第19話 アリシア、吹雪に見舞われる
雪がちらつき始めてから1週間ほど。
わたしたちは野営を続けながら、相変わらず馬に乗っての移動中だ。
「あのー、ソフィーさん……」
わたしとソフィーさんは大きな白馬に2人乗り。後ろの鞍から呼びかけても、ソフィーさんは応えてくれない。
「ねぇ、ソフィーさん?」
ツンツン。
背中やわき腹をツンツクツン。
いい加減わたしの話を聞けー!
「……何、かしら?」
そこまでやって、ようやくソフィーさんがめっちゃ小声で唸るように返事をした。
声ちっさ! どんだけ不貞腐れてるのさ!
「雪、すごい降ってますね……」
「そうね……」
「さっきから吹雪いてきていて、もう前が見えない気がするんですけど……」
「そうね……」
「馬たちも限界だと思うんですけど……」
「そうね……」
そうね、じゃないよ……。
さすがにこのまま進むのは無理でしょ!
大雪ですよ! そして吹雪ですよ!
「この季節はまだ本格的に積もったりはしないんじゃなかったでしたっけ? なんかもう、これって積もる積もらないの話じゃないですって」
何の対策もしないでこのまま馬を走らせたら、馬の命も危ないし、わたしたちの命の危険だってありますよ!
「でもまだ次の村までは遠くて……」
「いったん、立ち止まって作戦練りましょう! ほら、あの木! あの大きな木の下にいきましょ。わたし、急いで何かアイテム収納ボックスの中から使えそうなものを探しますから!」
防寒対策になりそうなものをこっそりと創りますから!
ソフィーさんの答えを待たずに、後ろのメンバーにも指示を出す。白馬にお願いをして、街道を逸れて大木の下へ。
「しっかしまあ、完全に本降りになってきましたね……」
針葉樹の葉っぱが守ってくれているおかげで、木の根元付近にいれば上から降り積もる雪は避けられている。でもこれ以上吹雪が強くなってくると、ちょっとここも安全とは言えないなー。
「ぼさっとしてないで、スキッピーはとりあえず火を起こして!」
「おっす」
スキッピーが慌てて焚火の準備を始める。
「エデンとマッツは、馬にエサやりと、この布を背中にかけてあげて!」
とりあえずの防寒対策。
ちゃんとしたモノはあとで創るから!
「ソフィーさんとアークマンはこのあとのルートを確認してくださいよ。進むのか、引き返すのかも含めて、夜までにどこでどうするのか、はっきり決めておかないと遭難しますよ!」
2人は無言で頷き、地図を広げ始める。
さて、わたしはどうしようかな……。
考えなければいけないことは、大きく分けて2つ。
1. 移動の際の防寒対策
2. 休憩・野営の際の防寒対策
とりあえずは差し迫っている『2. 休憩・野営の際の防寒対策』からかな。
現実的なのは球型防護フィールドの改造かなー。魔物以外にも、雨や雪をはじけるように……なんかないかな……ああ、そうか、熱だ! フィールドを振動させて熱を発生させておけば、雨と雪を蒸発させられる!
それに熱が発生するなら、わりとそれだけでもフィールドの中が温まって防寒対策になるかも?
あー、でもちょっと危険だなー。人体にも血液という水分があるから、知らずに通り抜けようとすると沸騰するよね。うー、困ったな。中にいる人は気をつければいいとしても、通りかかった知らない人を茹で人間にするわけにはいかない……。
とりあえずは防護フィールドの範囲を50mから20mに狭めようかな。
あとは……魔力感知の索敵モードに自動排除オプションと対人感知オプションを追加しておけばいいか。人が近寄ってきた時には警告音を鳴らそう。それでも侵入しようとしてきたら……しかたない!
よし、防護フィールド極地仕様を展開だ!
おーおー? 吹雪の風も防護フィールドの熱を通して入ってくると暖かくなってるー! 思ったよりも暖房器具として使えそう! これは思わぬラッキー!
「ちょっと防寒対策をしてみたんですけど、どうです?」
「急に暖かくなったと思ったら……」
ソフィーさんの表情が思いのほか険しい。
「何か気になることありますか? 直せそうなところならすぐにいじりますけど」
「いえ、何を始めたのかしら、と……」
ソフィーさんが気にしていたのはわたしがまた変なことをやらかした、と思ったってこと?
「野営の時に使うって説明しましたよ! ミレンテ山脈で魔物除けのセーフポイントっていう魔道具があって、その技術を応用して作った防護フィールドですよ」
「魔物が勝手に避けていくんだったわね……」
「Lv80くらいまでの魔物なら効果があるらしいですけど、それ以外が来た時は自動迎撃するようにしてますからそれも安心です」
レーザーでピャッとね。
まあだいたいの魔物は簡単に倒せるでしょう!
「今回追加したのは振動熱オプションですよ。フィールド自体を振動させて熱を発生。その熱で雨と雪を蒸発させてはじくって感じです」
「そう、なの?」
ソフィーさんが頭にはてなマークを浮かべながら、アークマンのほうを見る。アークマンも首を振るだけでまったく理解できていない様子だ。原子を振動させると熱が発生する……って理解するのは無理かー。
「雨も雪も水ですから、ある程度の熱で水蒸気にできるんですよ。そうすれば防護フィールドの中には入ってこない。それに吹雪の風もフィールド上で発生した熱を通ってくると、温風になるから、天然の暖房器具に早変わりです!」
「よくわからないけれど……助かったわ?」
「ええ、まあ、よくわからないながらも感謝してくれてありがとうございます。それと、人が近寄ってきた時は警報が鳴りますから、フィールドに近づかないようにみんなで止めてくださいね」
「近づくとどうなるのかしら?」
「人が防護フィールドに触れると……血液中の水分が一瞬にして沸騰するので、まあ、死にますね」
「えっ」
「水に関してだけですが、大量の雨や雪を蒸発させるほどの熱を発生させてますからね。内側からも触らないようにしてくださいよ。水以外は大丈夫なんで、布や木の葉が燃えたりはしないと思いますけどね」
「わか……ったわ……」
ホントに大丈夫かなー。フリじゃないですからね?
「それで今度の進行ルートは決まりましたか? 防護フィールドが思いのほかうまく改造できたので、あれならこのまま野営を続けても平気そうですけど」
吹雪が収まってから移動という手もある。
まだ移動用の防寒対策ができてないし。馬たちはたぶんこの吹雪では走れないと思うので。
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