第15話 アリシア、休憩中に馬の様子を確認する
生きた馬での移動は、こまめな休憩とともにあると言ってもいい。
馬に長い距離を走ってもらうには、なるべく負担をかけないように休み休み進む。調子が悪そうなら絶対に無理はさせない。これしかないのだという。
「みなさん、冷たい飲み物でもどうぞー」
お水とお茶とレモンスカッシュを配って歩く。人間も一緒に休まないとねー。でもお酒はなしよー。
「ありがとう」
笑顔のソフィーさん。
ほかのメンバーは……わりと真顔。飲み物を受け取ってもお礼を言うくらいで口数が少ない。まだ初日だけど、みんな疲れてるのかな?
「わたし、ちょっと馬たちの様子を見てきまーす」
なんとなく馬たちの声を聴いて調子を確かめておこうと思う。
あれならお薬の投与とかもこっそりね。
「どうかなー? みんなお元気かしらん?」
馬たちがみんな仲良く飲めるように、大きな木桶に水を張って差し出す。
一番大きなのがさっきまでソフィーさんとわたしが乗っていた白馬。たぶん年齢的にも一番お兄さんだけど、何なら一番元気そう。
この先もみんなを引っ張っていってくださいね。お願いします。
次に大きいのがアークマンが乗っている茶色い馬。顔の中心部分だけが白い子。あ、そっか。キミは白馬の子なのね。
うんうん、キミも元気だね。だけど鼻息荒いなー。初日から気合を入れすぎると、3週間持たないよ? 落ち着いていこうね。
マッツとエデンが乗っているのが中くらいの大きさ。背中が茶色くて4本の足だけ靴下を履いたみたいに白い。双子の子だ。エデンが乗ってたほうの子がちょっと元気ないかも。
どうしたの? ……うん、お腹空いた?
そっかそっか。
干し草でいいかな?
はいはい、たーんとお食べー。って、キミも食べるのね。
双子で仲良く分け合っててえらいね。
最後はスキッピーが乗っていた小っちゃい子。全身灰色でたてがみがすごく長い。
キミは足が短いから、大きな馬と一緒に走るの大変だよね。大丈夫? 疲れてない?
えー、そうなの? 一番体力あるんだ!
がんばれる男の子ってかっこいいね♡
ちょっと、急に顔を舐めないでー。
はいはい、わかったから、興奮しないの……もうやめてー!
ごめんごめん。ううん、怒ってないから。急に大声出してごめんね。
大丈夫大丈夫。キミは強い子なんでしょ? うん、一緒にがんばろうね。
だから顔を舐めるんじゃないって!
ふー、みんなこのあとも元気に走れそうかなー。とりあえず健康状態は良さそう!
「みんな元気みたいですよー」
ソフィーさんのところに戻って軽く報告を入れる。
「ありがとう。アリシアも少し休みなさいね」
「はーい。でもわたし、ソフィーさんの後ろに乗っていただけで、なんなら昼寝もしてたから元気いっぱいですよー」
楽しい冒険のお話も聞かせてもらったし!
「あ、今って地図上だとどの辺ですか? もうけっこう進みましたか?」
ソフィーさんの前に地図を広げてみせる。順調に走ってるし、もしかして半分くらい来ちゃったりとか⁉
「まだまだよ。この辺りかしらね」
ソフィーさんが地図上で指さしたのは、ほとんどガーランドの街だった。ほんのミリレベルで北に移動してるかな? ってくらい……わたしたち進んでる? ソフィーさんの指が太すぎてわからないよ。
「ぜんぜん進んでない……」
「ちなみに日没までにここまで進みたいわね」
いや、指ー!
ぜんぜんわかんないです!
「わたしの馬車のほうが速いのに……」
「旅は移動で苦労して鍛えられていくのよ。仲間と旅をし、絆を深めていく。そうして大人になるものよ」
「そうですかー」
ソフィーさん「めっちゃ良いこと言いました」って顔で反応を伺うのやめてくださいます? わたし、そういうオールドタイプとは違うんですよー。努力は端折って結果だけほしい、みたいな?
「ねえ、アリシア。これを見なさい。この絶妙な距離感」
「はあ……」
ソフィーさんが言っている距離感とは、わたしたちの休憩時の位置取りのことだと思う。わたしとソフィーさん以外は、それぞれの間に会話もなく、ポツンポツンと距離を空けて座っている状況だ。
「これがね、少しずつ縮まっていくのよ。1週間も経ったら肩が触れ合うくらいの距離で笑い合っているのよ」
「そう、なんですね……」
死ぬほどどっちでもいい……。
「私はそれがたまらなく好きなのよ」
ソフィーさんはそう言うと、空を見上げるように大の字になって寝ころんだ。
ふーん。
つまり、その縮まった距離感って……旅が終わるとリセットされるってことですかね。
それってなぜ⁉ 縮める意味あるの⁉
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