いものは苦手だよ……」


 うれしそうなマッツと対照的に、かなしげな表情を見せるエデン。


「エデンにも何か作ってあげるよ。マヨチーズとかどうかなー」


 マヨネーズでさらにチーズをまろやかにしちゃうよ。


「マヨチーズ? チーズと何か違うの?」


「ふっふっふ。それは食べてからのお楽しみね♡」


 そういえばマヨネーズって、それだけで異世界無双してるラノベがあったような……ダメだ、思い出せない。わたしの前世、しっかりしろー!

 まあ、マヨネーズの作り方はちゃんと記憶してるから大丈夫だけどねー。


 って、違う違う。

 聞きたいのは辛さのことじゃなくて――。


「ねぇ、エデン」


「ん、何?」


 反応は普通。

 ホントは女の子が苦手なのに無理してるのかな……。


「エデンってさ……わたしとしゃべるのつらかったりする……?」


 ああっ、ストレートに言っちゃった!

 あー、でもこれで「つらい」って言われたらどうしたらいいの⁉ 聞かなきゃ良かったかも……。


「なんで?」


「えっ?」


「えっ?」


 あれ……ぜんぜん思い当たる節がないって感じで、ポカンとしてる……。


「エデンって女性が苦手なんじゃ……?」


「あ、うん……少し、ね」


 伏し目がちに言う。

 だよね。弱点だもんね。


「こいつはさ~、モテすぎるのよな~。旅先でも街に入ればしょっちゅう声かけられて」

 

 マッツが笑いながらエデンの肩を組む。

 エデンはやっぱり世間でもイケメン認定なんだー。んー、イケメンぞろいの天使ちゃんたちの中でも、さらに目を引くイケメン……。雪女族の血のせいなのか、クールでミステリアスな雰囲気がよりいっそうエデンの美しさを際立たせているのかもしれない。まあ、マッツもワカメな髪を何とかすればイケメンだけどね。

 

「うん……知らない女の人と話をするのは苦手だよ。こうしてずっと仲間内でワイワイしていたい……」


 エデンがマッツと顔を見合わせ、楽しそうに笑う。


「うーん。わたしとは初対面の時から、普通に話をしていたような……?」


「え? そうだね。暴君は別に……」


「別に何?」


「あ、いや……」


 エデンがチラチラとこちらを見て、何かを言いあぐねている様子。


「何よ?」


「そりゃ、あれだろ。子どもだし、女性じゃないよな」


 マッツが笑いながらエデンの肩を何度もたたく。


 ほぅ、そうかそうか。

 死ねっ。


 わたしの即死スキルが発動してマッツは死んだ。


「デリカシーのないゴミは消し飛んだところで、エデンはわたしのこと、異性として意識してもいいよ?」


 まつ毛バチバチッ♡


「ま、マッツ! マッツ~~~~~!」


 エデンはわたしのほうなんてこれっぽっちも見ずに、マッツの亡骸を抱きかかえて咆哮する。くっ、死体に負けた……。


「冗談よ、冗談。半分冗談だから生きてるってー」


 ほら、治癒ポーションどばー。3分も待てば蘇生するから。


「マッツ……無茶しやがって……」


 なによ、無茶って。

 やっぱりみんなに子どもって見られてるのかな……。ロイスくらい美人ならなー。あとは胸か! やっぱりみんな巨乳が好きなのか!

 そういえば最近シルバ村に帰ってなかった……。みんな元気かな。そろそろシールケとルースの調子に乗った巨乳をちぎり取りにいくか……。ちぎった部位の構造を把握して、巨乳遺伝子を特定できれば……ひっひっひ。


「暴君……なんか怖い……」


 今に見てろよ! わたしのことをバチバチに意識させてやるんだからっ!

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