第12話 アリシア、ハイピクシーを泣かせる
わたしは立ち止まり、横を歩いていたハイピクシーのロチェリスマインの顔を覗き込む。
「ホントにリンレー様が生贄を望んでいらっしゃるのかなー? ねぇ、それってホントにホント? 確かめてみたくない? リンレー様に直接聞いてみようよ♪」
「貴様何を言っている……」
「貴様じゃないよ、アリシア。愛の女神・ミィシェリア様と水の女神・マーナヒリン様の敬虔なる信徒、アリシア=グリーンよ♪」
ダブルピース!
いえーい、決まったー!
今のわたし、めっちゃかっこいいのでは⁉
「アリシア……アリシア……」
「そう、アリシアさんですよー。ロチェリスマインはリンレー様とお話したことある?」
「リンレー様とお話、だと? 貴様はいったい何を言っている?」
「だからアリシア! ロチェリスマインは神殿に礼拝しに行ったりしないの? 神殿ではね、誰でも女神様と直接お話しできるんだよ?」
「あれは人族が作ったものだ。我らには関係ない」
ロチェリスマインは少しむっとしたような表情を見せる。
あらら。そういう感じだしちゃう?
「でも人族以外の種族の人もみーんな礼拝してるよ? 神殿を建立したのがどの種族かなんて女神様にお祈りするのに関係ないと思うけどなー」
無言。
まあ、反論はできないよね。女神様が顕現されるということは、神殿が祝福された場所だという証だし。祝福されているなら、誰であっても神殿を訪れて礼拝するのが道理だもん。
「神殿に通って、リンレー様のご神託をいただいたほうが良いと思うけどなー。生贄、ホントに欲しがってるかな? もしかしたら嫌がってるかも?」
「そんなことはない! 我らの一族はこの地でリンレー様に救われた。代々この地に住み、リンレー様に感謝をささげ、敬い奉っているのだ!」
ロチェリスマインは激昂し、わたしにつかみかかってきた。ズッキーさんが寸でのところで割って入ってくれる。
「アリシア。そろそろやりすぎじゃないか?」
ズッキーさんにたしなめられて、ハッとする。
顔を上げて見回してみると、エブリンさんもエミリーさんも不安そうな表情でこちらを見ていた。ハインライトさんは無表情でわからん。
うーん。まあ、ちょっと前置きが長くなり過ぎたかも?
じゃあそろそろ本題に入りますかね。
「OKOK。じゃあ話はここまで。リンレー様に直接お話を伺いましょう! マーちゃん、つないでもらえる?」
『任せておくのじゃ……リンレーは直接そっちに行くと言っているぞよ』
え、マジぃ?
音声だけじゃないの⁉ ま、そのほうが説得力があるかな? じゃあ広い空間のほうがいいかー。急いで移動するからちょっと待ってもらって。
『わかったのじゃ。リンレー少し待つのじゃ』
「あ、えっと。なんかお話だけじゃなくて、こちらに直接いらっしゃるそうなので……。この通路だとさすがに失礼になりそうだし……皆の者、急いで移動だ! ロチェリスマイン、この先にあるのは祭壇ってことでいいのよね?」
「え、は? 直接リンレー様が⁉ 貴様は何を言っている⁉」
ロチェリスマインは状況が理解できず、目を回して倒れそうな勢いだ。しっかり話ししてもらわないと困るのよね……。
「ロチェリスマイン? 時間がないよ? この先にあるのは祭壇か? って、わたしは聞いてるの」
「……あ、ああ。この先が我らの祭壇だ。アリシアの仲間も捕えてある」
「OK。じゃあ全員駆け足!」
そう言ってわたしはロチェリスマインを抱えてローラーシューズで全速力!
「ちょっと、何をあ、あ、あ、ああああああああああああ!」
妖精族がなんて声出してるのよ。
絶叫マシーンに乗ってガラスをひっかいてもそんな高周波でないわよ?
「口閉じてないと舌をかむよ?」
さらに速度を上げて10数秒。
長い長い洞窟の通路を抜け、突然広い空間に飛び出た。
「お、着いたー?」
「その声、アリシアなの⁉」
半径30mほどの円形、天井はドーム状の空間。入口から一番奥のところに、わかりやすく檻が1つ。その中に6人の人影が!
わたしはローラーシューズの速度を落とさずに檻の前へと急行する。
「やったー! ソフィーさーん! 迎えに来ましたよー!」
ソフィーさんとエデンと、それからマッツ、スキッピー、アークマン! えーと、あともう1人は知らないおっさん!
とにかく全員無事だー!
「アリシア、来てくれたの⁉」
「暴君、ありがとう」
「暴君!」「暴君!」とみんなが口々に――。
「ええい、黙れ! お前ら、助けてもらう時くらい、かわいいかわいいアリシアちゃんって呼べよ!」
まったく失礼しちゃうわ。
「暴君……」
「ロチェリスマイン、次にその名で呼んだら、マジで気絶するまで殴るよ?」
「なぜだ。わ、我だけ理不尽ではないか⁉」
ロチェリスマインはわたしに抱えられたまま、恐怖におびえた顔で小刻みに震えている。
「冗談よ。なーんだ、そんなかわいい表情もできるのね。ちょっとそそるかも♡」
ピクシーのお株を奪ってわたしがいたずらしちゃおっかなー♪
「アリシア、そいつは……」
と、ソフィーさんがロチェリスマインを指さす。
「そうよ、ハイピクシーのロチェリスマイン。魔力封印の檻に閉じ込めてあるからもう何にもできないよー。今はねー、わたしのお・も・ちゃ♡」
「ひぃ!」
ふふ。恐怖におびえるロチェリスマイン。かわいい♡
「アリシア……さすがね……」
ソフィーさんは安堵したように大きく息を吐くと、その場にゆっくりと腰を下ろした。エデンがソフィーさんとわたしの顔を何度も行ったり来たりして見ていた。
「アリシアさん……あなた……速すぎますわ……」
息を切らせながらエミリーさんが到着。ほかの3人はまだ姿も見えない。
「エミリーさん1番でゴール! あ、紹介します。これがわたしのお店の人たち。こっちがエミリーさん。ギルドの救援依頼を受けてここまで同行してくれた≪銀の風≫のメンバーです!」
お互いに挨拶などしてもらう。
「いや、待って。挨拶もいいんだけど、その前にロチェリスマイン! この牢屋の鍵開けてよ!」
ロチェリスマインを立たせて牢屋の前に押し出す。
「え、我……今は魔力が封印されていて……」
何、魔力が封印されてると鍵も開けられないの? つっかえないなあ。
「んじゃ、仲間のピクシーは? さっさと呼んでよ」
「我、魔力が使えないと……その……」
「魔力が使えないと仲間も呼べないの? もしかして今ボッチ?」
「我は……ふえええええええええん」
ロチェリスマインはその場でへたり込んで泣き出してしまった。
「ええ⁉ いきなり泣かないでよ! 魔力がないと何もできないのはわかったからさ……」
「暴君がハイピクシーを泣かせた……」
エデンがぼそりとつぶやく。
ちょ、今のはわたしが悪いわけじゃ!
「あー、エミリーさん! 宝箱解除の要領で開けられたりしませんか?」
「え、ええ。たぶん開けられると思いますわ」
おお、お願いします!
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