第11話 アリシア、ハイピクシーと対話する
「警戒してみんなで固まって移動しましょう」
そう言って、エブリンさんが先頭を歩き出す。
続いてエミリーさんとハイライトさん。その後ろにわたしとハイピクシー。殿はズッキーさんで隊列を組む。
わたしたちはしばらく無言のまま、まっすぐな一本道を進んでいく。
急ごしらえの道ではない。しっかりと踏み固められた地面を見ると、普段から使われているのがわかる。この先が、この洞窟において重要な場所であるのは間違いなさそう。
「ねぇ、あなた何かしゃべれないの? もしかして、言葉が通じてない? そんなわけないよね」
しかたないなー。このままでは埒が明かないから少し揺さぶってみますかー。
「へぇ、あなたネームドキャラなのね。名前はロチェリスマイン?」
「き、貴様なぜそれを!」
「あ、やっとしゃべった。意外と声きれいねー」
ハイピクシーのロチェリスマインが初めて口をきいた。透き通るような高い声。さすが妖精族って感じ?
「言葉通じてるならちゃんと話してよー」
まただんまり。
「ロチェリスマインは恥ずかしがり屋さんなのかな? なるほどなるほど。じゃあ勝手に話しちゃおうかな。ピクシー族ハイピクシー。Lv89なのね。へぇー、INT≪知力≫:250もあるんだ。すっごーい、強い強い♪」
「貴様……何者だ」
「えー、わたし? 入り口でお邪魔する時に名乗ったけどー? アリシア=グリーン10歳です! 仮成人のかわいいかわいい女の子♡ 今はローラーシューズ販促のために『龍神の館』ってお店でプロデュース業なんかをやってるの。そこのオーナーのソフィーさんと従業員の天使ちゃんたちがあなたに捕まって生贄にされそうになっているって聞いて、急いで助けに来たんだけど、どうかな?」
ここまでのあらすじ。
「どう、と言われても……。あの人族の者たちが我らの神聖な祭壇に断りなく足を踏み入れて荒らしたのだ」
「祭壇? それは女神・リンレー様を祭る祭壇のこと?」
「そうだ。我らの一族はリンレー様を崇拝し、リンレー様のために生きる者」
「そっかそっか。女神様を敬うのは大切だよね。わたしもミィシェリア様とマーナヒリン様に毎日お祈りと捧げものをしているから気持ちはわかる」
「貴様は2神を同時に崇拝しているのか」
ロチェリスマインは大きな目をさらに見開き、わたしの顔を覗き込んできた。嫌悪? それとも興味? どちらとも取れない表情だ。
「ダメかな? でも女神様のほうから信徒になってって声をかけてくださったから、加護をいただいてお祈りしているのよ」
「女神の加護、だと……⁉」
ロチェリスマインが驚き過ぎてのけぞる。それ以上見開くと、かわいくて大きなお目目が飛び出ちゃうよ?
「わたし、女神様に愛されているの♡ 将来結婚を約束しているんだから♡」
ミィちゃんと一つ屋根の下でキャッキャしながら楽しい日々を♪ マーちゃんも一緒だったらもっといいな♡
「なんだ気が振れた小娘か……」
「何をー! 完璧に正気です! 妄想じゃないんだからねっ! あなたには見えないの? わたしの体を包んでいる女神様のブレッシングが」
キラキラしているでしょう?
特別に重ね掛けされた祝福の効果は誰にでも見えるはずよ?
「まさか……でもたしかに……」
「見えた? 少しでもわたしのことを信じてくれたなら、そろそろちゃんと話して。わたしの仲間が祭壇に足を踏み入れたのだとしたら、それは誠心誠意謝罪するわ。仲間たちにもそれ相応の謝罪をさせる。でもね、生贄はやり過ぎだと思うの」
「リンレー様は罪に対する罰を。生贄を求められている」
「ホントにそうかしら? 正義の女神・リンレー様。正義と平等を信徒に求める女神様が?」
「そうだ。罪には罰を。リンレー様の祭壇を傷つけた者に死を!」
ロチェリスマインの口から唾が飛ぶ。
ちょっと興奮しないで。
「ねえ、祭壇を傷つけたことに対する平等って死なの? それってなんか違くない?」
それはさすがに重すぎると思うのよね。
「誰か仲間を殺されたなら、命で償えっていうのは、まあ百歩譲ったら納得できなくもないの。でもね、祭壇は命じゃない。正しく作り直すのがホントの平等じゃないかな?」
「黙れ。リンレー様は生贄を望んでいらっしゃる」
うーん。考えが凝り固まっちゃってるね。ぜんぜん話を聞こうとしない。
じゃあ、しかたない。
(マーちゃんお願いできる?)
『任せておくのじゃ』
ありがと♡
わたしは通路の途中で立ち止まって、ロチェリスマインの正面に回る。
「ホントにリンレー様が生贄を望んでいらっしゃるのか、直接聞いてみよっか?」
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