第13話 アリシア、リンレー様をお迎えする
エミリーさんがなんなく牢屋の鍵を開けて6人を解放する。
「あー、良かった。一応聞くけど、みんな無事ね? ケガしたりしてる人は?」
あらためて全員の顔色などを確認。……1人知らないおっさんだなー。ホント誰?
「暴君ありがとう」「暴君助かったよ」「「暴君! 暴君!」」
と、相変わらずいつもの軽口が叩けるくらいには元気そう。ついさっきまで生贄にされそうになっていたとは思えない余裕さ……。さてはお前たち、実は自力で逃げ出せたな⁉
「だまらっしゃい! 生贄はおとなしく捧げられてろ! あ、エミリーさん、鍵開けありがとうございます!」
エミリーさんに頭を下げていると、
「アリシアさ~ん!」
エブリンさん、ズッキーさん、少し遅れてハインライトさんが入り口から入ってくるのが見えた。
「こっちですよー!」
わたしは手を振って合図する。
これで全員揃ったね。
「えーと、一応祭壇がいいのかな。女神様を神殿以外でお迎えする作法がちょっとわかってないけど。ねぇ、ロチェリスマイン。祭壇はどこなの?」
見回してみてもこの空間にあるのはさっきまでソフィーさんたちが捕らわれていた牢屋だけ。祭壇らしきものは何も見当たらなかった。
「ぐすん……そこよ」
ロチェリスマインはまだ座り込んでべそをかいたまま、牢屋の隣を指さしていた。
「どこよ?……え、もしかして、ここのちょっと土が盛ってあるところ? これが祭壇?」
しょっぼっ!
ピッチャーのマウンドのほうがまだ土がちゃんと盛ってあるわよ?
「ねぇ、まさかと思うけど、この盛り土の上にソフィーさんたちが登ったから怒ってるの?」
「そうよ! 神聖な祭壇に土足で上がるなんてひどすぎるのだ!」
そう言って、ロチェリスマインはソフィーさんたちをにらみつける。
なんかちょっと不憫に思えてきた……。
「あ、うん。……たぶん、わたしたちが知っている祭壇と違い過ぎて……気づかなかったんだと思う。なんかごめんね」
ソフィーさんたちから事情聴取。
でもまあ、わたしが想像した話とほぼ一緒だった。
ソフィーさんたち一行は、王都でミレンテ山脈の頂上付近に雪女族の目撃情報があるらしいといううわさを耳にしてやってきた。
登山の途中でピクシー族と出会い、まあ、普通に歓待されたんだね。闇妖精なんて呼ばれているけれど、あまり他種族との交流がないことと、生贄なんていうちょっと過激な風習が誇張されて伝わっているから、過度に恐れられているだけなのかもしれない。
ピクシーたちから聞いた話によると、普段生贄として捧げているのは、自分たちが食べる食事と同量の肉や野草などらしい。ねぇ、それって生贄って言わなくない? ただのお供え物……。どこかで事実がねじ曲がって伝わったのかなー。
「で、ソフィーさんが酔っぱらって祭壇の上で踊った、と……」
「めんぼくないわ……」
ソフィーさんが背中を丸めて頭を下げた。
いや、もうなんか、生贄にでもなればいいんじゃないですかね? どう考えてもソフィーさんが100 億%悪いよ。
「わかりましたわかりました。ロチェリスマイン、なんかホントごめんね。あの人が全部悪いです。せめてものお詫びに、祭壇をきれいにするからちょっと待ってて」
まだべそをかいているロチェリスマインを横目に、祭壇……のような盛り土に近づく。
さすがになー。
こんな質素な祭壇で祭られるリンレー様もかわいそうかも。
祭壇と言えば……やっぱり金で創らないとだよね♪
ここは広いし、超でかいのを作ろう!
アイテム収納ボックスに集めておいたありったけの金を使ってー。わたしの部屋にある金の祭壇の10倍くらい大きいのを作っちゃおう♪ ピクシー50人もいるんだもん。お供えもいっぱいするだろうし!
MP回復ポーションを4本も消費して、めいっぱい豪華な純金製の祭壇を完成させた。
「ロチェリスマイン、祭壇できたよ!」
まだ半泣き状態のロチェリスマインを無理やり引きずって、牢屋の後ろの新しい祭壇までやってくる。
「きれい……。これは……夢?」
ロチェリスマインはうっとりした様子で祭壇を眺めている。でもなぜか全身が小刻みにプルプル震えていた。
「何でずっとプルプル震えてるの? なになに? ピクシーってバイブレーション機能でも付いてるの?」
「これは何? きれいにピカピカ光っているけれど、ちょっとお目目が痛いの……」
わたしの質問はまるで無視。
祭壇に目も心も奪われている様子。
「ロチェリスマインって、この山から出たことないんだっけ? これは『金』っていう鉱物で、まあ、山にある岩から採れるんだけどね」
「しゅごぉい。金ってきれい……」
なんか「我はロチェリスマインだ」とか言ってた、キリッとした『ピクシーの長』っぽい振る舞いの人はどこいった? もう見た目も中身もただの褐色ロリっ娘じゃないのよ……。
「ほらほら、お供え物、こっちで適当に用意するから跪いてリンレー様をお迎えしよう?」
「あわわわわ。ついにリンレー様がお姿を現されるのね! どうしようどうしよう⁉」
ロチェリスマインはあっちにいったりこっちにいったり、焦りすぎて自分が何をしているのかわからなくなっている様子だ。
「ロチェリスマイン、お座り!」
後ろから捕まえて、力づくで座らせる。
このままあわてんぼうのハイピクシーに付き合っていたら埒が明かないものね。
「ほかのみんなも、リンレー様がお姿を現されるから、祭壇の前にー!」
お酒やら、鳥料理やら、祭壇に並べられるだけ捧げ物を用意してからわたしも跪く。
(準備できました。マーちゃんお願いします!)
『うむ。リンレー、頼むぞよ』
マーちゃんの声がわたしの脳内に響いた直後、祭壇のちょうど真上辺りの空間がゆがみ、まばゆい光を放ちだす。
しばらくして、空間からあふれ出た光が収束しながら、ゆっくりと祭壇の前へと降りてきた。
光が消えて姿を現したのは長身の美女だった。
ロチェリスマインと同じように浅黒い肌の美女。それが、今にもベリーダンスでも踊りだしそうなへそ出しの衣装を身にまとい、ダブルピースでばっちりポーズを決めていた。
これが女神・リンレー様……?
「いえ~い☆ あーしが女神・リンレーだぉ。みんな、よろしくネ♡」
ええ……。思ってた女神様と違う……。
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