第18話 アリシア、防寒対策に悩まされる

「あ、雪だ……」


 曇天の中、馬に乗って走っていると、雪がぱらつき始めた。


「まだそこまで寒くないのに雪が降るんですね」


 ハーっと息を吐けば少し白く見えるかな、とくらいの気温。まだまだ冬という感覚はないくらいの状態なのに。


「ここから北の地域は、雪の降り始めが早いのよ。上空の気温が非常に低いらしいわ」


「へぇー。上空の」


「鳥人族なんかは、もうこの季節になると『寒くて飛べない』と地上で暮らすか、南の地域に移動するらしいわよ」


 ソフィーさんの豆知識。


「鳥人族の肌感覚で気温を測るんですね。ちょっとおもしろい!」


「鳥人族だけじゃないわよ。普通に空を飛んでいる野鳥もいないでしょ?」


 空を見上げてみる。

 うーん、たしかに何も飛んでいない。でも南のほうの地域で鳥がバンバン飛んでたかまで気にしてなかったなー。


「ところで雪の中の進行はどうなるんですか? 馬たちはこのまま走れます?」


「まだあと1カ月くらいは、たまにぱらつく程度で、本格的に積もったりはしないはずだから、このまま進むわよ。『ダーマス伯領』に行って戻るくらいは問題ないはずよ」


「なかなかギリギリのスケジュールですね……。まあ、了解」


 雪の降り方なんて、年によって違いそうなものだけど、ホントに大丈夫かな……。

 

 ねぇ、白馬のキミさ、平気なの? 雪が降ったらさすがに寒いでしょ。汗が湯気になって見えてるし。

 うんうん、体が冷えてちょうどいい?

 ホントかなー。

 まあ、積もるくらい降らなければまだ走れるって思っておくけど、ちょっとでも体調に変化があったらすぐに知らせるんだよ?


 後ろの子たちの様子も後で確認しよう。

 寒さに弱い子がいたらどうにかしてあげないと……。



* * *


「ん、どうしたのスキッピー?」


 休憩中に小さな焚火を囲んでお茶を飲んでいると、明らかにスキッピーの様子がおかしかった。ひっきりなしに手足を擦っている。


「オレっちは寒いのが苦手で……」


「えー、まだ本格的に冬が来たわけでもないのに⁉」


 よく見ればどことなく顔色も悪い、気がする。

 仕方ないなー。『構造把握』。


 弱点部位:身長×。寒さ×。小腸。30歳前後で薄毛。


 寒さって体の部位なの?

 それと、薄毛は弱点なの……。ねぇ、これっていろんな人を敵に回しちゃってない?

 

「スキッピー……強く生きろよ……」


 意味が分からずポカンとしているスキッピーを見て、思わず涙ぐんでしまう。

 そうなのね。30歳で……かわいそうに。


「せめてものエールとして、腸が温まるような……ちょっと待ってて」


 寒さ対策に、カイロを作ってあげましょう。

 鉄粉を酸化させて発熱する仕組みなら簡単だからね。お腹に張り付けておけば腸も温まって少しはマシかな。


「はい、これ。ちょっと揉んで温まってきたら、下着と鎧の間に張り付けておいて」


「これは何?」


「『カイロ』という魔道具かな。適度に発熱した状態を保てるから、寒さ対策にはばっちりだよ。お腹痛くなりにくいかも?」


「お、おお? なんか温かくなってきたぜ。これを腹に貼ればいいのか?」


「うん、皮ふに直貼りしないでね。やけどするかもしれないから。下着か服の上に貼って」


「おお……。温かい。助かるぜ……」


「良さそうなら、手足の分もあげよっか?」


「頼む!」


 スキッピーは拝むようにして手を合わせてきた。まったくおおげさな。


「あれ? 頼み方が違くない?」


 人にものを頼む時はそれ相応の態度をですね?


「……アリシアちゃん好き好き。アリシアちゃんなしでは生きていけない。哀れなオレっちに愛を分けてください……」


 棒読みだなー。


「もっと感情をこめてほしいところだけど、まあいいや。はい、これ。手足用の小さいカイロね。半日くらいしたら効果がなくなってくるだろうから、またその時言って」


「ありがとう。助かるぜ」


 どういたしましてー。


 しかしあれだね。馬たちよりもスキッピーのほうが寒がりだったなんて。

 意外と馬って寒さに強い動物なんだねー。毛皮をつけてないから、なんとなく寒さ苦手なのかと思ってたよ。


「おい、みんな! スキッピーだけなんか暴君から何か良さげなモノをもらってるぞ!」


 マッツが急に大声を上げる。

 

「いや、別にスキッピーだけってわけじゃないんだけど……ちょっと寒さに弱そうだったからね?」


 ほかの人は別にまだ平気でしょ。

 わたしもまだぜんぜん寒くないし。

  

「なになに?『カイロ』って言うの? 温かいわね。私もほしいわ……」


 ソフィーさんがスキッピーの服をまくり上げて、フェザータッチでお腹を触っていた。

 そこはカイロじゃない……。


「別に全員分用意するのは簡単なんですけど、普通に誰か『耐寒』の魔法とか……いないですよね。はい」


 つくづく偏ったメンバー構成だね……。


 まあ、エデンだけはそもそも暑さには弱いけど、寒さにはめっぽう強い種族の血を引いてるから大丈夫か。


「とりあえず1個ずつお試しで『カイロ』を配るので、もっと本格的に寒くなってきたら新たな対策を考えましょうか……」


 先が思いやられるなー。

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