第16話 アリシア、ステーキを焼く

「なんだか、ガラッと景色が変わりましたねー」


 昨日まで走っていた道は、細かい砂利(金入り)がていねいに敷かれていて、わりとちゃんと整備されていた印象だったのに、今朝になって急に未整備の悪路に……。


 ちなみに馬の走る速度はゆっくり目なので、こっそり街道の砂利を分解して金を集めながら進んでいるよー。北に進めば進むほど、金の含有量が増えている気がするから、金鉱脈は北部の地域にあるのかも?


「昨日、早めに野営をしたのには理由があったのよ」


「この悪路を進むためですか?」


「それもあるけれど、この辺りは魔物の出現が多い地域で有名だから、1日かけてでも抜け切ってしまいたいのよね」


 魔物が多いところでの野営は気が休まらないから大変そうですね……。

 前にソフィーさんたちが遠征に出た時に創る予定だった、球型防護フィールドと対軍用迎撃システムなどなどが必要だったなー。休憩時間に創っておこうかな。

 屋外で安眠もできないなんて世も末だよ……。


「その危険地帯は、1日走れば抜けられる予定なんですか?」


「そうね、何事もなければ」


 あ、フラグ。

 つまりこのあとドンパチ激しい戦闘になる、そういう展開ですね?


「何事もないといいですねー(棒読み)」


 出発して1週間かー。

 もうけっこう日中も気温が下がりつつあるね。

 ちょっと日が陰ると肌寒いなって感じがするし……少しくらい火を焚いてもいいかなって気分♪


 こんな時あのアル中……ハインライトさんがいれば火の魔法でマイムマイムが踊れるのにね。


 あれ、ちょっと待って? そう考えるとこの遠征メンバーって、マッツがよく使うのは『クレイウォール』は土壁を出して防御する魔法だし、たまーに『アースニードル』で土の棘を出すくらいしか攻撃魔法がないんじゃない?


 火魔法がないと困る……。

 体も心も寒ーい。


 馬の後ろに乗っているだけで暇だし、休憩時間とは言わずに今なんか創ろっかな。

 

 ピンときた!

 アイディアの女神様が下りてきましたよ♡


『ピッチングマシン』


 うん、良さそう!


 ピッチングマシーンの内部に圧縮した魔力を投下。それを高速回転させて球状に成形。筒を通る瞬間に点火。球状の魔力を爆発させて発射。


 炎の球が当たった相手は高温で蒸発して死ぬ。 


 論破できそうな相手を見つけたら、たちまち自動ロックオン。正論という名の「火の玉ストレート」をガンガンに投げつけていくよ!



 ふぅ、簡単な構造だから、もうできちゃった♪


 試し撃ちしたいなー。

 どこかに動く的はないかな。

 

 うーん。

 的がないなー。

 後ろの的は……きっと怒られるよね。


 ワカメ頭をアフロ頭にするくらいならいいかな?

 それくらいなら笑って許されるよね♪


 よーし。

 試し撃ちするぞー。


「アリシア!」


「ごめんなさいごめんなさい。試し撃ちは冗談です!」


 やだなー、ソフィーさん。

 そんな仲間に向けて火の玉ストレートを投げるわけないじゃないですかー♡


「早くもお出ましよ。スノーバッファローの群れだわ!」


「スノーバッファロー? この辺、雪なんて降ってないですけど」


 目を凝らしてみると、地平線の向こうに砂煙が上がっているのがかろうじてわかる、かもしれない?


 ていうか、ソフィーさん視力良すぎでは⁉


「この辺りにはたくさん生息しているのよ。冬に入る前、雪が降る前に凶暴化して人を襲うことで有名なの」


「つまり今の時期じゃないですか……。それに有名って……もしかして、今日ずっとこの街道を走っていても誰ともすれ違わなかったのって……」


「非常に危険だから、この季節にこの辺りを走るのは無謀な行為とされているからよ」


 おい。

 

「もしかして普通は迂回……」


「するわね」


 おいおい。


「……どうしてわたしたちはここを走っているんですかね?」


「彼らの存在をすっかり忘れていたわ……」


 こらー。

 って、そんな大事なことなら、ほかのメンバーはなんで迂回を進言しないのよ⁉

 そろいもそろってポンコツかー⁉


「今から迂回すれば……」


「スノーバッファローは馬よりも足が速いのよ……」


 万事休す!


「でも……この時期のスノーバッファローの肉は普段よりも脂がのっていておいしいわよ」


「さくっと全滅させて食事にしますか!」


 バッファローって牛っぽいし、味は牛肉みたいなものかなー♪


 ピッチングマシーンは……スノーバッファローが蒸発しちゃうから今回は使えないかな。うーん、やっぱりライトサーベル! 出力を調整したライトサーベルなら斬り伏せるだけで、こんがりバッファローステーキの焼き上がりよー♡


「わたし、先行ってご飯の準備してきますね♡」


 ずっとお尻の下に敷いていたジェルマット(改)の魔力パスを解除。馬の背から飛び降りる。


「ちょっとアリシア!」


 ソフィーさんが止めてくるのも聞かず、わたしはローラーシューズをMAXスピードにして1人スノーバッファローの群れへとまっしぐら。



「おー、いるいる♡ 100体? もっといるかも?」


 近く寄ると、なかなか壮観ですな。

 スノーバッファローの体の大きさは、ざっとわたしの10倍くらいはありそう。筋肉質で食べ応えがありそー♡


 しっかし、鼻息うるせー!

 臭いもすごい獣臭……さっさと片づけちゃいましょうかね。見える範囲のスノーバッファローをすべて捕捉しまーす。ターゲットロックオン完了!


 一斉射撃開始!


 ライトサーベルに魔力を込める。一気に魔力が吸い込まれていく感覚。

 直後、100体以上のスノーバッファローに向かって無数のレーザーが照射される。

 うわーきれい! リアル板野サーカスだ♪


 と、レーザーたちがターゲットに接触した瞬間、辺り一帯で一斉に小さな爆発が起きる。


「おっけぃ!」


 動く敵影なし、ヨシ!

 撃ち漏らしなし、ヨシ!

 火の手は上がっていない、ヨシ!


 近寄って肉の状態を確認しましょう♪


 折り重なるように倒れているスノーバッファローは、すべてきれいに頭が吹き飛んでいた。


 おー、狙い通りちゃんと頭だけを撃ち抜けてる♡ おっと、それにレベルも上がっちゃった♪ またまたラッキーガール度も上がっちゃいますよー!


 さてさて、あとは体内に残っている血管ごと血抜きをしましょう。あ、一応もう一度『構造把握』をしとこう。


 有害な物質なし。寄生虫の類もなし。血抜きもばっちり。


 じゃあ適度な大きさに切りわけてー。塩コショウを振りかけて、簡易型のオーブンに放り込めばー。


「ババーン! スノーバッファローのステーキ完成♡」


 んー、みんな遅いなー。

 ちょっと味見してみよう♪

 

「んまっんまっ、最高♡」


 牛肉より身の引き締まった赤身肉ね。

 それでいて脂がのっているから、しっかりとした歯ごたえの中にジューシーさが同居してる♡ これって、この時期にしか食べられない絶品料理なんじゃないの⁉


 よーし、やる気出てきたー!


 みんなが到着する前に、全スノーバッファローの解体と血抜きを済ませて収納しておきましょ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る